商標「田中箸店」の判例紹介

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10111号の判決、商標「田中箸店」の判例を紹介します。

判決の全文は、こちらです。

10年以上の弁理士歴のある筆者が、初心者にも分かりやすいよう、丁寧に説明していきます。

以下のような人に読んでほしい!

・最新の商標の判例が知りたい人

・苗字を含む商標の出願を検討している人

・特徴(識別力)がない商標の具体例を知りたい人

この記事を読めば、最新の商標の判例の内容を知ることができます

また、苗字を含む商標の出願を検討している人の役に立つはずです

商標「田中箸店」の事件の概要

原告である株式会社田中箸店は、1948年に創業した、福井県小浜市の老舗の箸製造メーカーです。

(株式会社田中箸店のホームページより URL: https://tanaka-hashi.noct-c.com

原告は、標準文字で、商標「田中箸店」を出願しました。

(商願第2021-132195号)

指定商品は、「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」と「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」です。

しかし、特許庁では、商標としての特徴(専門的に言うと「識別力」)を有さないとして、商標出願を拒絶しました

初心者くん
初心者くん

なんで、特許庁は、商標としての特徴を有さないと判断したんですか?

虎さん
虎さん

「田中箸店」が「田中の姓を有する者による箸を取り扱う店」を意味するに過ぎず、誰の業務に係る商品か、分からないと、特許庁は判断しました!

この判断に対して、田中箸店は拒絶査定不服審判を請求しました。

しかし、審判においても、判断が覆らずに、拒絶査定が維持されました

この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。

商標「田中箸店」事件の裁判所の判断

あなたは、本願商標「田中箸店」が識別力を有すると思いますか?

結論としては、裁判所は、原告の主張を認めず、本願商標が識別力を有さないと判断しました

裁判所は、原告の請求を棄却しました。

特許庁・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。

特許庁・審判・裁判所の判断は

・特許庁の判断→本願商標は、識別力を有さない

・審判での判断→本願商標は、識別力を有さない

・知財高裁の判断→本願商標は、識別力を有さない

以下、裁判所の判断について、紹介していきます。

「田中」は、日本国内で、ありふれた氏(苗字)

本願商標「田中箸店」は、「田中」と「箸店」の語の組み合わせなので、裁判所は、「田中」の語について、検討しています。

裁判所は、以下のような資料・事実を示しています。

裁判所が示した資料・事実

① ウェブサイト「名字由来net」では、「田中」は、全国順位が4位の苗字

② 電話帳に掲載されている世帯を基準にすると、「田中」は、全国で4番目に多い氏(苗字)

よって、「田中」は、日本国内で、ありふれた氏(苗字)と、裁判所が判断しました

「田中さんによる、箸を取り扱う店」程度の意味合いに過ぎない

次に、本願商標中の「箸店」の語について、議論しています。

以下の通り、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の名称・商号に使用・採択されているとのことです。

  • 岩多箸店
  • 株式会社 伊勢屋箸店
  • やまご箸店
  • 小山箸店
  • タケダ箸店
  • 神戸屋箸店
  • 坂田箸店

「箸店」の語は、「箸を取り扱う店」を意味します。

よって、本願商標、「田中さんによる、箸を取り扱う店」を意味しているに過ぎません

本願商標が、商標としての特徴(識別力)を有さないと、裁判所は判断しています。

例外的に商標登録を認める程、有名ではない

全国的に著名であれば、例外的に、商標登録が認められます。

例えば、以下のような著名商標が、例外的に、商標登録を認められています。

原告は、本願商標「田中箸店」が、全国的に著名である旨、主張しました。

しかし、裁判所は、原告の主張を認めずに、商標登録を認めませんでした

商標「田中箸店」の判例から学べること(特徴を有さない商標を商標登録するには)

「田中」は、明らかに、ありふれた苗字です。

また、「箸店」は、普通に「箸を取り扱う店」と認識できます。

よって、今回の裁判所の判断は、妥当です

もし、「田中箸店」の商標登録を目指すのであれば、以下のようなアプローチが考えられます。

ロゴ化、もしくは、図形を付けて、商標登録を取得する

商標をロゴにする、もしくは、図形を付ければ、このような拒絶理由を回避できます。

例えば、原告のホームページで使用している、以下の態様で、商標出願すれば、今回の拒絶理由を回避できたでしょう

(株式会社田中箸店のホームページより URL: https://tanaka-hashi.noct-c.com

指定商品を限定する

本件の指定商品は、「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」と「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」です。

「箸」以外の商品も含んでいます。

田中箸店のメイン商品は「箸」なので、指定商品を「箸」に限定した方が、全国的な著名性を主張しやすかったはずです。

もし、筆者が本件を担当していたら、以下のような方針を検討しています。

筆者が本件を担当していたら

広めの指定商品で、まずは、ロゴの商標登録を取得

→その後、指定商品を「箸」に限定して、文字商標「田中箸店」の商標出願にチャレンジ

ちなみに、識別力のない商標に対するアプローチは、「あずきバー」の商標戦略が参考になります。

以下の記事で、紹介しているので、ぜひチェックしてください。

「あずきバー」の商標戦略(商品の内容表示に過ぎない商品名を商標登録するには)
まとめ

・商標「田中箸店」が、「田中さんによる、箸を取り扱う店」を意味するに過ぎず、商標としての特徴(識別力)を有さないと、裁判所は判断しました

・また、商標「田中箸店」は、例外的に商標登録を認める程、全国的に有名ではないと判断しました

・このような商標に対しては、①ロゴ化や図形を付して、商標登録を取得したり、②指定商品を限定して、商標出願にチャレンジすることが考えられます

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