使用していない商標登録を取り消せる!?不使用取消審判を、分かりやすく紹介!

まとめ

・不使用取消審判を請求することで、先行の商標登録を取り消せる可能性があります

・審判請求書を特許庁に提出する必要がありますが、記載内容は、意外とシンプルです。また、立証責任は、商標権者にあるので、不使用取消審判を利用しやすいです

・不使用取消審判を請求する前に、インターネットで登録商標の使用状況を調べましょう。また、できれば、不使用取消審判の結論が出るまで、商標の使用を控えましょう

先行商標が問題となったら、不使用取消審判を検討しよう

例えば、あなたが、「ABC」という名称のチョコレートを販売していたとします。

好評なので、「ABC」の商標登録を取得したいと考えました。

しかし、先行商標をチェックしたところ、「チョコレート」を指定する「ABC」の商標登録が見つかりました。

これでは、「ABC」の商標登録を取得できません

ただ、インターネットで調べると、先行商標「ABC」は使用されていないようでした。

それでは、登録商標を使用していないことを根拠に、商標登録を取り消すことができるでしょうか?

結論から言えば、不使用取消審判を請求することで、商標登録を取り消せる可能性があります。

先行の商標登録を取り消すことができれば、あなたが商標登録を取得できます。

それでは、不使用取消審判について、簡単に説明していきます。

不使用取消審判で、商標登録を取り消すための要件(条件)

まず、商標法の条文をチェックしてみます。

継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

つまり、①日本国内において、②継続して、3年以上、③商標権者などが、④指定商品・役務について、⑤登録商標を使用していない場合に、不使用取消審判で商標登録を取り消せます

商標登録を取り消すための5つの条件

① 日本国内において不使用

② 継続して3年以上、不使用

③ 商標権者・ライセンシーが使用していない

④ 対象の指定商品・役務について、使用していない

⑤ 登録商標(もしくは、社会通念上、同一の商標)を使用していない

商標登録を取り消すための5つの要件(条件)を説明していきます。

日本国内において、不使用

日本国内での使用に限られます。

よって、外国で登録商標を使用していても、商標登録の取り消しを回避できません。

継続して、3年以上、不使用

継続して、3年以上、登録商標を使用していないことが、条件(要件)の1つです。

よって、登録日から、3年、経過しないと、不使用取消審判の請求対象になりません。

また、例えば、1年間、使用を中断した後、使用を再開して、その後、さらに2年間、使用を中止したとします。

その場合、不使用期間は合計3年間ですが、不使用期間が継続していないので、この要件(条件)を満たしません。

商標権者・ライセンシーが使用していない

商標権者もしくはライセンシー(使用許諾者)が、使用していないことが条件です。

商標権者もしくはライセンシーによる登録商標の使用が証明されると、商標登録を取り消せません。

なお、仮に、商標権者やライセンシー以外の第三者が使用していても、商標登録を取り消せます。

対象の指定商品・役務について、使用していない

複数の指定商品・役務について、不使用取消審判を請求したとします。

そのうちの1つの指定商品・役務について、使用していれば、全ての指定商品・役務について、商標登録が維持されます。

どの指定商品・役務に不使用取消審判を請求するか、事前に精査する必要があります。

登録商標(もしくは、社会通念上、同一の商標)を使用していない

登録商標を使用していないことが、要件(条件)の1つです。

ここでいう登録商標には、社会通念上、同一の商標も含みます。

つまり、登録商標と全く同一の商標の使用でなくても、商標登録が維持される可能性があります

社会通念上、同一の商標については、以下の記事で詳しく説明しているので、ご参照ください。

不使用取消審判に掛かる費用

請求する商標登録の区分数によって、費用が変動します。

特許庁に支払う印紙代は、以下の通りです。

1区分目 5万5千円

2区分目~ 4万円(追加1区分あたり)

なお、特許庁事務所に依頼した場合には、特許事務所に支払う手数料が掛かります。

弁理士業界の相場では、不使用取消審判の請求の手数料は、4~8万円です。

ただ、依頼する事務所によって、手数料は、大きく違います。

不使用取消審判の勝算

統計データをみると、不使用取消審判の勝算は、80%程度のようで、かなり高いです。

筆者も、不使用取消審判をお手伝いした経験は、多数あります。

そのうちの多くの案件で、使用証拠が提出されずに、すんなりと、商標登録が取り消されました。

商標出願する際に、使用しない商品やサービスも含めて、防衛的に広めにカバーすることが多いです。

そのため、実際には、使用していない指定商品・役務を含んでいる商標登録が多数あります

このような実情が、統計上、不使用取消審判の勝算が高い理由です。

意外と簡単!?不使用取消審判の請求方法

不使用取消審判を請求したい場合には、特許庁に「審判請求書」を提出します。

審判請求書のフォームは、特許庁ホームページから、入手できるので、こちらを利用しましょう。

審判請求書の内容は、意外とシンプルで、頑張れば、自力で作成することもできます

記載内容について、簡単に説明していきます。

審判事件の表示

不使用取消審判で取り消したい商標登録を特定します。

具体的には、「商標法第50条第1項の規定による商標登録第〇〇〇〇〇〇〇号取消審判事件」の形式で、記載します。

例えば、商登第1234567号の商標登録に不使用取消審判を請求したい場合には、以下のように、記載しましょう。

商標法第50条第1項の規定による商標登録第1234567号取消審判事件

請求人

不使用取消審判の請求人の情報を記載します。

具体的には、氏名(名称)や住所(居所)を記載します。

請求人が法人の場合、代表者の氏名も記載します。

なお、特許事務所などの代理人による手続の場合、代表者の欄は不要です。

被請求人

被請求人、つまり、商標権者の情報を記載します。

審判請求日における商標権者の氏名(名称)と住所(居所)を記載します。

できれば、商標登録原簿を取得して、正確な情報を記載しましょう。

請求の趣旨

取消審判にも、いくつか、種類があるので、不使用取消審判であることを示す必要があります。

全ての指定商品・役務を取り消したい場合には、以下のように記載します。

商標法第50条第1項の規定により、登録第○○○○○○○号商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

