・「熟成鰻」のロゴ商標が、サービスの内容表示に過ぎないと判断して、裁判所は、原告の請求を棄却しました
・過去、出願商標「熟成キャビア」、「熟成鰹」や「熟成鮭」が、同様の理由で、拒絶されています。裁判所の判断は妥当です
・一方、商標「熟成胡蝶蘭」、「熟成羽毛」や「熟成温泉」は、商標登録になっています。商品やサービスによって、判断が異なります
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10029号の判決、「熟成鰻」のロゴ商標の判例を紹介します。
東京都の湯島に「和灯ろ」という日本料理屋さんがあります。
このお店の名物は、鰻です。
「熟成鰻」(熟成うなぎ)と名付けて、お客さんに提供しています。
そこで、以下の「熟成鰻」のロゴ商標を出願しました。
なお、指定役務は、「死後硬直後のうなぎを用いたうなぎ料理の提供」です。
しかし、特許庁の審査で、本願商標は、識別力を有さないと、判断されました。
簡単に言えば、本願商標は、商標としての特徴がないとして拒絶されました。
「熟成鰻」は、「熟成させた鰻の提供」を意味しているに過ぎないからです。
原告は、拒絶査定に承服せず、拒絶査定不服審判を請求しました。
しかし、審判でも、本願商標は、サービスの直接的な内容を、普通に用いられる方法で表示しているに過ぎないと、判断しました。
つまり、判断が覆らずに、拒絶査定を維持する旨、審決が下されました。
この審決に対しても不服があり、訴訟を提起したのが、本件の裁判になります。
裁判所の判断
「熟成鰻」は、サービスの直接的な内容表示だと思いますか?
また、本件のロゴの態様は、普通に用いられる方法に該当するでしょうか?
結論から言うと、本件のロゴ商標は識別力を有さないと、裁判所は判断しました。
裁判所は、原告の請求を棄却しました。
「熟成鰻」は、サービスの直接的な内容表示に該当
デジタル大辞泉では、以下のように、「熟成」の語を定義しています。
魚肉・獣肉などが酵素の作用により分解され、特殊な風味・うまみが出ること
物質を適当な温度などの条件のもとに長時間おいて、ゆっくりと化学変化を起こさせること
また、「鰻」は、魚類の「うなぎ」を指す単語として、一般に親しまれています。
よって、上記のような「熟成」と「鰻」の語の意味から、「熟成鰻」は、「熟成させた鰻」の意味合いを認識できます。
さらに、「熟成」の語は、化学変化や酵素の作用で、風味やうまみをだすとの意味で、魚一般に用いられています。
実際、この意味における「熟成」を用いた、「熟成鰻」又は「熟成うなぎ」の使用例があるとのことです。
また、「熟成」と魚の名前を組み合わせた事例は、たくさんあります。
例えば、「熟成鮭」、「熟成鯛」、「熟成マグロ」や「熟成鰹」です。
このような事情より、本願商標の「熟成鰻」からは、「熟成させた鰻」という意味合いが生じます。
本件の指定役務は、「死後硬直後のうなぎを用いたうなぎ料理の提供」です。
よって、「熟成鰻」は、指定役務の直接的な内容を表示しているに過ぎないと、裁判所は判断しました。
本件のロゴの態様は、普通に用いられる方法に過ぎない
出願した商標は、丸みを帯びた長方形で、文字を囲っています。
このようなロゴ態様が、普通に用いられる方法か、争点になりました。
裁判官は、各種のホームページをチェックしました。
そうすると、飲食業界では、提供される料理の内容を、四角囲みで表示することが、普通に行われていました。
さらに、鰻を提供する飲食店のロゴ、看板、のれん等に限っても、一般的な手法でした。
よって、本願商標のロゴ態様は、「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものではないと判断しました。
裁判では、他社の使用例や使用状況などが、考慮されます!
判例から学べること(業界によって、判断が異なる!)
本件では、「熟成鰻」のロゴ商標が、サービスの内容表示に過ぎないと判断されました。
確かに、飲食業界では、「熟成」の語と食品名称の組み合わせが、広く一般的に使用されています。
実際、以下の出願商標が、過去、特許庁において、同様の理由で、拒絶されていました。
- 熟成キャビア
- 熟成鰹
- 熟成鮭
- 熟成ハタ
- 熟成生サーモン
- 熟成鮮魚
実際の業界の状況や拒絶例を勘案すると、今回の裁判所の判断は、妥当です。
「熟成」の語と食品名称の組み合わせを商標登録するのは、難しいです。
それでは、食品以外の分野では、どうでしょうか?
業界によって、「熟成」の語が、特徴的と判断される可能性があります。
つまり、「熟成」の語と商品名・サービス名の組み合わせが、商標登録できます。
実際、以下のような商標は、特許庁の審査を通過して、商標登録になっています。
- 熟成胡蝶蘭
- 熟成羽毛
- 熟成綿
- 熟成タイヤ
- 熟成温泉
このように、業界によって、判断が異なります。
商標が、商品・サービスの内容表示に該当するか、検討することは、よくあります。
その場合、どのような商品・サービスに使用するか、意識しましょう。
また、業界の実情も考慮する必要があります。