・「ルボタン」などの文字を含む使用商標は、登録商標「Line/ライン」と、社会通念上、同一の商標とは認められませんでした
・登録商標と実際の使用商標が相違すると、不使用取消審判によって、商標登録が取り消さるリスクがあります
・定期的に、使用している態様と登録商標の態様を比較すべきです。必要によっては、実際に使用している態様での再出願を検討しましょう
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の平成27年(行ケ)第10203号の判決、商標「Line/ライン」事件の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
原告の株式会社伊勢半が、以下の商標登録を保有していました。
なお、指定商品は、「化粧品」などです。
これに対して、不使用取消審判が請求されました。
伊勢半は、以下のようなアイライナーの写真を使用証拠として提出しました。
しかし、登録商標の使用とは認められませんでした。
その結果、商標登録を取り消す旨、審決が下されました。
伊勢半は、この審決に不服がありました。
そこで、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが、本件です。
裁判所の判断
不使用取消審判において、登録商標の使用証拠が要求されます。
しかし、登録商標と全く同一でなくても、商標登録の取り消しを回避できます。
登録商標と、社会通念上、同一の商標の使用でも、問題ありません。
なお、社会通念上、同一の商標については、以下の記事をご参照ください。
原告の使用証拠は、登録商標と、社会通念上、同一の商標の使用と言えるでしょうか?
結論から先に言えば、裁判所は、原告の請求を棄却しました。
つまり、登録商標と、社会通念上、同一の商標の使用とは認められないと判断しました。
原告の主張と裁判所の判断を、紹介していきます。
原告の主張(裁判所は認めず)
改めて、原告の製品の写真は、以下の通りです。
「LINE」「ライン」の文字だけではありません。
「Rubotan」や「ルボタン」の文字が含まれています。
この点が、本件の争点です。
原告は、製品・パッケージ中の「LINE」「ライン」の文字が、相対的に際立ち、顕著な印象を与えると述べました。
この態様であれば、登録商標と、社会通念上、同一に該当する旨、主張しました。
しかし、裁判所は、原告の主張を認めませんでした。
登録商標と、社会通念上、同一の商標には該当しない
原告の使用商標から、「ルボタンライン」の称呼(読み)が自然に生じると、裁判所は判断しました。
また、外観上、「LINE」「ライン」の文字が、顕著に際立っていないとのことです。
さらに、本件商品の宣伝広告においても、「ルボタンライン」などと表記しています。
よって、「ライン」もしくは「LINE」部分が、出所の識別標識として使用していた事情も認められません。
以上より、使用商標中から、「ライン」もしくは「LINE」部分を分離・抽出しないとのことです。
つまり、使用商標は、ひとまとまりの表示と認識されるとのことです。
よって、登録商標と、社会通念上、同一の商標とは認められないと、裁判所は判断しました。
判例から学べること
不使用取消審判による、商標登録の取り消しリスク
登録商標と実際の使用商標が相違することが、よくあります。
つまり、ビジネスを進めていく上で、ロゴや使用態様が変更になることは普通です。
しかし、そのような場合、不使用取消審判のリスクがあります。
実際、本件のように、商標登録が取り消されるかもしれません。
登録商標と同一の態様で(少なくとも、社会通念上、同一の態様で)、使用することが大切です。
社会通念上、同一の商標は、広く認められる印象です。しかし、登録商標と使用商標が一致しないと、本件のように、商標登録の取り消しリスクがあります
定期的なチェックの必要性
法務部が商標業務を担っている会社が多いです。
一方、実際に、商標を使用しているのは、事業部門です。
そのため、法務部が気が付かずに、登録商標と異なる態様で、商標を使用していることが多々あります。
このような事態を回避するため、社内の連携が重要です。
また、定期的に、使用している態様と登録商標の態様を比較すべきです。
登録商標と大きく相違していれば、使用している態様を修正しましょう。
もしくは、実際に使用している態様での再出願を検討すべきです。