一方、全ての指定商品・役務ではなく、そのうちの一部の指定商品・役務について、商標登録を取り消したい場合もあります。

その場合には、取り消したい指定商品・役務を特定する必要があります。

具体的には、以下のように、記載しましょう。

商標法第50条第1項の規定により、登録第○○○○○○○号商標の指定商品・役務中、「第○類 ○○○」、「第○○類 ○○○」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

請求の理由

不使用取消審判を請求する理由を記載します。

不使用取消審判の場合、記載内容はシンプルです。

対象の商標登録が、出願から登録に至るまでの経緯を記載しましょう。

商標の構成  「○○○○」

指定商品  第○類「○○○、○○○」

出   願  令和 年 月 日

登 録 日  令和 年 月 日

また、上述した通り、商標法の条文で、不使用取消審判で取り消すための条件(要件)が定められています。

その条件(要件)が満たすことを示します。

例えば、以下のように記載します。

本件登録第○○○○○○○号商標は、その指定商品(役務)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。

添付書類の目録

添付する書類があれば、添付物の内容を記載します。

例えば、審判請求書を特許庁に持参したり、郵送したりする場合には、審判請求書の副本(コピー)が、2部、必要です。

その場合には、「審判請求書 副本2部」のように、記載しましょう。

なお、オンラインで提出する場合には、審判請求書の副本(コピー)は不要です。

不使用取消審判の流れ(立証責任について)

商標登録を取り消したいと思ったら、特許庁に審判請求書を提出し、不使用取消審判を請求します。

その際に、請求人は、登録商標が使用されていないことを証明する必要はありません

つまり、立証責任は、請求人ではなく、商標権者が負います

請求人にとっては、不使用取消審判が請求しやすくなり、大きなメリットです。

商標権者が、請求された指定商品・役務について、3年以内に登録商標を使用していた事実を立証する必要があります。

もし、使用証拠が提出できなければ、商標登録を取り消す旨の審決が下されます。

なお、商標権者が登録商標を使用していた場合、使用事実を示した答弁書を提出します。

それに対して、通常は、その使用証拠が適切かどうか、請求人に反論する機会が与えられます。

つまり、請求人は、弁駁書を提出する機会があります。

両者の主張を検討した上で、審判官の合議体が結論を出します。

なお、不使用取消審判の流れについては、以下のフローチャートが参考になります

(特許庁の審判部「審判制度の概要と運用」より)

不使用取消審判を請求する前の検討事項

どの指定商品・役務を取り消す必要があるか、検討

どの指定商品・役務を取り消すべきか、検討すべきです。

いずれか1つの商品・サービスについて、使用証拠が提出されると、不使用取消審判は失敗します。

不使用取消審判を請求する指定商品・役務は、必要最小限にすべきです。

一方、取り消すべき指定商品・役務が不足していると、不使用取消審判が成功しても、依然として、商標登録が障害となります。

指定商品・役務の類似範囲まで、商標登録の効力が及びます。

よって、自分が使用したい商品・役務に類似する指定商品・役務を、取り消す必要があります

商品・役務が類似するか、類似群コードをもとに、判断しましょう。

類似群コードの利用方法は、以下の記事で紹介しています。

なお、判断に迷うようであれば、筆者(すみや商標知財事務所)などの商標専門の弁理士に相談しましょう。

業界では珍しい「商標専門」の弁理士

インターネットで、簡単に使用状況を調べる

インターネットを使えば、簡単に登録商標の使用状況を調べられます。

不使用取消審判を請求する前に、まずは、簡単に使用状況を確認しましょう

明らかに、登録商標を使用していた場合、残念ながら、不使用取消審判による対応は難しいです。

その場合には、権利者との交渉や商標の変更など、別の手段を検討しましょう。

権利者から、権利侵害を主張されるリスクを考慮する

不使用取消審判を請求する目的は、ビジネス上、商標登録が邪魔だからです。

つまり、請求人は、登録商標、もしくは、それに類似する商標を使用したいと考えています。

不使用取消審判を請求することで、商標権者に、請求人の存在が気付かれます。

もし、不使用取消審判が失敗して、請求人が登録商標(もしくは、その類似商標)を使用していると、商標権侵害を主張されるリスクがあります

不使用取消審判に失敗した場合のリスクを勘案する必要があります。

また、できれば、不使用取消審判の結論が出るまで、商標の使用を控えることをお勧めします。

不使用取消審判で分からなければ、特許庁や商標専門の弁理士に相談!

実際に、不使用取消審判を請求しようとしたら、分からないことが出てくると思います。

その場合には、特許庁に問い合わせましょう。

また、商標専門の弁理士に相談するのも、お勧めです。

筆者(すみや商標知財事務所)にご連絡いただければ、親身になって、検討します。

業界では珍しい「商標専門」の弁理士

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