・原告の商標「TART」が、被告の商標「Julius Tart」と類似しないと判断しました
・原告の商標「TART」は日本では有名ではなく、被告の商標「Julius Tart」から「Tart」部分を分離して認識しないと判断しました
・著名商標の場合、類似範囲が広がるので、原告の商標「TART」が著名であれば、異なった判断が下されたかもしれません
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和4年(行ケ)第10121号の判決、商標「Julius Tart」の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
原告は、「眼鏡」「眼鏡の部品及び附属品」を指定する、商標「TART」の商標登録を保有しています。
一方、被告は、「眼鏡用つる」や「眼鏡」などの商品を指定して、商標「Julius Tart」を商標出願しました。
無事に特許庁の審査を通過して、被告は、商標「Julius Tart」の商標登録を取得しました。
これに対して、原告は、商標「Julius Tart」の商標登録の取り消しを求めて、無効審判を請求しました。
しかし、原告の主張が認められず、商標「Julius Tart」の商標登録を維持する旨の審決が下されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。
商標「TART」の商標登録を保有している原告が、商標「Julius Tart」の商標登録を無効とすべく、裁判所で争いました
裁判所の判断
あなたは、商標「Julius Tart」が、原告の商標「TART」と類似していると思いますか?
結論から言えば、商標「Julius Tart」は商標「TART」と類似しないと判断して、裁判所は原告の請求を棄却しました。
原告の商標「TART」の著名性について
原告は、商標「TART」の著名性について、主張しました。
なぜなら、著名な商標の場合には、通常の商標よりも、商標の保護範囲が拡大するからです。
しかし、2009年から2016年までの間で、商標「TART」が付されているメガネフレームが輸出された数量は、約750個に過ぎませんでした。
また、原告の英語版フェイスブックで米国の俳優・歌手が愛用していると紹介されていますが、日本での著名性には影響しないと判断しました。
よって、原告の商標「TART」が、取引者・需要者の間に、広く知れ渡っているとは判断されませんでした。
商標「Julius Tart」から「Tart」部分が分離して認識されるか?
次に、被告の商標「Julius Tart」から、「Tart」部分が分離して認識するか、検討しました。
具体的には、以下の「つつみのおひなっこや」の最高裁判例で示された規範に照らして、判断しています。
原告は、原告の商標「TART」が著名なので、被告の商標「Julius Tart」中の「Tart」部分に需要者が着目すると主張しました。
しかし、原告の商標「TART」は有名ではないと判断しましたので、裁判所は、原告の主張を採用しませんでした。
商標「Julius Tart」は、外観上、まとまりよく記載されていて、また、「ジュリアスタート」と、よどみなく称呼することもできます。
よって、外観上・称呼上も一体性があり、一体不可分の商標と判断しました。
つまり、商標「Julius Tart」から、「Tart」部分が分離して認識されないと判断しました。
原告の商標「TART」は、特段、有名ではなく、商標「Julius Tart」は、外観上・称呼上、一体性があるので、「Tart」部分が分離して認識されないと判断しました
商標「Julius Tart」と商標「TART」の類否判断
商標「Julius Tart」と商標「TART」は、外観において、構成する文字数が明らかに異なります。
また、称呼においても構成音・構成音数が明らかに異なるので、外観・称呼において、両商標は相紛れるおそれはありません。
さらに、両商標は、特定の観念が生じないので、観念において比較することができない。
よって、商標「Julius Tart」と商標「TART」は、明確に区別できる非類似の商標と判断しました。
判例から学べること
商標が、著名な場合には、広く保護されて、類似範囲が広がります。
しかし、著名と認められるには、膨大な量の使用証拠を提出が必要で、ハードルが高いです。
本件では、原告の商標「TART」が著名とは認められず、被告の商標「Julius Tart」とは類似しないと判断しました。
原告の商標「TART」の著名性を考慮すれば、この判断は妥当です。
もし、原告の商標が、日本で高い著名性を誇っていれば、異なった判断が下されたかもしれません。
商標が著名になれば、その商標の類似範囲が広がって、商標登録で保護できる範囲も拡大します!