実務上、商標出願する前に、商標調査することが多いです。
筆者も、年間、100件以上、商標調査を担当してきました。
本記事を読めば、商標調査の内容・費用や重要性が分かります。
自分で商標調査を行う場合、商標調査のやり方も学べます。
また、商標の専門家(弁理士)に依頼する場合、どのような専門家に頼むべきか、分かります。
商標調査の目的
商標調査とは、商標の登録可能性を把握するための調査です。
商標出願したら、出願商標の商標登録を認めるか、特許庁で審査します。
特許事務所などに商標調査を依頼すれば、商標の登録可能性を事前に把握できます。
商標出願したら、無条件で、商標登録にはならないんですか?
無条件で商標登録にはなりません。商標出願が拒絶される可能性があります
また、商標調査することで、同一又は類似する先行商標がないか、チェックできます。
それにより、商標の使用リスクも把握することができます。
商標を使用し始めてから、商標権侵害で訴えられると、以下のような対応が必要になるかもしれません。
このようなリスクを回避するために、商標を使用する前に、商標調査するのが重要です。
商標調査するメリット
商標出願の前に、商標調査して、登録可能性を知るメリットは、いくつもあります。
代表的なメリットは、以下の通りです。
以下、各々のメリットについて、詳しく紹介していきます。
商標出願するためには、特許庁に支払う印紙代が、最低でも1万2千円、掛かります。
また、特許事務所に、商標出願を依頼した場合には、さらに手数料が掛かります。
登録可能性が低い商標を商標出願しないことで、商標出願のコストを節約できます。
普通、いくつかの候補の中から、商品名やサービス名を決めます。
その場合に、商標調査することで、どの名称であれば、商標登録になりやすいか、知ることができます。
商品名やサービス名を決める際に、商標調査が手助けになります。
商標出願して、特許庁の審査で、同一又は類似する先行商標が見つかれば、拒絶理由が通知されます。
しかし、特許庁の審査結果が届くまで、6~7ヶ月程度、掛かります。
商標調査することで、障害となる先行商標があるか、早期に把握できます。
障害となる先行商標が存在する場合、商標調査することで、早めに対策できます!
商標調査のベストなタイミング
商標調査は、ネーミングと並行して、行うべきです。
調査結果が、商品名やサービス名を決めるのに役立つからです。
また、ネーミングの段階であれば、調査結果が悪かった場合に、別の名称を採択できるからです。
ネーミングから調査・出願までの理想的な流れは、以下の通りです。
言いやすさ、親しみやすさ等を考慮して、いくつかの候補名称を出しましょう!
できれば、専門家(弁理士)に依頼して、候補名称の商標調査を進めましょう!
調査の結果が悪ければ、再度、ネーミングしましょう!
調査結果が良かった候補の中から、使用する名称を決めましょう!
第三者に出願されないために、商標を公開する前に、商標出願しましょう!
詳しくは、以下の記事で、解説しています。
商標調査はいつ行うべき?商標調査のベストなタイミングを解説商標調査の具体的な内容
商標出願の前に、商標調査のサービスを提供している特許事務所が多いです。
なお、特許事務所では、特許庁データベースだけではなく、民間のデータベースを利用することもあります。
まず、出願前の商標調査の内容について、簡単に説明します。
特許事務所に依頼すると、主に2つの観点で、商標の登録可能性・使用リスクを判断します。
同一又は類似する先行商標が存在した場合、出願した商標が登録になりません。
また、他人の商標権を侵害するリスクがあります。
よって、同一もしくは類似する先行商標がないか、チェックします。
なお、商標が類似するかの判断は、以下の記事で紹介しています。
【商標の類否判断】重要!商標が似ているか、どう判断する?商標の類否判断は、専門的な知識と経験が必要です。
商標が類似しているか、判断するのは、難しそうですね
お客さまから相談を受けると、明らかに類似していない商標を、類似していると勘違いしているケースが多々あります!
