・日本とは異なり、他人の商標登録・商標出願に起因した拒絶理由をもとに、審査官が欧州連合商標出願を拒絶しません
・先行商標の権利者は、自主的に対応する必要があり、異議を申し立てたり、一部の指定商品・役務を削除するよう、出願人と交渉することが考えられます
・このような審査システムを採用しているため、商標登録が不安定で、また、事前の商標調査が難しいです
欧州連合商標(EUTM)とは
欧州で商標登録を取得するには、欧州の各国の知財局に商標出願する方法の他に、欧州連合商標(EUTM)で商標出願することが考えられます。
欧州連合商標で商標登録を取得できれば、その効力は、欧州連合の全ての加盟国に及びます。
大変、便利な制度で、多くの日本の企業が、欧州連合商標制度を利用して、商標出願しています。
欧州連合商標を出願するためには、欧州知的財産庁(EUIPO)に願書を提出します。
方式審査を通過したら、商標登録を認めるか、実体審査が行われます。
実体審査の内容が、日本と大きく異なる点があるので、注意する必要があります。
多くの日本企業が欧州連合商標制度を利用していますが、商標の実体審査で、日本の審査と、大きく異なる点があるので、注意しましょう
欧州連合商標の審査(日本の審査との違い)
欧州連合知的財産庁では、絶対的拒絶理由のみ、審査します。
絶対的拒絶理由とは、出願商標自体に起因した拒絶理由のことです。
例えば、出願商標が、商品やサービスの内容表示に過ぎず、識別力を有さないという拒絶理由が該当します。
また、出願商標が、公益上、好ましくないので、登録が認めらないというのも、絶対的拒絶理由です。
一方、欧州連合知的財産庁では、相対的拒絶理由を審査しません。
相対的拒絶理由とは、他人の商標登録・商標出願に起因した拒絶理由のことです。
この点が、日本の商標審査とは大きく異なります。
日本では、同一の分野において、同一もしくは類似する先行商標が存在した場合には、拒絶理由が通知されます。
しかし、欧州連合知的財産庁では、同一もしくは類似する先行商標が存在したとしても、そのことを理由に、商標出願を拒絶することはありません。
当事者間での対応に判断を委ねていて、欧州連合知的財産庁は、関与しないというスタンスを取っています。
同一もしくは類似する先行商標が存在したとしても、審査において、欧州連合商標出願が拒絶されることはありません!
先行商標の権利者への通知と対応方法
同一もしくは類似する先行商標を見つけた場合、商標出願を拒絶することはありませんが、先行商標の権利者に通知します。
通知を受け取った権利者が、商標登録を阻止したいか、判断します。
商標登録を認めても問題ないと判断すれば、そのまま、放置します。
一方、商標登録を阻止したいとのことであれば、異議を申し立てることができます。
また、異議を申し立てながら、出願人と交渉して、一部の指定商品・役務を削除することも、一般的に行われています。
現に、私自身の経験でも、先行商標の権利者と交渉して、一部の指定商品・役務を削除することで、異議を取り下げてもらったことは何度もあります。
交渉が決裂した場合には、異議申し立てで争うことになりますが、統計的に、交渉で解決することが多いです。
商標権者は、商標出願を拒絶するためには、自主的な対応が必要です。対象の商標出願に対して異議を申し立てたり、出願人と交渉することが考えられます
商標登録の不安定さ
欧州連合商標も、日本と同様、無効審判制度が存在します。
無効審判は、商標登録の瑕疵(ミス)を是正するための制度です。
仮に、先行商標権者から異議申し立てを受けなかったとしても、無効審判を請求される危険性があります。
日本とは違い、相対的拒絶理由を審査しないので、無効審判による取り消しリスクは、日本よりも、高いです。
登録から5年経過すれば、先行商標を理由とした無効審判の請求は、ある程度、制約されますが、それまでは商標登録が不安定です。
商標登録になっても、無効審判によって、取り消されるリスクがあるので、その点、留意しましょう
事前の商標調査の難しさ
お客様から事前の商標調査の依頼を受けることがあります。
ただ、調査で類似する先行商標が見つかったとしても、結局、異議申し立てをするか否かは、権利者の判断に委ねられます。
実際、商標出願してみると、異議申し立てを受けることなく、すんなりと登録になることもあります。
また、その逆に、一見、類似していないように思える先行商標の権利者から、異議申し立てを受けることもあります。
権利者が、どう対応するか、予想しにくいので、日本よりも、事前の商標調査が難しいです。
なお、各国での個別の先行商標によって、欧州商標出願が拒絶される可能性がありますので、厳密には、全てのEU加盟国で、商標調査する必要があります。
ただ、その場合、莫大な費用が掛かってしまいますので、調査する加盟国を限定することが考えられます。
先行商標権者が異議を申し立てるか、予想がしにくので、日本の商標調査に比べて、商標登録になる可能性の判断が難しいです