・最高裁判所の判例で、実務上、最重要の商標判例の1つです
・商標「つつみのおひなっこや」が、商標「堤」などと類似しないと、判断しました
・結合商標から一部分が分離・抽出して認識される場合の規範・基準を示しています。実務上、参考にすべきです
「つつみのおひなっこや」事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、最高裁判所の平成19年(行ヒ)第223号の判決、「つつみのおひなっこや」事件の判例を紹介します。
商標の世界では、数少ない最高裁判所の判例です。
商標の実務上、最重要の判例の1つです。
判決文は、こちら。
まず、事件の概要を説明します。
上告人は、以下の標準文字の商標登録を保有していました。
なお、指定商品は、「土人形および陶器製の人形」です。
これに対して、被上告人は、以下の2件の商標登録を保有しています。
被上告人は、自己の商標登録に基づき、上告人の商標登録に対して無効審判を請求しました。
つまり、「堤」及び「つゝみ」の引用商標に類似するとして、「つつみのおひなっこや」の商標登録の取り消しを求めました。
しかし、特許庁において、登録商標と引用商標が類似しないと判断しました。
「つつみのおひなっこや」の商標登録が維持されました。
これに対して不服があった被上告人は、知的財産高等裁判所に訴訟を提起しました。
知財高裁においては、判断が覆されました。
つまり、登録商標が引用商標に類似するとして審決を取り消す旨の判決が下されました。
この判決に不服のある上告人が、最高裁判所に上告したのが本件です。
最高裁判所まで争った商標判例は少ないです。実務上、極めて重要な判例です!
「つつみのおひなっこや」事件の裁判所の判断
あなたは、登録商標「つつみのおひなっこや」と引用商標「堤」及び「つゝみ」が類似していると思いますか?
つまり、登録商標「つつみのおひなっこや」から「つつみ」部分が分離・抽出して認識されるでしょうか?
結論から言えば、登録商標から「つつみ」部分が分離・抽出して認識されないと、裁判所は判断しました。
よって、登録商標「つつみのおひなっこや」は、被上告人の引用商標「堤」及び「つゝみ」とは類似しないと判断しました。
なお、特許庁と裁判所の判断をまとめると、以下の通りです。
- 特許庁の審査→商標は類似しない
- 特許庁での無効審判→商標は類似しない
- 知財高裁での判断→商標は類似する
- 最高裁での判断→商標は類似しない
本件で、特に重要なのは、結合商標から一部分が分離・抽出して認識される場合の規範・基準を示していることです。
その規範・基準は、以下の通りです。
商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである
この規範・基準は、商標の実務では、頻繁に使います。
しかし、専門用語が多く、分かりにくいので、理解するのが、大変です。
規範に沿って、登録商標「つつみのおひなっこや」から「つつみ」部分が分離・抽出して認識されるか、判断していきます。
出所識別標識として、強く機能していれば、その部分が分離・抽出して認識されます。
例えば、「ソニー(SONY)」は、日本有数の企業です。
たとえば、「ソニー銀行」という商標に接したら、ソニーグループの銀行だと認識します。
つまり、「ソニー銀行」中の「ソニー」の語は、サービスの出所標識として、機能しています。
本件では、登録商標「つつみのおひなっこや」中の「つつみ」部分が、被上告人の商品の出所標識として強く支配的な印象を与えるか、検討しました。
登録商標が使用されている製品は、堤人形です。
堤人形とは、仙台市堤町で製造される堤焼の人形です。
よって、登録商標中の「つつみ」部分は、仙台市の堤町という地名や堤人形の「堤」の観念(意味合い)が生じるに過ぎません。
そのような意味合いを超えてまで、被上告人の商品の出所を示す識別標識として強く支配的な印象を与えないと裁判所は判断しました。
つまり、「つつみ」の語だけでは、被上告人の商品であると、ほとんどの需要者は認識できないと判断しました。
次に、登録商標「つつみのおひなっこや」中の「つつみ」以外の部分、つまり、「おひなっこや」部分について、検討しました。
「おひなっこや」は、東北地方の方言などが影響していますが、「ひな人形屋」を意味します。
しかし、本件の需要者は、東北地方の人だけではありません。
全国の需要者を想定すると、「おひなっこや」の語は、「ひな人形屋」を表す一般用語ではないと判断しました。
つまり、「おひなっこや」が、新たに造られた言葉として、理解するのが通常とのことです。
よって、「おひなっこや」部分は、自他商品識別機能を発揮すると裁判所は考えました。
その他、登録商標「つつみのおひなっこや」から「つつみ」部分を抽出して判断する特段の事情もありません。
よって、登録商標「つつみのおひなっこや」から「つつみ」の文字部分だけを比較して、類否判断することは許されません。
「堤」及び「つゝみ」の引用商標と比較すると、登録商標「つつみのおひなっこや」を構成する10文字中3文字が共通しているに過ぎません。
登録商標「つつみのおひなっこや」と引用商標「堤」及び「つゝみ」は類似しないと判断しました。
商標「つつみのおひなっこや」から「つつみ」部分を抽出・分離して認識しないとして、商標「堤」及び「つゝみ」とは類似しないと判断しました
「つつみのおひなっこや」事件の判例から学べること
最高裁判所の判例で、実務上、重要です。
結合商標の類否判断の際には、この判例で示された以下の規範・基準が参考になります。
商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである
結合商標から、一部分が、分離・抽出されるか、頻繁に問題になります。
特許庁に提出する意見書などでは、この判例で示された規範・基準を用いて、反論します。
しかし、対象の事案を、きちんと当てはめて、反論・主張しないと、説得力がありません。
そのためには、この規範・基準の内容を理解することが大切です。
「つつみのおひなっこや」事件が分からなければ、商標専門の弁理士に連絡!
「つつみのおひなっこや」事件を解説してきましたが、分からないこともあるかと思います。
その場合には、商標専門の弁理士に連絡しましょう。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)にご連絡いただければ、検討の上、お答えします。
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