・本願商標「HEANVEN」と引用商標「」が類似すると判断しました
・出願商標に係る指定役務(ホストクラブにおける飲食物の提供)と引用商標に係る指定役務(インドカレー・インド料理の提供)も類似すると判断しました
・実情に沿わない判断が下されることもあり、また、場合によっては、指定役務の表示も、先行商標を回避するために、工夫する必要があります
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和4年(行ケ)第10090号の判決、ホストクラブの商標「HEAVEN」の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
原告は、ホストクラブを運営していて、以下の商標を商標出願しました。
なお、指定役務は、「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」などになります。
しかし、特許庁の審査において、本願商標が、以下の先行商標と抵触するとして、本件の商標出願が拒絶されました。
この判断に対して、拒絶査定不服審判を請求しましたが、判断が覆らず、拒絶査定が維持されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。
裁判所の判断
原告は、出願商標が、引用商標と類似しない旨、主張しました。
また、出願商標に係る指定役務(ホストクラブにおける飲食物の提供)が、引用商標に係る指定役務(インドカレー・インド料理の提供)とは類似しない旨、併せて、主張しました。
結論から言えば、裁判所は、両商標が類似し、かつ、指定役務も類似するとして、原告の請求を棄却しました。
裁判所の判断について、紹介していきます。
商標が類似するか
出願商標は、「HEAVEN」の標準文字からなります。
これに対して、先行商標は、様々な文字や図形からなるロゴですが、「Heaven」の文字部分が視覚的に強く印象付けられるとのことです。
また、引用商標中のインド人らしき人物の図形は、提供の対象となる飲食物を示すにとどまるとのことです。
さらに、引用商標中の「インドカレーヘブン」の文字部分は、「Heaven」の文字に比べて、小さいとのことです。
よって、「Heaven」の文字部分は、引用商標の要部(主要部分)となるとのことです。
本願商標が「HEAVEN」で、引用商標の要部が「Heaven」であることから、両商標が類似すると判断しました。
指定役務が類似するか
出願商標に係る指定役務は「ホストクラブにおける飲食物の提供」などで、引用商標に係る指定役務は「インドカレー・インド料理の提供」になります。
「ホストクラブにおける飲食物の提供」と「インドカレー・インド料理の提供」が類似しているか、以下の観点で、比較しました。
提供の手段、目的又は場所
その場所で料理や飲料を作るという点で提供の手段が一致し、料理や飲料を飲食させるという目的も一致するとのことです。
また、ホストクラブのオープン前の時間帯にカフェ営業する事例もあり、提供の場所が一致することもあるとのことです。
サービスの提供に関連する物品
サービスの提供に関連する物品は、食材、飲料、おしぼり等の消耗品、食器、スプーン、グラス等で、共通するとのことです。
需要者、取引者の範囲
ホストクラブのメインの需要者は女性で、インド料理屋のお客さんには女性もいるので、需要者は共通するとのことです。
また、両役務の関連する物品が共通するので、取引業者も共通するとのことです。
業種
飲食の提供という点で共通し、業種が共通するとのことです。
当該役務に関する業務や事業者を規制する法律
飲食店は、食品衛生法により営業許可を受けなければならないので、その点で共通します。
ホストクラブは風営法の営業許可が必要ですが、インド料理屋でも、営業所内の照度や構造によっては風俗営業に当たり得ると判断しています。
営業主体について
飲食業界では、提供する飲食物が相違する様々な店舗を同じ経営者が運営することは珍しくないとのことです。
現に、ホストクラブの経営者が、カフェ、インドカレー店、レストラン、タピオカ店などを運営しているケースがあるとのことです。
上記のような観点から、「ホストクラブにおける飲食物の提供」と「インドカレー・インド料理の提供」が類似していると、裁判所は判断しました。
商標が類似、また、指定役務も類似すると判断し、引用商標と抵触するため、商標登録が認められないと判断しました
判例から学べること
私見としては、実際には、インドカレー屋の商標「」とホストクラブの商標「HEAVEN」を誤認・混同する人はほとんどいないと思います。
しかし、「HEAVEN」(Heaven)の文字が共通する以上、裁判所と同様、両商標は類似すると考えます。
また、どちらの指定役務も、「飲食物の提供」である以上、指定役務が類似するという裁判所の判断もやむを得ないかと思います。
特許庁・裁判所では、書面で審査・判断する以上、実情に沿わない判断が下されることがあるので、注意が必要です。
なお、ホストクラブでは、飲食物の提供よりも、ホストによる接待がメインになるかと思います。
指定役務の表現を工夫すれば、「インドカレー・インド料理の提供」を指定する引用商標との抵触関係を解消できた可能性があったかと推測します。
特許庁や裁判所は、書面に沿って、判断しますので、実情に合わない判断が下されることもあります