・商標「三橋の森の一升パン」が商標「一升パン」と類似するか否かが、争点になります
・商標「三橋の森の一升パン」から「一升パン」部分を分離・抽出して認識しないと裁判所は判断しました
・結論としては、商標「三橋の森の一升パン」と商標「一升パン」が類似しないと判断しました
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和3年(行ケ)第10160号の判決、商標「三橋の森の一升パン」の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
被告は、「パン」「パン生地」などを指定商品とする、以下の標準文字の商標登録を保有していました。
これに対して、原告は、以下の商標登録を保有しています。
原告は、自己の商標登録に基づき、被告の商標登録に対して無効審判を請求しました。
特許庁では、原告の登録商標と被告の登録商標は類似しないと判断して、被告の商標登録を維持する旨の審決が下されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。
裁判所の判断
あなたは、原告の登録商標「一升パン」と被告の登録商標「三橋の森の一升パン」が類似していると思いますか?
つまり、被告の登録商標「三橋の森の一升パン」から「一升パン」部分が分離・抽出して認識されるでしょうか?
結論から言えば、両商標が類似していないと裁判所は判断しました。
まず、「一升パン」は、一般の辞書などに掲載されている語ではなく、また、パンの数量を表す単位として「升」を使用しないことから、造語と認識されると判断しました。
しかし、「一升パン」の語は、1歳の誕生日を迎えた子供のお祝いとして用いられてきた「一升餅」の「餅」の語を「パン」に置き換えたものにすぎないとのことです。
現に、「一升パン」と称する商品は、原告以外で、少なくとも100を超える事業者によっても製造、販売されていたとのことです。
このような状況から、「一升パン」の語は、造語であっても、それ自体が特徴的又は印象的な語であるとまではいえないと裁判所は判断しました。
よって、「三橋の森の一升パン」から「一升パン」部分を抽出し、この部分だけを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されないと考えました。
結局、被告の登録商標「三橋の森の一升パン」が、商標全体として、原告の登録商標「一升パン」とは類似しないと、裁判所は判断しました。
判例から学べること
いわゆる結合商標から一部分が分離・抽出して認識されるか否か、本件では争点になっています。
造語であっても、特徴的又は印象的な語であるとまではいえなければ、その部分が分離・抽出して認識されない可能性があります。
結合商標の判断は、なかなか難しいので、多くの判例・審決例に触れて、感覚を養っていきましょう。