また、商品や役務(サービス)が類似しているか、併せて、確認する必要があります。
同一の先行商標があっても、商品や役務(サービス)が類似しなければ、原則、問題となりません。
なお、商品・役務(サービス)の類否判断には、類似群コードを用います。
類似群コードが一致すれば、商品・役務(サービス)が類似すると推定されます。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
【重要】商品・役務(サービス)が類似するか、どうやって判断する?類似群コードの使い方を説明!もう1つのチェックポイントが、商標としての特徴(識別力)を有するか、です。
出願商標が、商標としての特徴がなく、識別力を有さないと、原則、商標登録できません。
例えば、商品「チョコレート」を指定して、商標「美味しい」を出願したとします。
出願商標「美味しい」は、「チョコレートが美味しいこと」を表示しているに過ぎません。
よって、「美味しい」の商標出願は、拒絶されます。
「チョコレート」に記載された「美味しい」という文字を見ても、どこの企業のチョコレートなのか、分かりません。
つまり、「美味しい」の文字は、商標として機能しません。
また、「美味しい」の文字は、お菓子メーカーなら、使用したいです。
1つの企業(もしくは個人)に独占的に使用させるのは好ましくありません。
なお、調査対象の商品・役務との関係も考慮して、識別力を判断します。
例えば、「Apple」は、商品「りんご」との関係では、「りんご」を英語で表記したに過ぎません。
よって、商品「りんご」との関係では、識別力を有しません。
一方、商品「スマートフォン」の関係では、どうでしょうか?
「スマートフォン」の関係では、「Apple」は、商品の内容表示には該当しません。
よって、識別力があるので、商標登録が認められます。
商標としての特徴があるか、判断するのも、難しそうですね
専門家でも、なかなか判断が難しいです。商標調査の際には、様々な要素を考慮しています
商標調査のやり方
商標登録できるか、判断するには、専門的な知識・経験が必要です。
できれば、専門家に頼ることをお勧めします。
しかし、予算が限られている場合、自力で調査することも考えられます。
公開データベース「J-PlatPat」は、無料で、誰でも利用できます。
データベース「J-PlatPat」を正しく使用できれば、ある程度、自力で先行商標を調査できます。
具体的には、使用する予定の商品やサービスの類似群コードを調べます
データベースを利用して、同一もしくは類似する先行商標がないか、検索します
先行商標がヒットした場合、調査対象の商標と類似するか、検討します
商品やサービスの直接的な内容表示に該当しないか、インターネットを使いながら、検討します
以下、各ステップごとに、詳しく説明していきます。
まず、特許庁データベースの「商品・役務名検索」を使います。
使用する予定の商品やサービスの類似群コードを調べましょう。
検索キーワードの「商品・役務名」に調べたい商品名・サービス名を入力します。
例えば、「絵の具」の類似群コードを調べたい場合、以下のように入力して、検索します。
そうすると、以下のような検索結果が表示されます。
これにより、「絵の具」の類似群コードが「25B01」だと分かります。
類似群コードが分かったら、「商標検索」に移動します。
「称呼(類似検索)」の欄に、調査対象商標の称呼(読み)をカタカナで入力します。
例えば、商標「虎さん」を調査した場合、「トラサン」と入力します。
また、「類似群コード」の欄に対象の類似群コードを入力して、検索します。
例えば、「絵の具」について、商標調査したい場合、対象の類似群コードの「25B01」と入力し、「検索」ボタンを押します。
そうすると、類似する可能性のある先行商標が表示されます。
以下の記事で、先行商標の調べ方について、より詳しく紹介しています。
出願・登録されている商標の検索方法を分かりやすく紹介!先行商標がヒットしたからといって、必ずしも、その商標と類似するとは限りません。
個別具体的に判断する必要があります。
商標が類似するかの判断は、専門的な知識と経験が必要です。
判断に迷うようであれば、弁理士などの専門家に相談しましょう。
出願商標が、商標としての特徴がないと商標登録になりません。
なお、商標としての特徴は、専門用語で、「識別力」と言います。
調査商標が、商品やサービスの直接的な内容表示に該当するか、検討しましょう。
