ビジネス上、店名は、とても重要です。
しかし、多くの事業者は、商標登録の制度を知らず、また、商標登録のやり方を知りません。
その結果、店名を商標登録をしていない事業者も、多いです。
筆者は、12年以上、商標専門の弁理士として、働いてきて、店名に関する多数の商標登録をお手伝いしました。
この記事を読めば、店名の商標登録のやり方や費用を教えます。
さらに、店名の商標登録の必要性や商標登録しないリスクも、分かります。
店名は「商標」に該当する
商標とは、「事業者が、自分の取り扱う商品・サービスを他人のものと区別するために使用するマーク(識別標識)」です。
つまり、他人の商品・サービスで区別するマークになれば、「商標」に該当します。
店名を見れば、他人の商品・サービスと区別でき、その人の商品・サービスだと認識できます。
よって、店名は、「商標」に該当します。
文字以外は、商標登録できないんですか?
文字以外にも、ロゴや図形でも商標登録できます。例えば、店名をロゴで表示している場合、ロゴでの商標登録を検討しましょう!
店名を商標登録するメリット
事業を行う上で、商標登録は必須ではありません。
しかし、店名の商標登録を取得することで、様々なメリットが得られます。
店名を商標登録する代表的なメリットは、以下の通りです。
- 独占的に登録商標を使用できる
- 同一・類似の商標の使用に対して、権利侵害を主張できる
- フランチャイズ展開した際に、商標登録が役に立つ
特許庁の審査を通過して、商標登録できれば、登録商標(店名)を独占的に使用できます。
商標登録した事業分野において、他人は、登録商標、及び、それに類似する商標を、原則、使用できません。
商標登録を取得できれば、商標権の侵害を主張できます。
例えば、同一の事業分野において、同一もしくは類似の商標を他人に使用されたとします。
その場合、自己の商標権に基づき、商標の使用の中止を要求できます。
さらに、損害が生じていれば、商標権に基づき、損害賠償を請求できます。
フランチャイズ展開する場合、加盟店と契約を結びます。
その際に、商標登録があると、役に立ちます。
商標登録があれば、加盟店に自分の店名を使用させるための基盤となる「権利」になります。
店名を商標登録しない場合のリスク
店名を商標登録していないと、商標トラブルのリスクを負います。
店名を商標登録しない場合の代表的なリスクは、以下の3つです。
- 他人に模倣されるリスク
- 権利侵害で訴えられて、使用できなくなるリスク
- フランチャイズ加盟店に商標登録を取得されるリスク
商標登録しないと、競合他社に模倣されるリスクがあります。
ビジネスが軌道にのって、店名が多くの人の目につくようになると、模倣されるリスクが高まります。
模倣されることで、自分の利益を奪われるだけではなく、勘違いしたお客様の信頼も失い、迷惑を掛ける危険性があります。
知らないうちに他社の登録商標と同一または類似の商標を使用して、商標権を侵害している危険性があります。
最悪のケースだと、店名の変更に追い込まれる危険性があり、実際、商標権侵害で、店名を変更した事案もあります。
商標権侵害で、店名を変更すると、例えば、以下のような事態が想定されます。
- 店名を変更することで、売り上げが落ちる
- 権利者に損害賠償金を支払う
- 包装紙やチラシの修正などで、多大なコストが掛かる
- 他社を真似したという悪評が、インターネット上で、広まる
フランチャイズ加盟店が、勝手に、商標登録を取得することが多々あります。
実際にあった事件では、加盟店に商標登録を取得されたため、フランチャイズ本部が店名の変更に追い込まれました。
店名の商標登録の必要性が高まるケース
商標登録は、原則、「早い者勝ち」です。
できれば、名称を公開する前に、商標出願するのが望ましいです。
しかし、開業した際には、忙しく、実際には、商標出願まで、手が回らないことが多いです。
ただ、以下のようなタイミングを迎えたら、店名の商標登録の必要性が高まるので、改めて、商標出願を検討しましょう。
- 2号店を出す時、全国展開する時
- テレビや雑誌などのメディアに露出する時
- フランチャイズ展開する時
2号店を出したり、全国展開することで、新規のお客様が増加します。
他人に模倣されたり、勝手に商標出願されたりするリスクが高まります。
テレビや雑誌などで紹介されると、多くの人が店名を目にします。
その中には、悪い人もいて、勝手に商標出願されるかもしれません。
フランチャイズ展開して、加盟者と契約する際に、商標登録を利用できます。
また、商標登録していないと、フランチャイズ加盟者に商標登録を取得される危険性があります。
フランチャイズ加盟店とトラブルになるケースも多いので、きちんと商標登録するのが重要です!
