・キャッチフレーズとしてのみ、認識される場合、識別力を有さないとして、拒絶されます
・しかし、キャッチフレーズとして認識されるか否か、審査官の主観や審査傾向にも影響されて、判断するのが難しいです
・判断の感覚を養うためには、多くの事例に触れることが大切なので、出願商標が拒絶された審決例を紹介します
目次
- はじめに
- 商標「こどものみかた」(不服2021-015672)
- 商標「肉の村山」(不服2021-015476)
- 商標「お口まるごと」(不服2021-017095)
- 商標「かける!待つ!流すだけ!」(不服2021-015590)
- 商標「耳まわり肌トラブル」(不服2021-009043)
- 商標「おうち時間」(不服2021-012871)
- 商標「CO2ゼロ」(不服2021-015969)
- 商標「「製造」じゃない、「創造」だ。」(不服2022-000305)
- 商標「ALWAYS FRESH」(不服2022-000617)
- 商標「日本一裁判しない弁護士」(不服2021-014735)
- 「HANDMADE marche」のロゴ商標(不服2021-016552)
- 商標「KAMI ITEM」(不服2021-012662)
- 商標「プロの現場で選ばれる」(不服2022-001791)
- 商標「和牛赤身肉ダイエット」(不服2021-013774)
- 商標「ゴホゴホ」(不服2021-007041)
はじめに
10年以上、商標専門の弁理士として働いていますが、それでも、商標が識別力を有するか否か、判断するのは難しいです。
また、キャッチフレーズとしてのみ、認識される旨、識別力を有さないと規定されていますが、その判断も、審査官の主観や審査傾向に影響されていると感じます。
どのような商標が、キャッチフレーズに過ぎないと認識されるか、判断の感覚を養うためには、多くの事例に触れることが大切です。
そこで、2022年後半の審決例の中で、出願商標が、キャッチフレーズに過ぎないとして、拒絶された審決例を紹介します。
商標「こどものみかた」(不服2021-015672)
本願商標に係る指定役務は、「訴訟事件その他に関する法律事務」などになります。
本願商標中の「こども」の文字は、「子供」の語を、「みかた」の文字は、「味方」の語を、それぞれ平仮名で表記したものと理解できます。
本願の指定役務に関する業界で、子供が抱える問題に関する相談窓口があり、その広告では、幼い子供でも読めるように、振り仮名を併記したり、あえて平仮名で記載している例があるとのことです。
さらに、本願商標に通じる「子どもの味方」が、相談窓口の名称や,関連組織の理念などで、使用されているとのことです。
よって、一部の指定役務との関係で、本願商標は、「子供の養育等に関する問題に対処する役務」というサービスの説明・特性、もしくは、「子どもの味方となる」という理念を表示したに過ぎないと判断しました。
商標「肉の村山」(不服2021-015476)
本願商標に係る指定商品・役務は、「食肉」や「肉製品」などになります。
「肉の小林」や「肉の伊藤」のように、「肉の○○(○○には氏が入る。)」の文字が、精肉店などの名称として広く使用されているとのことです。
また、「村山」は、日本国内のありふれた氏(苗字)になります。
よって、本願商標「肉の村山」は、指定商品「食肉」や「肉製品」との関係では、「村山さんが生産又は販売している(商品)」を意味しているに過ぎないとのことです。
つまり、本願商標は、特定の出所を表示することないので、識別力を有さないと判断しました。
商標「お口まるごと」(不服2021-017095)
本願商標に係る指定商品は、「口中清涼剤」や「歯磨き」などになります。
口の中全体に効果を及ぼす商品であることを訴求する際、「お口まるごと」の文字が、商品の説明や宣伝広告の中で、一般に使用されている事実があるとのことです。
本願商標を、「口中清涼剤」や「歯磨き」などに使用しても、「口の中全体に効果を生じる商品」であるという商品の特性や優位性を表示しているに過ぎないと判断しました。
よって、本願商標は、商品の説明,又は宣伝広告に一般的に使用される語句を表したものに過ぎないとして、識別力を有さないと判断しました。
商標「かける!待つ!流すだけ!」(不服2021-015590)
本願商標に係る指定商品は、「カビ取り洗浄剤」になります。
本願商標から、「(何かを)かける、待つ、流すだけという各動作を強調しているもの」程の意味合いを認識するに過ぎないとのことです。
