商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10068号の判決、商標「O!OiMAIN」の判例で、商標「」と類似するか、争われました。
判決文は、こちら。
商標専門の弁理士の筆者が、今回の判例を、分かりやすく解説します。
本記事を読めば、著名商標のマルイのロゴ商標が、広く保護されたことが、分かります。
また、「造語+平易な英単語」の商標について、どのような商標と類似する可能性があるか、学べます。
事件の概要
本件の被告は、以下の商標を日本で出願しました。
指定商品は、「被服」や「かばん類」などです。
特許庁の審査を無事に通過して、商標登録になりましたが、この商標登録に不満を抱いたのが、原告の丸井グループです。
丸井グループは、以下のような商標登録を保有しています。
丸井グループは、「O!OiMAIN」の商標登録に対して、無効審判を請求しました。
丸井グループは、商標「O!OiMAIN」が、自己の登録商標に類似しているとして、主張しました。
しかし、丸井グループの主張は認められず、商標登録を維持する旨の審決が下されました。
この審決に不服のある原告(丸井グループ)が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。
裁判所の判断
あなたは、本願商標「O!OiMAIN」が、マルイのロゴ商標「」と類似していると思いますか?
結論としては、裁判所は、特許庁・審判での判断を覆し、無効審判の審決を取り消しました。
つまり、裁判所では、本願商標「O!OiMAIN」が、マルイのロゴ商標「」と類似すると判断しました。
以下、裁判所の判断について、詳しく紹介していきます。
マルイのロゴ商標が著名
裁判所は、マルイのロゴ商標の著名性に関連して、以下の事実を示しています。
- 昭和48年頃から、グループのハウスマークとし、店舗の看板やウェブサ イト等にロゴ商標を使用
- 令和3年4月時点の店舗数は全国23店舗
- 令和3年3月期のグループの総売上高は2兆9192億3100万円
- 令和3年3月期のグループの売上収益は2208億3200万円
このような事実から、マルイのロゴ商標が著名だと、裁判所は認定しています。
本願商標から「O!Oi」部分が、分離して認識される
以下の2つの理由から、本願商標の「O!Oi」部分は、識別力(他社の商品と区別するための力)が強いと判断しました。
一方、本願商標の「MAIN」部分は、「O!Oi」部分と比較して、識別力が弱いと判断しました。
以上より、本願商標から「O!Oi」部分が、分離して認識されると裁判所は判断しました。
本願商標は、マルイのロゴ商標と類似する
裁判所は、本願商標の主要部分「O!Oi」が、マルイのロゴ商標と類似するか、検討しています。
なお、外観(見た目)・称呼(読み)・観念(意味合い)の3点を比較して、商標が類似するか、判断します。
① 外観(見た目)の比較
取引者・需要者が、本願商標の「O!Oi」部分を見たら、これがマルイの商標「〇|〇|」 と実質的に変わりないものと認識するとのことです。
よって、両者は、外観上、極めて相紛らわしいと、判断しました。
② 称呼(読み)の比較
マルイのロゴ商標からは、「マルイ」の称呼が生じます。
一方、外観上、極めて相紛らわしいことを踏まえると、本願商標の「O!Oi」部分からも、「マルイ」の称呼が生じ得るとのことです。
③ 観念(意味合い)の比較
マルイのロゴ商標からは、「丸井又はマルイのロゴマーク」との観念が生じます。
一方、外観上、極めて相紛らわしいので、本願商標の「O!Oi」部分からも、同様の観念が生じ得るとのことです。
④まとめ(本願商標とマルイのロゴ商標は類似する)
外観(見た目)・称呼(読み)・観念(意味合い)の3点を比較し、本願商標の主要部分「O!Oi」が、マルイのロゴ商標と類似するとのことです。
よって、本願商標がマルイのロゴ商標に類似すると、裁判所は判断しました。
判例から学べること
今回の判例から、以下のことが、学べます。
- 著名商標には、十分に注意すること!
- 「造語+平易な英単語」の商標だと、造語部分が分離して認識される可能性あり!
著名商標には、十分に注意すること!
著名商標(誰もが知っている商標)は、通常の商標に比べて、広く保護されます。
例えば、以下のような商標が、特許庁の審査で、著名商標と類似していると判断されて、拒絶されました。
- 出願商標「」が、著名商標「」と類似
- 出願商標「」が、著名商標「」と類似
- 出願商標「JETきりん」が、著名商標「」と類似
本件でも、マルイのロゴ商標の著名性が、商標の類否判断に、大きく影響しました。
商品名・サービス名や社名を決める際、著名商標を避けることが重要です!
「造語+平易な英単語」の商標だと、造語部分が分離して認識される可能性あり!
商標「O!OiMAIN」は、造語(O!Oi)と平易な英単語(MAIN)の組み合わせです。
商標「O!OiMAIN」から「O!Oi」部分が、分離して認識されると、裁判所は判断しました。
その結果、「O!Oi」部分と類似する先行商標「」をもとに、無効審判の審決を取り消しました。
例えば、以下のようなケースでは、本件と同様に、判断しました。
- 商標「ベビーモンシュシュ」が、商標「」と類似
- 商標「オルガノサイエンス」が、商標「オルガノ」と類似
- 商標「スーパーアクロン」が、商標「AKULON」(アクロン)と類似
「造語+平易な英単語」の商標を商標出願する前に、造語部分に類似する先行商標がないか、チェックしましょう!
本件と類似する参考判例(商標「5252byO!Oi」VSマルイのロゴ商標)
本件の被告は、以下の商標登録も、取得していました。
この商標登録に対しても、丸井グループは、無効審判を請求しました。
こちらも、裁判所まで争った結果、マルイのロゴ商標「」と類似すると判断されました。
詳しくは、以下の記事で紹介しています。
・登録商標「O!OiMAIN」が、マルイの著名商標「」と類似すると、裁判所は判断しました
・著名商標は広く保護されるので、ネーミングの際には、著名商標を避けることが重要です!
・「造語+平易な英単語」の商標の場合、造語部分が分離して認識される可能性があることに、留意しましょう!