商標「一升パン」の判例紹介

まとめ

・登録商標「一升パン」が識別力を有すると裁判所は判断しました

・「升」は容量を表す単位ですが、通常、パンには用いないので、「一升」と「パン」の語を組み合わせることに独創性が認められました

・また、パンの需要者・取引者には、一般消費者も含まれることが、識別力の判断に、肯定的に作用しました

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和3年(行ケ)第10160号の判決、商標「一升パン」の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

被告は、30類の商品「パン」などを指定する、以下の商標登録を保有しています。

(商登第5839434号)                                       

原告は、被告の商標登録を取り消すために、無効審判を請求しました。

原告の主張は、登録商標「一升パン」が識別力を有さないので、商標登録を無効すべきといった内容になります。

これに対して、特許庁では、登録商標「一升パン」が識別力を有すると判断して、被告の商標登録を維持する旨の審決を下しました。

この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。

裁判所の判断

あなたは、被告の登録商標「一升パン」が識別力を有すると思いますか?

結論から言えば、無効審判の審決を支持して、登録商標「一升パン」が識別力を有すると裁判所は判断しました

まず、「一升パン」のうち、「升」の語は、容量の単位になり、「一升」の語は、「単位『升』で量った一つ分の容積。」との意味になります。

しかし、「一升パン」は「一升」の語及び「パン」の語を組み合わせたものですが、「一升パン」の語それ自体は、辞書などに掲載されていません。

「升」は、米・日本酒や醤油の容量を表す単位として使用しますが、パンの数量を表す単位としては使用しません。

よって、「一升パン」は、通常は組み合わされることのない「一升」の語と「パン」の語からなり、造語と認識されると裁判所は判断しています。

また、子供の1歳の誕生日に、一升餅を背負わせる風習があり、餅の代用品として「一升パン」を販売している業者が、被告以外にも複数ありました。

確かに、パンの製造業者・販売業者には、「一升パン」は「1歳の誕生日のお祝いに用いる一升のパン」と認識されるようです。

しかし、裁判所は、本件商品の取引者・需要者が、パンの製造業者・販売業者に限られず、一般消費者も広く含まれると判断しました

よって、このような取引者・需要者にとって、「一升パン」が、具体的な商品の品質・用途の表示と直ちに認識されないと裁判所は考えました。

判例から学べること

「升」は容量を表す単位であるものの、通常、パンには用いないので、「一升」と「パン」の語を組み合わせることに独創性(ユニークさ)が認められました。

また、複数のパン業者が「一升パン」を販売しているものの、取引者・需要者には、一般消費者も含まれるので、必ずしも、商品の直接的な内容表示とは認識されないと判断しました。

改めて、商標の識別力の判断の難しさを痛感させられます。

また、商品・サービスによって、取引者・需要者に違いが出るので、識別力の検討の際には、その点も考慮する必要があります

なお、以下の判例も、本件と関連するので、ご参考ください。

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