「かける」、「待つ」及び「流すだけ」の語と同一又は類似する語、若しくは、意味合いが同一又は類似する語を3つ並べて、使用されている実情があるとのことです。
よって、本願商標に接した需要者は、「カビ取り洗浄剤をかけて、待って、流すだけ」という程度の意味合いしか、認識しないと判断しました。
つまり、商品の使用の方法の特徴を簡潔に、かつ、強調して表す宣伝広告の類いの一つに過ぎないので、本願商標は識別力を有さないと判断しました。
商標「耳まわり肌トラブル」(不服2021-009043)
本願商標に係る指定商品は、「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」などになります。
本願商標から、「耳の周囲の肌の不調。」程度の意味合いを容易に認識させるとのことです。
「耳まわり」及び「肌トラブル」の文字が、商品の説明又は商品の特性を表す宣伝広告において、使用されている事実が認められるとのことです。
さらに、「○○のまわり」、「○○周り」(○○は体の部位)の文字及び「肌トラブル」の文字も、商品の説明や商品の特性を表す宣伝広告において、使用されているとのことです。
よって、本願商標を、「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」に使用しても、「耳の周囲の肌の不調に対応する商品」といった商品の説明や特性を表す宣伝広告と認識されるに過ぎないと判断しました。
商標「おうち時間」(不服2021-012871)
本願商標に係る指定商品は、「芳香剤(身体用のものを除く。)」や「除菌剤(洗濯用及び工業用のものを除く。)」などになります。
近年、「おうち時間」の語が、家で過ごす時間を指称するものして使用されています。
特に、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策の一環として、家で過ごす時間に使用するための様々な商品やサービスの提案が活発になされました。
そのため、「おうち時間」の文字が、一般に広く使用されている実情が認められるとのことです。
よって、本願商標は、商品の特性、特徴を簡潔に表示したもの、商品の宣伝広告として表示したものと過ぎないとして、識別力を有さないと判断しました。
商標「CO2ゼロ」(不服2021-015969)
本願商標に係る指定役務は、「電気の供給,電気の供給に関する情報の提供,電気の供給に関するコンサルティング」になります。
本願商標から、「二酸化炭素がゼロであること」や「二酸化炭素がないこと」ほどの意味合いを容易に認識させるとのことです。
地方公共団体や鉄道会社など、CO2(二酸化炭素)の排出をゼロにするための施策や企業目標が策定され、それを実現するための働きかけがされています。
よって、本願商標は、企業理念・経営方針等を表示したもの、あるいは、本願の指定役務の特性、優位性、質、特徴などを簡潔に表示した宣伝広告と認識されるに過ぎないと判断しました。
商標「「製造」じゃない、「創造」だ。」(不服2022-000305)
本願商標に係る指定商品・役務は、「金属加工機械器具」や「測定機械器具」などになります。
本願商標から、全体として「製造ではなく、創造だ。」のような意味合いが生じます。
また、例えば、「「創業当初より「製造から創造へ」をスローガン~」のように、「製造よりも創造を優先する」といった企業理念や経営方針が実存するとのことです。
さらに、「~じゃない~だ」のように組み合わせた文字構成や、これに「」(かぎ括弧)を組み合わせた文字構成は、企業理念や経営方針の表示としてありふれているとのことです。
よって、本願商標は、企業理念や経営方針として認識されるので、識別力を有さないと判断しました。
商標「ALWAYS FRESH」(不服2022-000617)
本願商標に係る指定商品は、「電気冷蔵庫,業務用冷凍機械器具,家庭用電熱用品類」になります。
本願商標中の「ALWAYS」・「FRESH」の語は、どちらも、簡単な英語なので、多くの人が意味を理解することができます。
また、指定商品には、冷蔵庫や冷凍庫が含まれているので、本願商標から「食品をいつも又はいつまでも新鮮に保つ」程度の意味合いを認識するとのことです。
さらに、冷蔵庫や冷凍庫の分野において、宣伝文句として「Always fresh」や「フレッシュさを保つ。」の語が、実際に用いられているとのことです。
よって、本願商標は、「食品をいつも又はいつまでも新鮮に保つ」という指定商品の特徴を端的に表した宣伝文句として認識されるので、識別力を有さないと判断しました。
