・登録商標「」と「」が類似するかが争われて、裁判所は、両商標が類似すると判断しました
・登録商標「ゲンコツメンチ」の裁判例とは判断が異なるので、両者を比較してみましょう
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の平成29年(行ケ)第10169号の判決、「ゲンコツコロッケ」商標の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
被告であるローソン社は、「穀物の加工品」や「穀物の加工品を主材とする調理済み惣菜」などを指定商品とする、以下の商標登録を保有していました。
これに対して、原告は、以下の商標登録を保有しています。
原告は、自己の商標登録に基づき、被告の商標登録に対して無効審判を請求しました。
特許庁では一部の指定商品の取り消しは認められましたが、一方で、原告の登録商標と被告の登録商標は類似しないと判断して、一部の指定商品を維持する旨の審決が下されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。
裁判所の判断
あなたは、原告の登録商標「」と被告の登録商標「」が類似していると思いますか?
つまり、被告の登録商標「」から「ゲンコツ」部分が分離・抽出して認識されるでしょうか?
結論から言えば、両商標が類似していると裁判所は判断しました。
本件の訴訟において争われている指定商品は、いずれも「コロッケ入り」の食品になります。
よって、被告の登録商標「」のうち、「コロッケ」部分は、指定商品の原材料を意味し、識別力がかなり低いと判断しました。
一方、「ゲンコツ」の語は、ゴツゴツした形状や大きさがにぎりこぶし程度であることを意味します。
よって、「ゲンコツコロッケ」からは、「ゴツゴツした、にぎりこぶし大のコロッケ」との観念も生じ得ますが、常にそのような観念が生ずるとまではいえないと判断しています。
また、被告の登録商標に係る指定商品の原材料である「コロッケ」は、必ずしも、ゴツゴツしたもの、にぎりこぶし大のものに限定されないとのことです。
よって、被告の登録商標中の「ゲンコツ」は、「コロッケ」よりも識別力が高く、需要者に対して強く支配的な印象を与えます。
以上より、被告の登録商標の要部は「ゲンコツ」の部分なので、両商標は、類似すると裁判所が判断しました。
判例から学べること
いわゆる結合商標から一部分が分離・抽出して認識されるか否か、本件では争点になっています。
なお、ローソン社の登録商標「ゲンコツメンチ」の判例においては、反対の結論が出ていますので、比べてみてください。
「コロッケ」と「メンチ」の違いで結論が相違して、商標業務の判断の難しさを痛感させられます。