・登録商標「ゲンコツメンチ」と「ゲンコツ」が類似するかが争われて、裁判所は、両商標が類似しないと判断しました
・登録商標「」の裁判例とは判断が異なるので、両者を比較してみましょう
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の平成28年(行ケ)第10164号の判決、「ゲンコツメンチ」商標の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
被告であるローソン社は、「メンチカツを材料として用いたパン」などを指定商品とする、以下の標準文字の商標登録を保有していました。
これに対して、原告は、以下の商標登録を保有しています。
原告は、自己の商標登録に基づき、被告の商標登録に対して無効審判を請求しました。
特許庁では、原告の登録商標と被告の登録商標は類似しないと判断して、被告の商標登録を維持する旨の審決が下されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。
裁判所の判断
あなたは、原告の登録商標「ゲンコツ」と被告の登録商標「ゲンコツメンチ」が類似していると思いますか?
つまり、被告の登録商標「ゲンコツメンチ」から「ゲンコツ」部分が分離・抽出して認識されるでしょうか?
結論から言えば、両商標が類似していないと裁判所は判断しました。
被告の登録商標「ゲンコツメンチ」は、標準文字の片仮名7文字を一連に記載しています。
よって、登録商標「ゲンコツメンチ」は、同じ書体・大きさ及び間隔で、一体的に表記された外観で、また、称呼(読み)も「ゲンコツメンチ」一連で生じると判断しています。
また、登録商標「ゲンコツメンチ」から、「にぎりこぶしのような大きさで、丸みと厚みがある形状の、挽肉を原材料とした加工食品」といった意味合いが生じます。
さらに、「メンチ」の語は、「メンチカツ」を表す名詞として、全国の取引者・需要者に、それほど普及しているとはいえないと裁判所が判断しました。
よって、登録商標「ゲンコツメンチ」の「メンチ」の文字部分から、出所識別標識としての称呼・観念が生じないともいえないとのことです。
以上より、登録商標「ゲンコツメンチ」は、その外観・称呼及び観念のいずれの点においても、登録商標「ゲンコツ」と相違し、取引の実情を考慮しても、登録商標「ゲンコツ」とは類似しないと裁判所は判断しました。
判例から学べること
いわゆる結合商標から一部分が分離・抽出して認識されるか否か、本件では争点になっています。
なお、ローソン社の登録商標「」の判例においては、反対の結論が出ていますので、比べてみてください。
「メンチ」と「コロッケ」の違いで結論が相違して、商標業務の判断の難しさを痛感させられます。