店名の商標登録をするための区分
いざ、商標登録しようとして、多くの人が迷うのが、商標登録する「区分」です。
区分とは、「商品・役務(サービス)の属するカテゴリー」です。
区分は、1類~45類の計45個あり、事業内容に応じて、商標登録する区分を決定します。
お客様に商標出願のご依頼を頂いたら、入念にヒアリングして、十分に検討・相談した上で、商標登録する区分を決めています!
なお、商標登録する区分の決め方については、詳しくは、以下の記事でも紹介しています。
【店名の商標登録】商標登録する区分の決め方!35類~45類が、サービスに関する区分です。
何らかのサービスを提供しているのは、これらの区分から選びましょう。
いくつか、具体例を出しながら、商標登録すべき区分を説明します。
飲食店の場合
「飲食物の提供」などが属する43類で、商標登録すべきです。
例えば、以下の飲食店の店名は、43類で商標登録しています。
クリーニング店の場合
「洗濯」や「被服のプレス」が属する37類で、商標登録すべきです。
例えば、以下のクリーニング店の店名は、37類で商標登録しています。
- (商登第3170227号)
- ポニークリーニング(商登第5725671号)
美容院の場合
「散髪」、「頭髪の染毛」や「美容」が属する44類で、商標登録すべきです。
例えば、以下の美容院の店名は、44類で商標登録しています。
1類~34類が、商品に関する区分です。
自分の商品を販売しているのは、これらの区分から選びましょう。
例えば、パン屋の場合は、「パン」が属する30類で商標登録すべきです。
また、洋服を販売している場合には、「洋服」や「被服」が属する25類で商標登録すべきです。
あらゆる商品の小売業・卸売業が、35類に該当します。
よって、他者の商品を販売している場合、35類での商標登録すべきです。
例えば、スーパーやコンビニなどの小売店の店名であれば、35類で商標登録します。
実際、以下のようなスーパーの店名は、35類で商標登録しています。
- まいばすけっと(商登第5168772号)
- (商登第6541059号)
- (商登第6481118号)
なお、35類の小売等役務については、以下の記事で詳しく紹介しています。
商標法上の「小売等役務」の概要など、分かりやすく紹介!店名の商標登録での区分選びの注意点
店名の商標登録をお手伝いすると、お客様が間違えやすい点があります。
代表的な注意点は、2つ紹介します。
商品とサービスの区分、どちらにも該当することがあります。
例えば、マクドナルドなど、テイクアウトも行う飲食店の場合です。
店内で飲食できるので、サービスの区分の43類(「飲食物の提供」など)で商標登録すべきです。
一方、テイクアウトして、店外で飲食することもできます。
商品の販売にも該当するので、商品の区分の30類(ハンバーガー)などでも商標登録すべきです。
1件の商標登録で、複数の区分をカバーできるんですね
1件の商標登録で、複数の区分をカバーできます。ただし、区分数が増えれば、その分、商標登録に掛かる費用も増加します
看板やチラシに店名を書くことがあります。
その場合、商品「金属製立て看板」や「印刷物」を商標登録でカバーすべきでしょうか?
答えは、商標登録でカバーする必要がありません。
「看板」や「印刷物」を販売しているわけではないからです。
実際、多くのお客様が勘違いしていた点なので、要注意です!