商標「日本一裁判しない弁護士」(不服2021-014735)
本願商標に係る指定役務は、「法律的事項に関する弁護」や「仲裁」などになります。
交渉、仲裁、調停、あっせんなど、裁判によらず法的なトラブルを解決する方法があることは広く知られています。
そのような弁護士サービスの説明の際に、「裁判をしない」という表現が用いられています。
さらに、裁判をしない解決方法を採る弁護士を「裁判(を)しない弁護士」と称している事実もあります。
「日本一」のフレーズは、企業理念・経営方針などで、多用されています。
よって、本願商標をその指定役務に使用したとしても、「日本一裁判をしない弁護士」による役務という、宣伝広告や企業理念を表示しているに過ぎないので、識別力を有さないと判断しました。
「HANDMADE marche」のロゴ商標(不服2021-016552)
本願商標は、「」になります。
本願商標に係る指定役務は、「文化・教育・娯楽のための展示会の企画・運営又は開催並びにそれらに関する情報の提供」などになります。
「HAND」及び「MADE」の文字は、「手製の」「手作りの」の意味を有する「handmade」の語と理解されます。
また、「marche」の文字は、「市場」「市」の意味を有するフランス語として広く知られています。
「ハンドメイドマルシェ」の文字が、「ハンドメイドの商品を展示、販売するイベントの名称」として広く使用されている事実があるとのことです。
よって、本願商標からは、「ハンドメイドの商品を展示、販売するイベントの名称」程度の意味合いしか生じないとして、識別力を有さないと判断しました。
なお、この審決例から、少しロゴ化しただけでは、識別力を有さないと判断される危険性があることが分かります。
商標「KAMI ITEM」(不服2021-012662)
本願商標に係る指定役務は、「商品の販売に関する情報の提供」や各種の小売等役務などになります。
書籍「現代用語の基礎知識」によると、「神」は「何かのレベルが神の領域であり、超すばらしいこと。」の意味合いで、若者の間で流行している語であるとのことです。
「KAMI ITEM」は、「神アイテム」の欧文字表記と理解して、本願商標から、「とても素晴らしい品物」程度の意味合いが生じるとのことです。
よって、本願商標は、指定役務との関係において、宣伝広告を表示していると認識されるに過ぎず、識別力を有さないと判断しました。
商標「プロの現場で選ばれる」(不服2022-001791)
本願商標は、「」になります。
本願商標に係る指定商品は、「化粧品」や「薬剤」などになります。
「プロ」「現場」「選ばれる」の文字を、「の」及び「で」の格助詞でつなげたもので、いずれも容易で平易な語なので、「プロの現場で選ばれる」ことを記述した文章と認識できます。
また、本願商標の指定商品と関連する取引業界において、「プロの現場で選ばれる」や「プロの現場で選ばれるスプレー。」などを使用した宣伝文句が実在しているとのことです。
よって、本願商標は、単に商品の宣伝文句を記述的に表しているに過ぎないとして、識別力を有さないと判断しました。
商標「和牛赤身肉ダイエット」(不服2021-013774)
本願商標に係る指定役務は、「和牛の食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」などになります。
本願商標から、「和牛の赤身肉を食するダイエット」ほどの意味合いを容易に想起できるとのことです。
また、和牛を含む赤身肉を食するダイエットが「赤身肉ダイエット」と称されている事実があるとのことです。
よって、本願商標は、サービスの説明、特性、優位性、特徴を簡潔に表した宣伝広告に過ぎず、識別力を有さないと判断しました。
商標「ゴホゴホ」(不服2021-007041)
本願商標に係る指定商品は、「薬剤」などになります。
「ゴホゴホ」は、「咳などの音。ごほんごほん。」、「咳をする音を表す語」などの意味合いで辞書に掲載されています。
また、薬剤の業界において、「ゴホゴホ」及び「ごほごほ」が、商品の説明や宣伝広告の中で「せきの種類、せきをする音」を表す語として使用されているとのことです。
そうすると、その指定商品中「薬剤」に本願商標を使用しても、「(ゴホゴホという音のする)せきの種類」を表示したものと認識されるに過ぎないとのことです。
よって、本願商標は、商品の説明又は宣伝広告に一般的に使用される語句を表したものに過ぎず、識別力を有さないと判断しました。