・「マツモトキヨシ」の音商標について、他人の氏名を含む商標の登録を禁ずる商標法4条1項8号を適用するか否か、問題となりました
・裁判所は、商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標に当たらないと判断しました
・「マツモトキヨシ」の全国的な著名性が、このような例外的な裁判所の判断に、大きく影響したものと考えます
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和2年(行ケ)第10126号の判決、「マツモトキヨシ」の音商標の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
原告は、35類と44類の役務を指定して、以下の「マツモトキヨシ」の音商標を出願しました。
なお、以下のURLから特許庁データベースにアクセスすれば、出願された音商標を聴くことができます。
これに対して、特許庁では、他人の氏名を含む商標であるとして、商標法4条1項8号を根拠に、商標出願は拒絶されました。
拒絶査定に対して不服審判を請求しましたが、判断が覆らずに、商標出願を拒絶すべき旨の審決が下されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。
裁判所の判断
他人の氏名を含む商標の登録を禁ずる商標法4条1項8号は、人格的利益の保護を目的としていると解されています。
例えば、あなたの氏名を含んだ商標が、勝手に商標登録になったら、どう思いますか?
あなたの人格的な利益を害する危険性があるので、そのような出願商標を排除するために規定が設けられています。
確かに、「松本清」、「松本潔」、「松本清司」などの「マツモトキヨシ」さんが、日本国内に存在することが想像できます。
しかし、裁判所では、拒絶審決を取り消すべき旨の判断を下しました。
ドラッグストア「マツモトキヨシ」は、全国的に事業を展開していて、テレビCMも頻繁に放映しています。
このような事情から、「マツモトキヨシ」の表示は、原告又は原告のグループ会社を示すものとして全国的に著名であると裁判所は判断しました。
また、テレビCMや「マツモトキヨシ」の店舗内で流れていることから、本件の音商標は、日本国内に広く知れ渡っています。
現状を考慮すると、本願商標から連想・想起するのは、ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」などであると裁判所は考えました。
つまり、本願商標から、「松本清」、「松本潔」、「松本清司」等の人の氏名を連想・想起しないと判断しました。
よって、本願商標は、商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標に当たらないと結論付けました。
判例から学べること
実際には、人格的な利益を保護するため、商標法4条1項8号の規定は厳格に判断されます。
商標の実務上、このような事例で、商標登録にすることは、かなり難しいです。
本件では、「マツモトキヨシ」の全国的な著名性が、大きく判断に影響を与えたものと推測します。
あくまでも例外的な事例になりますが、裁判所では、個別具体的に事案を検討していることが分かります。