店名の商標登録に掛かる費用
店名を商標登録する場合でも、商品・サービス名などを登録する通常の場合と同額です。
ざっくりと言えば、①出願時と②登録時に、費用が掛かります。
なお、詳細については、以下の記事で紹介しています。
【店名の商標登録の費用】概算、相場や節約方法を紹介!自分で商標出願した場合でも、特許庁に支払う印紙代が、掛かります。
以下の通り、印紙代は、区分(商品・サービスのカテゴリー)の数で、決まります。
1区分目:12,000円
追加1区分あたり:8,600円
また、弁理士に商標出願を依頼すると、弁理士の手数料も掛かります。
ちなみに、筆者の事務所(すみや商標知財事務所)の場合、以下の通りです。
1区分目:50,000円(税抜)
追加1区分あたり:30,000円(税抜)
登録時にも、特許庁に支払う印紙代が掛かります。
なお、登録料の納付方法は、10年分一括と5年分分割を選ぶことができ、印紙代は、各々、以下の通りです。
10年分一括(10年分の費用):32,900円(1区分あたり)
5年分分割(5年分の費用):17,200円(1区分あたり)
また、弁理士が商標出願を代理している場合、弁理士の手数料も掛かります。
ちなみに、筆者の事務所(すみや商標知財事務所)の場合、区分の数に関係なく、30,000円(税抜)です。
店名を商標登録したければ、まずは先行商標を検索!
店名を商標登録したければ、まずは先行商標を検索しましょう。
先行商標を検索するには、データベース「J-PlatPat」を利用します。
先行商標の検索方法や注意点については、以下の記事で詳しく紹介しています。
【店名の商標登録】検索のやり方や注意点を紹介!なお、自分では、正確に検索できなかった、もしくは、商標が類似するか、判断に迷った場合には、商標専門の弁理士に相談しましょう。
筆者(すみや商標知財事務所)にご依頼いただければ、代わりに、商標調査して、商標登録の可能性をお知らせします。
多数の商標調査の経験あり
店名の商標登録のやり方
店名を商標登録するには、商標出願の願書を特許庁に提出します。
知的財産・支援ポータルサイトにおいて、願書の様式をダウンロードできます。
例えば、筆者が、「ABC」という名前のフランス料理をオープンするとします。
筆者の個人の名義で、飲食事業において、「ABC」という名称を商標登録したいと考えました。
その場合、商標出願の願書を、例えば、以下のように記載します。
店名の商標登録のやり方について、詳しくは、以下の記事でも、紹介してます。
【店名の商標登録のやり方】分かりやすく解説!なお、自分(自社)で商標出願する時間・手間を省きたければ、商標専門の弁理士に商標出願を依頼しましょう!
業界では珍しい「商標専門」の弁理士
店名が商標登録できないケース
店名を商標登録するために、特許庁の審査を通過する必要があります。
以下のようなケースだと、商標登録できない可能性が高いので、要注意です。
商標の世界は、「早い者勝ち」で、先に商標出願した人が優先されます。
同一の分野において、同一もしくは類似の商標登録があれば、商標登録できません。
商標登録している商品・サービスの分野が異なれば、原則、商標登録が問題となることはありません
ありふれた氏(苗字)の店名も、商標登録できません。
例えば、以下のラーメン屋の店名は、特許庁の審査において、拒絶されています。
- (商願第2017-070385号)
- (商願第2015-43815号)
- (商願第2002-073616号)
地名を含んだ店名も、商標登録できない危険性があります。
例えば、以下の歯医者の店名(病院名)は、特許庁の審査において、拒絶されています。
- 静岡歯科(商願第2020-80139号)
- 恵比寿・広尾 歯科(商願第2015-78474号)
- 御茶の水歯科(商願第2015-89384号)
- 西小倉駅前歯科(商願第2019-28871号)
業界内で多用されている名称も、誰の商標か、区別できないので、商標登録できません。
商標審査基準によると、例えば、スナックの店名として、以下の名称は、商標登録できません。
- さくら
- 愛
- 純
- ゆき
- ひまわり
- 蘭
また、喫茶店の店名として、以下の名称は、商標登録できません。
- オリーブ
- フレンド
- ひまわり
- たんぽぽ
店名の商標登録で分からなければ、商標専門の弁理士に相談!
店名を商標登録しようとした際、分からないことも出てくるでしょう。
分からないことがあれば、商標専門の弁理士に相談しましょう。
筆者(すみや商標知財事務所)にご相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士
・店名の商標登録を取得すれば、独占的に登録商標を使用でき、また、他人の模倣を排除できます。さらに、フランチャイズ展開した際、商標登録が役に立ちます
・2号店を出す、メディアに露出する、もしくは、フランチャイズ展開する場合、商標登録の必要性が高まります。このようなタイミングを迎えたら、積極的に商標出願を検討しましょう
・商標登録する区分を正確に判断するのが、重要です。十分に検討した上で、商標登録する区分を決めたら、商標出願の願書を記載して、特許庁に提出しましょう