商標「くるんっと前髪カーラー」の判例紹介

まとめ

・商標「くるんっと前髪カーラー」が、商品の直接的な内容表示に過ぎないと判断されました

・特許庁での審査・審判の判断と、裁判所の判断が異なります

・商標の識別力の判断は、専門家でも、難しいので、慎重に検討する必要があります

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10030号の判決、商標「くるんっと前髪カーラー」の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

被告であるノーブル株式会社は、以下のカーラーを販売しています。

(ノーブル株式会社のオンラインストアより)

そこで、くるんっと前髪カーラー」を商標出願しました

(商登第6399042号)

指定商品は、「頭飾品,ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」です。

特許庁の審査を無事に通過して、商標登録になりました

これに対して、原告の粧美堂株式会社は、無効審判を請求しました

具体的には、指定商品「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」について、商標登録の取り消しを求めました。

無効理由は、登録商標が、商品の直接的な商品表示に過ぎず、識別力を有さないとの理由です。

なお、粧美堂社は、「前髪くるんとカーラー」という商品を販売しています。

(粧美堂株式会社のニュースリリースより)

ビジネス上、「くるんっと前髪カーラー」の商標登録が障害になったのかもしれません。

特許庁では、粧美堂社の主張を認めずに、商標登録を維持する旨の審決を下しました

この審決に不服のある原告(粧美堂社)が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。

裁判所の判断

あなたは、商標「くるんっと前髪カーラー」が、商品の直接的な内容表示に該当すると思いますか?

結論としては、裁判所は、原告の主張を認めて、審決を取り消しました

つまり、商標「くるんっと前髪カーラー」が、商品の直接的な内容表示だと判断しました

辞書の記載の紹介

日本語オノマトペ辞典には、以下の通り、「くるん」の意味を掲載しています。

はずみをつけて回るさま。 軽やかに巻かれているさま。

その用例として、「くるんとカールしたまつげ」と記載されています。

また、広辞苑によると、「前髪」は「額に垂れ下がる髪」などです。

さらに、広辞苑によると、「カーラー」は、「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具」です。

ウェブサイト・新聞記事の使用例などの紹介

他者のウェブサイトで、以下のような使用例があります。

前髪のカーラーを1.5回転程巻けるくらい細いものにすると、仕上がりがクルンとしたカールになります

前髪くるんっ!のやり方

また、被告商品の説明・レビューには、以下のような記載があります。

前髪カーラーを使えば、4ステップでくるんっと可愛らしい前髪ができますよ

これ手間いらず技術いらずで前髪がいい感じにクルンってなるので私も大好きです!

さらに、新聞記事で、以下のような使用例があります。

僕の髪は長くて前髪があって、くるんとはねているイメージがすごくあると思う

くるんとカールした前髪とウ エーブしたロングヘアー

「くるんっと前髪カーラー」の商品の内容表示に該当

「くるんっと」の語は、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示します。

インターネットなどの使用例からも、このような意味合いで、広く一般的に使用されていることが分かります。

よって、商標「くるんっと前髪カーラー」は、「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味するに過ぎません

実際、被告の商品の宣伝文句として、「くるんっとカールした前髪ができちゃう!」などが使用されていました。

この事実は、「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味するに過ぎないという判断に、符合します。

商標「くるんっと前髪カーラー」は、指定商品「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」との関係では、直接的な商品の内容表示に該当します。

判例から学べること(識別力の判断の難しさ)

筆者は、「くるんっと前髪カーラー」から、「くるんとした前髪を作るためのカーラー」を想起しました。

よって、商品の内容表示に過ぎないとの裁判所の判断には、納得できます。

一方、以下のような商標が、特許庁の審査を通過して、商標登録になっています。

商標「くるんと長持ち」

商標「くるんとカールミスト」

商標「くるんとメリハリ」

このような登録例をみると、「くるんっと前髪カーラー」の商標登録を認めた特許庁の判断も、ある程度、理解できます。

正直、商標の識別力の判断は、専門家でも、難しいです。

実際、本件も、特許庁の審査と審判の判断が、裁判所の判断と異なっています

・特許庁の審査→商標「くるんっと前髪カーラー」は、識別力あり

・審判での判断→商標「くるんっと前髪カーラー」は、識別力あり

・裁判所の判断→商標「くるんっと前髪カーラー」は、識別力なし

このようなケースも直面した場合、他社の使用状況も勘案しながら、慎重に検討しましょう。

識別力を有するか、正直、専門家でも、判断が難しいケースがあります!様々な要素を考慮しながら、慎重に検討しましょう

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