商標「朔北カレー」の判例紹介

まとめ

・出願商標「朔北カレー」が、引用商標「サクホク」とは類似しないと裁判所は判断しました

・近年、判断傾向が変わってきて、同一の称呼が生じても、外観・観念が大きく相違すれば、商標が類似しないと判断された事例が出てきています

・しかし、依然として、商標が類似すると判断される可能性も高いので、同一の称呼を有する先行商標があれば、できるだけ、そのような商標を採択しないことをお勧めします

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和4年(行ケ)第10122号の判決、商標「朔北カレー」の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

原告は、「レトルトパウチされた調理済みカレー」などを指定して、以下の商標「朔北カレー」を商標出願しました。

(商願第2020-20177号)

しかし、特許庁の審査において、本願商標が、以下の「サクホク」の先行商標と抵触するとして、本件の商標出願が拒絶されました。

(商登第5787174号)

この判断に対して、拒絶査定不服審判を請求しましたが、判断が覆らず、拒絶査定が維持されました。

この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。

審査段階・審判段階では、商標「朔北カレー」と商標「サクホク」が類似していると判断されました

裁判所の判断

あなたは、出願商標「朔北カレー」が、引用商標「サクホク」と類似していると思いますか?

結論から言えば、出願商標「朔北カレー」が引用商標「サクホク」と類似しないと判断して、裁判所は拒絶審決を取り消しました

「朔北カレー」の要部(主要部分)について

本願商標の「カレー」部分は、指定商品との関係において、商品の性質や原材料を表示したに過ぎません。

よって、「カレー」部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じないとのことです。

一方、本願商標の「朔北」部分は、「北の方角」又は「北方の地」を表す単語ですが、具体的な地域を表していません。

よって、「朔北」部分からは、出所識別標識としての称呼・観念が生じうると判断しました。

本願商標「朔北カレー」の要部(主要部分)は、「朔北」部分になります。

「カレー」は商品の内容表示に過ぎないので、商標「朔北カレー」の要部(主要部分)は「朔北」部分と判断しました

「朔北」と「サクホク」は類似するか?

次に、「朔北」と引用商標「サクホク」が類似するか、検討しました。

商標の類否は、称呼(読み)・外観(見た目)・観念(意味合い)を比較して、判断します。

詳しくは、以下の記事をご参照ください。

まず、称呼(読み)については、どちらも「サクホク」なので、同一です。

次に、外観(見た目)については、「朔北」は2文字の漢字からなります。

これに対して、引用商標「サクホク」は、4文字のカタカナなので、両者の外観は明らかに異なります。

最後に、観念(意味合い)を比較すると、「朔北」からは「北の方角」「北方の地」の観念が生じます。

一方、「サクホク」は、辞書などに掲載されていない造語なので、特定の観念は生じず、両者の観念は明らかに異なるとのことです。

裁判所によると、需要者、取引者が、専ら商品の称呼のみで商品を識別し、商品の出所を判別するような実情が認められないとのことです。

よって、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないとのことです。

以上より、本願商標「朔北カレー」が引用商標「サクホク」と類似しないと結論付けました。

「朔北」と「サクホク」は、称呼(読み)が同一だが、外観(見た目)・観念(意味合い)が大きく相違するので、本願商標が引用商標と類似しないと判断しました!

判例から学べること

商標の類否判断の際には、特に、商標から生じる称呼(読み)が重視されます。

よって、商標(もしくは商標の要部)の称呼が同一の場合には、基本的には、商標が類似すると判断されてきました。

しかし、近年、類否判断の傾向が変わってきています

本件のように、同一の称呼が生じても、外観・観念が大きく相違するので、商標が非類似と判断された事例が出てきています。

外観(見た目)・観念(意味合い)の明らかな違い>称呼(読み)の同一

ただ、本件は、特許庁の審査や審判では判断が覆らずに、裁判まで争ったという点に注意が必要です。

判断傾向が変わってきて、反論の余地があるとはいえ、生じる称呼(読み)が同一であれば、依然として、商標が類似する可能性が高いです。

同一の称呼(読み)を有する先行商標があれば、できるだけ、そのような商標を採択しないことをお勧めします。

判断の傾向が変わってきて、称呼(読み)が同一でも、商標が類似しないと判断された事例が出てきました。ただ、従来通り、商標が類似すると判断される可能性も高いので、できれば、そのような商標を避けた方がいいでしょう。

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