「角瓶」立体商標の判例紹介

まとめ

・長年、使用したにもかからず、ウィスキーの角瓶の立体商標は、識別力(特別顕著性)の獲得が認められませんでした

・使用による識別力(特別顕著性)の獲得を主張する場合には、出願商標と使用商標の同一性を意識しましょう

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、東京高等裁判所の平成14年(行ケ)第581号の判決、いわゆる「角瓶」立体商標の判例を紹介します。

あなたは、サントリー社のウィスキーの角瓶を知っていますか?

テレビCMも頻繁に流れているので、お酒を飲まない人でも、知っているかもしれません。

(出典:サントリーホールディングス株式会社の公式ウェブサイト)

サントリー社は、以下の立体商標を出願しましたが、識別力を有さない、簡単に言うと、特徴がないとして拒絶されました。

(商願H9-101566号)

なお、様々な角度から見た4つの図面が掲載されていますが、出願の対象は1つで、1件の立体商標になります。

拒絶の判断に不服があり、拒絶査定不服審判を請求しましたが、やはり本願商標が識別力を有さないと判断されて、拒絶査定を維持する旨、審決が下されました。

この審決に対しても不満があり、訴訟を提起したのが、本件の裁判になります。

裁判所の判断

あなたなら、この立体商標の識別力について、どのように判断しますか?

この立体商標から、サントリー社のウィスキーの角瓶を想起しますか?

結論から先に言うと、本件の立体商標は識別力(特別顕著性)を獲得していないと判断して、裁判所は、原告の請求を棄却しました

原告であるサントリー社は、裁判において、本件商標を使用したウィスキーの販売数量も多く、ウィスキー市場で高い占有率を誇り、広告費用も莫大であること等を示しました。

このような長期間、かつ、大規模な販売活動・広告活動の結果、本件商標に接した需要者は、ウィスキーの角瓶を想起するので、本件商標は識別力を有する旨、原告は主張しました。

しかし、裁判所は、原告の主張を認めず、そのメインの理由の1つは、本件商標と使用商標が一致しないことになります。

本件商標は、何らの文字や図形が含まず、立体的形状のみから構成されますが、実際の使用商標には、「Suntory Whisky」などの文字や図形が含まれています。

需要者は、立体的形状よりも、これらの文字や図形に着目するので、本件商標と使用商標には同一性はなく、このような使用例では、識別力(特別顕著性)を獲得したとは認められないと裁判所は判断しました。

なお、原告は、アンケートの結果を提出しましたが、アンケートの対象者が男性だけたったこと等もあり、識別力(特別顕著性)を認めるには十分ではないと判断されました。

判例から学べること

実務上、出願商標を使用した結果、出願商標が識別力を獲得した旨、主張することが、度々あります。

しかし、実際に使用している商標と出願商標が相違していると、こちらの主張が認められない危険性があります。

このような主張をする場合には、実際の使用態様を確認したり、出願する前に、出願商標をどうするか検討して、なるべく使用商標と出願商標が同じになるよう、工夫しましょう

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