その際には、インターネットでの調査が有効です。
例えば、ゲームアプリにおける「AI将棋」の商標調査をしているとします。
インターネットで調べると、以下のような「AI将棋」の使用例が見つかりました。
このような使用例を踏まえると、「AI将棋」は「AI(人工知能)を用いた将棋ソフト」程度の意味合いしか、有さないでしょう。
つまり、「AI将棋」は、識別力を有さず、商標登録が難しいと推測できます。
商標調査の費用
商標調査の費用の相場は、1区分であれば、3万円程度です。
なお、区分数が増えれば、調査する範囲が広がるので、その分、調査費用が増額します。
また、調査費用は、特許事務所によって、大きく異なります。
例えば、1区分の文字商標の調査費用は、以下の通りです。
ベリーベスト国際特許事務所 | 5万5千円(税込) |
オンダ国際特許事務所 | 2万円 |
アース国際特許商標事務所 | 2万2千円(税込) |
一方、商標出願が前提であれば、無償で簡易調査を実施してくれる特許事務所もあります。
ちなみに、筆者の事務所の「すみや商標知財事務所」も、商標出願する場合、商標調査の費用が、実質、無料になります。
なお、商標調査の際、特許庁に支払う印紙代は、発生しません。
自分でやれば、弁理士に支払う手数料が掛かりません。
つまり、自分で商標調査した場合、調査費用は無料です。
商標調査の期間
特許事務所によって、調査に掛かる期間も異なります。
ただ、依頼してから、1週間もあれば、調査報告書が届くと思います。
たとえば、オンダ国際特許事務所であれば、通常3営業日とのことです。
調査報告書を読めば、数分で、調査結果が分かります。
なお、弁理士に依頼せずに、自分で商標調査することも考えられます。
その場合には、やり方を調べながら、数時間で、商標調査の結論が出せるでしょう。
商標調査を「自分でやる」VS「プロに任せる」
自分で商標調査をすることもできます。
一方、商標専門の弁理士のようなプロに任せる方法もあります。
「自分でやる」「プロに任せる」、各々、メリット・デメリットがあります。
比較できるよう、簡単に以下のリストにまとめました。
自分でやる | VS | プロに任せる |
経験がないと、判断が難しい | 精度 | 専門家なので、精度は高い |
慣れていないと、数時間、掛かる | 時間 | 調査報告書を読むだけなので、数分 |
無料 | コスト | 原則、有料で、数万円、掛かる |
自分で調査すれば、費用が掛かりませんね
はい、そうです。しかし、プロに任せた方が、調査の精度が高く、手間も省けるので、できれば、弁理士に依頼することをおススメします!
なお、筆者としては、商標調査は、プロ(弁理士)に依頼すべきと考えています。
理由は、例えば、以下の通りです。
以下の記事で、より詳しく、紹介しています。
商標調査は弁理士に依頼すべき!5つの理由とデメリットの解消法を紹介おススメの商標調査の依頼先
商標調査には、商標の専門的な知識・経験が必要です。
コストを度外視していいのであれば、商標部門のある大手特許事務所に依頼することが考えられます。
また、数は多くありませんが、商標専門の弁理士事務所もあります。
商標に特化していて、専門性が高いので、そのような事務所に依頼することも考えられます。
筆者も、商標専門の弁理士として、12年の経験があり、これまで、膨大な量の商標調査を担当しました。
筆者(すみや商標知財事務所)に商標調査を依頼する場合、事務所ホームページから、ご連絡ください。
多数の商標調査に対応した実績あり
商標調査の必要性が低いケース
なお、商標調査は、商標出願するための必須の手続きではありません。
余分なコストを掛けたくなければ、有料の商標調査を特許事務所に依頼する必要はありません。
有料の調査をせず、商標出願を進めることもできます。
商標の変更の余地がなければ、商標調査の必要性が低いです。
例えば、長年、使用していて、変更できない社名や商品名などです。
商標調査の必要性について、判断が付かなければ、筆者(すみや商標知財事務所)にご相談ください。
多数の商標調査に対応した実績あり
・商標調査では、主に、先行商標との関係、及び、識別力(商標としての特徴性)の観点から、商標登録になるか、検討します
・商標調査は、必須の手続きではありません。商標の重要度や商標の変更可能性を考慮しつつ、特許事務所に商標調査をお願いするか、検討しましょう
・特許庁データベースを利用すれば、自力で、同一もしくは類似する先行商標がないか、ある程度、把握できます