商標「招福巻」事件の判例紹介

まとめ

・いわゆる、「普通名称化」が争点になった判例になります

・「招福巻」は登録商標ですが、裁判所は、「招福巻」が普通名称に該当するとして、商標権の効力が及ばないと判断しました

・商標登録後には、🄬を付けるといった「普通名称化」の防止策を講じましょう

商標「招福巻」事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、大阪高等裁判所の平成20年(ネ)第2836号の判決、「招福巻」事件の判例を紹介します。

判決文は、こちら

まず、事件の概要を説明します。

被控訴人(原告)は、「すし」などを指定商品とする以下の「招福巻」の商標登録を保有していました。

商登第2033007号

これに対して、控訴人(被告)のイオン株式会社は、ジャスコ各店舗において、節分用の巻き寿司のパッケージに「十二単の招福巻」と付して、販売しました。

被控訴人(原告)は、大阪地方裁判所に訴訟を提起して、自己の商標権の侵害を主張し、被告行為の差し止めと損害賠償を請求しました。

原審においては、被控訴人(原告)の請求のうち、被告行為の差し止め請求については、全部、認められて、金銭請求についても、一部、容認されました。

この判決に不服のある控訴人(被告)が、大阪高等裁判所に控訴したのが、本件になります。

商標「招福巻」事件の裁判所の判断

まず、「十二単の招福巻」が、登録商標「招福巻」と類似するか、裁判所は検討しました。

「十二単の招福巻」中の「十二単の」部分は、巻き寿司に12種類の具材が入っていることを示す記述的説明に過ぎないとのことです。

よって、「十二単の招福巻」で全体として一連一体のものとみることはできず、消費者が「招福巻」の部分に着目するので、登録商標「招福巻」と「十二単の招福巻」が類似すると判断しました

ここで、争点になったのは、「招福巻」が普通名称に該当するか否かです。

商標法26条において、商標権の効力が及ばない範囲を規定していて、同条1項2号において、以下の通り、普通名称については、商標権の効力が及ばない旨、定めています。

当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、(省略)を普通に用いられる方法で表示する商標

あなたは、「招福巻」が普通名称に該当すると思いますか?

結論から言えば、裁判所は、「招福巻」が普通名称に該当するとして、被控訴人(原告)の商標権の効力が及ばず、権利侵害に該当しないと判断しました

「招福」は「福を招く」を名詞化したもので、節分に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習の普及と相まって、「招福巻」は、節分などの目出度い行事に供される巻き寿司と一般人に認識されるとのことです。

「招福巻」の商標登録を知らない需要者が、「招福巻」の文字を目にすると、特定の業者が提供するものではなく、一般にそのような意味づけを持つ寿司が出回っていると理解してしまうとのことです。

また、遅くとも平成17年以降は、極めて多くのスーパー マーケットで「招福巻」の商品名が用いられているとのことです。

さらに、それより早い平成16年の時点で、全国に多数の店舗を展開するダイエーのチラシに「招福巻」なる名称の巻き寿司の商品広告が掲載されていたとのことです。

よって、「招福巻」は、巻き寿司の一態様を示す商品名として、遅くとも平成17年には普通名称となっていたと裁判所は判断しました

商標「招福巻」事件の判例から学べること

いわゆる、「普通名称化」が示された判例になります。

せっかく商標登録を取得しても、多くの第三者が普通名称のように使用することで、商標として機能しなくなり、商標権が空洞化するリスクがあります。

普通名称化を防ぐために、早い段階で、第三者に対して、使用中止を求めるよう、警告することが考えられます。

また、🄬を付けたりして、登録商標であることを明示することも有効です

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