商標法が改正されて、2024年4月1日に、コンセント(同意書)制度が導入されました。
10年以上の実務歴が商標専門の弁理士が、公開された情報や自身の経験から、商標法の改正ポイントを紹介します。
この記事を読めば、コンセント制度の利用方法や注意点が分かります。
また、法改正前の対応方法や法改正に至った経緯・理由も、教えます。
コンセント制度の導入前の商標実務(アサイン・バック)
同一もしくは類似する商品・役務において、類似する先行商標が存在したとします。
その場合、商標出願しても、特許庁の審査官は、商標登録を認めません。
具体的には、特許庁から、登録が認められない旨の拒絶理由通知書が届きます。
これに対して、先行商標権者からの商標登録を認める旨の同意書を提出しても、原則、拒絶理由を解消できません。
なお、先行商標権者と出願人が親子関係にある場合などは、例外的に、同意書の提出で拒絶理由を解消できます。
同意書では拒絶理由が解消できない場合、代替手段として、いわゆる「アサイン・バック」で対応しています。
具体的には、商標出願を一時的に先行商標権者に譲渡することで、拒絶理由の解消を図ります。
その後、審査を通過して、登録査定になったら、商標出願を出願人に戻します。
簡単に、「アサイン・バック」の流れを紹介すると、以下の通りです。
<アサイン・バックによる拒絶理由の克服>
特許庁から拒絶理由通知書が届く
→対象の商標出願を先行商標権者に譲渡する
→拒絶理由を解消でき、出願商標が登録査定になる
→対象の商標出願を出願人に戻す
ちなみに、「アサイン・バック」は、商標法上、規定された制度ではありません。
しかし、先行商標権者が商標登録に協力してくれる場合、このような手法で対応するのが、実務上、一般的です。
コンセント制度の導入(法改正)に至った経緯
現行の法制度には、いくつかの不満があり、今回の法改正に至りました。
つまり、本格的な同意書制度の導入が決定しました。
法改正の主な要因は、以下の3つです。
- 国際的な制度の調和
- ユーザーニーズの高まり
- 法改正前の法制度の限界
多くの諸外国では、日本と異なり、コンセント(同意書)制度が存在します。
主に大企業の場合、商標登録の並存に同意する旨、グローバルな契約を結ぶことがあります。
そのようなケースでは、日本での手続きが、外国と異なることになります。
このような事情から、主に外国の企業は、現行の法制度に不満を持ちました。
国際的な制度の調和が、法改正の要因の1つです。
なお、韓国も、日本と同様、2024年4月にコンセント制度が導入されます。
アメリカ・中国・シンガポールなど、多くの国で、同意書の制度を採用しています
アサイン・バックだと、一時的に権利移転するので、リスクを伴います。
覚書や契約を結ばないと、先行の商標権者が、ちゃんと商標出願を返してくれるか、分かりません。
また、同意書の交渉手続や費用の負担が大きくなることがあります。
このような現状で、中小企業を含むユーザーから、より簡便なコンセント制度の導入が求められました。
このようなユーザーニーズも、同意書制度の要因の1つです。
アサイン・バックの場合、権利を移転するだけでも、特許庁に支払う費用が生じます。また、他者に権利を移転することに、抵抗感がある出願人も存在します
法改正前の法制度でも、親子関係にある場合などは、例外的に、同意書の提出で、拒絶理由を解消できます。
しかし、あくまでも例外規定であって、出願人にとって、利用しにくい場面が多々あります。
つまり、現行の法制度には限界があります。
そこで、法改正により、コンセント(同意書)の対象の拡大を考えました。
コンセント制度の導入(法改正)した後の商標実務
法改正後、対象を拡充したコンセント(同意書)制度が導入されます。
先行商標権者からの商標登録を認める旨の同意書などを提出すれば、拒絶理由を克服できる可能性があります。
同意書によって、拒絶理由を克服するまでの流れは、ざっくり、以下の通りです。
<同意書の提出による拒絶理由の克服>
特許庁から拒絶理由通知書が届く
→先行商標権者からの同意書などを特許庁に提出
→審査官が、出所の混同のおそれがないと判断すれば、出願商標が登録査定になる
また、特許庁では、以下の図で説明しています。
アサイン・バックのように、権利を移転する必要がありません。
つまり、アサイン・バックに比べて、より簡便な方法で、対応できます。
同意書を提出すれば、絶対、拒絶理由を克服できるわけではありませんので、注意しましょう。
同意書を提出しても、出所を混同するおそれがあると審査官が判断した場合には、登録査定になりません。
アメリカや中国などと同様、いわゆる、「留保型」のコンセント制度の予定です。
審査官が、どこまで厳しく判断するか、審査の運用を注視する必要があります。
あまりにも厳しく判断されると、同意書の提出で拒絶理由を解消できない危険性があります。
その場合には、従来通り、「アサイン・バック」による拒絶理由の解消を検討せざるを得ません。
また、現状、公表されていませんが、どうような書類を提出すべきか、注意する必要があります。
おそらく、先行権利者の承諾を示す書類(同意書)は必須でしょう。
それ以外に、両商標が混同しないような使用状況であることを示す書類などが、必要かもしれません。
具体的に、どのような書類を提出すべきか、今後の動向を注視していきます。
同意書の提出で、先行商標との関係での拒絶理由を解消できる可能性があります。ただし、出所の混同のおそれがあると審査官が判断したら、登録査定になりません
同意書の提出で商標登録を取得すると、似たような商標が併存して登録になります。
その場合、一方の権利者の登録商標の使用により、他方の権利者の業務上の利益が害される危険性があります。
そのため、同意書の提出で商標登録を取得したら、当事者間で混同防止表示を請求できるよう、併せて、法改正する予定です。
また、出所が混同するようだと、一般の消費者にも迷惑が掛かります。
そのような商標登録を取り消せるように、誰でも、取消審判が請求できる予定です。
なお、特許庁では、以下の図を使って、説明しています。
コンセント制度の導入(商標法改正)の時期
2023年3月10日、法律案が閣議決定されて、通常国会に提出されました。
2023年6月7日に可決・成立し、6月14日に公布されました。
その後、2023年11月24日に、閣議決定されました。
2024年4月1日に施行されました。
コンセント制度で分からないことがあれば、商標専門の弁理士に相談!
実際にコンセント制度を利用しようとしたら、分からないことが出てくると思います。
そのような場合、一人で悩まずに、商標専門の弁理士に相談しましょう。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)に相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士
・現行の商標実務では、先行商標権からの同意書を提出しても、原則、拒絶理由を克服できません。商標出願の一時的な譲渡(アサイン・バック)などで、対応しています
・国際的な制度の調和やユーザーニーズの高まりを理由に、対象を拡充したコンセント(同意書)制度を導入する予定です
・ただし、同意書を提出すれば、絶対に拒絶理由を克服できるわけではありません。最終的な判断は審査官に委ねられます