商標「DEEP SEA」の判例紹介

まとめ

・本件の裁判で、原告の商標登録を取り消す旨の審判の判断(審決)が覆りました

・時計の文字盤の「DEEPSEA」の表示が、自他商品の識別標識(他人の商品と区別するための目印)としての機能を発揮し、登録商標の使用に該当すると判断しました

・不使用取消審判では、商品などに登録商標が記載されていれば、登録商標の使用と認められやすい傾向があるので、注意しましょう

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の平成21年(行ケ)第10141号の判決、商標「DEEP SEA」事件の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

原告の株式会社福本電機が、「時計」などの14類の商品を指定する以下の商標登録を保有していました。

     (商登第4146855号)

これに対して、被告であるロレックス社が、原告の商標登録に対して不使用取消審判を請求しました。

審判において、原告は、販売していた腕時計に関する資料を使用証拠として提出しました。

腕時計の文字盤には、上部に「ELGIN INTERNATIONAL」の文字が記載されています。

下部には、「AUTOMATIC」「DEEPSEA」の赤文字の他、「WATER RESISTANT」「660ft=200M」「DATE」の文字が書かれているとのことです。

残念ながら、提出した使用証拠は見つかりませんでしたが、インターネットで調べると、以下のような時計の資料を提出したものと推測します。

               (インターネットサイト「楽天市場」より)

これに対して、審判では、原告の時計の文字盤には、「DEEPSEA」と記載されているものの、商標法上、自他商品識別標識として使用されているものとは認められないと判断しました。

よって、商標法50条1項で規定する登録商標の「使用」とは認められずに、商標登録を取り消す旨、審決が下されました

この審決に不服がある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが、本件になります。

審判においては、登録商標の使用とは認められず、商標登録を取り消すと判断されました

裁判所の判断

あなたは、原告の腕時計の「DEEPSEA」の文字は、商品の内容表示には当たらずに、商標としての識別機能を発揮すると思いますか?

つまり、原告の腕時計の「DEEPSEA」の文字で、他者が販売する腕時計と区別できると思いますか?

結論から先に言えば、腕時計の「DEEPSEA」の文字は、他者の商品と区別する機能も果たすとのことで、商標法上の登録商標の使用に該当するとして、審決を取り消しました

まず、腕時計の下部の4段表示のうち、「AUTOMATIC DEEPSEA」の文字だけが、赤字で記載されています。

「AUTOMATIC」は、機械式の自動巻時計であることを示す一般的な英語用語に対して、「DEEPSEA」は「深海」を意味するので、両者には、意味上の関連性がないとのことです。

また、「AUTOMATIC」と「DEEPSEA」の間にスペースがあることから、「AUTOMATIC」と「DEEPSEA」とに分離して見ることができるとのことです。

さらに、「DEEPSEA」の語が、深い水深の場所でも使用できる腕時計の品質を表示する語として、一般的に使用されていないとのことです。

よって、文字盤の「DEEPSEA」の表示は、自他商品の識別標識(他人の商品と区別するための目印)としての機能を果たす態様で使用されていると判断しました

なお、被告は、「660ft=200M」の表示とあいまって,「DEEPSEA」の表示は「水深200メートルの深海においても使用できる機能及び主な使用表示」に過ぎないと主張しました。

しかし、商品に付された1つの標章(表示)が常に1つの機能しか果たさないとは言えないと裁判所は判断しました。

「DEEPSEA」の表示は、水深200メートルの深海でも使用できる耐水機能を示すと同時に、自他商品を識別させるために付されている商標とも理解されると判断しました。

判断が覆って、裁判では、登録商標の使用に該当すると判断しました

判例から学べること

個人的には、裁判所の判断が正しいかどうか、疑義があります。

原告の使用態様では、需要者が、文字盤から「DEEPSEA」の文字を分離・抽出して、他者の商品と区別するための目印にするとは思えないからです。

しかし、原告が、時計の文字盤に、登録商標「DEEPSEA」を使用していたのは事実です。

不使用取消審判においては、商品などに登録商標が記載されていれば、登録商標の使用と認められやすい傾向があります。

不使用取消審判を請求する前に、本件の判例を参考にしながら、登録商標を使用しているか、検討しましょう!

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