依頼者から、よく受ける質問の1つが、「審査スピードを速められないか?」です。
早期審査制度を利用すれば、通常より早く、審査結果を得られます。
筆者は、10年以上、商標専門の弁理士として働いて、早期審査を申請した経験も、数多いです。
この記事を読めば、早期審査の利用方法が分かります。
また、早期審査のメリットやデメリットも、教えます。
商標の早期審査を利用すれば、審査期間を最短2ヶ月程度に短縮できる!
現状、商標出願してから、審査結果が届くまで、6か月程度、掛かります。
審査期間が、結構、長いと感じる人もいるでしょう。
すでに事業を開始している場合など、早く審査結果を知りたいケースが多々あります。
早期審査制度を利用すれば、審査を早めることができます。
最短で、審査期間を2ヵ月程度に短縮することが可能です。
商標の早期審査の需要は高まっている!
早く審査結果を知りたいというニーズは、年々、高まっています。
早期審査の申出件数は、2022年、少し下がりましたが、基本的には右肩上がりです。
早く商標登録を取得したい、審査結果を知りたいと、お客さまから、頻繁に相談を受けます!
商標の早期審査の要件(条件)
早期審査は、特別に、通常よりも審査を早めてくれる制度です。
つまり、申し出れば、無条件に適用されるわけではありません。
特許庁ホームページで、早期審査の条件を簡潔に説明していますので、以下の図をご参照ください。
なお、分厚いですが、「商標早期審査・早期審理ガイドライン」において、より詳しく説明しています。
まず、出願商標を既に使用している、もしくは、使用の準備を、相当程度、進めていることが、必須の条件です。
既に出願商標を使用している場合には、例えば、以下のような書類を提出します。
- 商標を付けた商品を撮影した写真
- 商標を付けた役務の提供の用に供する物を撮影した写真
- 商標を付けた商品・役務に関するパンフレット又はカタログ
- 商標を付けた商品・役務に関する広告やウェブサイトの画面の写し
提出資料から、出願商標を対象の商品・役務に使用していることが、はっきりと分かるようにしましょう。
また、相当程度、使用の準備を進めていることの証明資料は、例えば、以下のようなものです。
- 商標が付された商品・役務が掲載されたパンフレット・カタログ等の印刷についてその受発注を示す資料
- 商標が付された商品・役務が掲載された広告についてその受発注を示す資料
- 商標が付された役務の提供の用に供する物の受発注を示す資料
- 商標が付された商品・役務に関するプレス発表や新聞記事
受発注を示す資料なので、発注したことを示す資料及びそれが受注されたことを示す資料の双方が必要です。
また、社内における商品パッケージのデザイン案やホームページでの使用イメージ案だけでは不十分なので、注意しましょう。
特許庁では、以下のような例を示しています。
出願商標の使用もしくは使用の準備に加えて、以下の3つの条件のいずれか1つを満たす必要があります。
① 権利化についての緊急性がある
他者が出願商標を無断で使用している、他者から警告を受けた、他者からライセンス請求があった等の事情が該当します。
また、出願商標をすでに外国で出願していたり、マドプロ出願の基礎出願になっている場合でも、認められます。
なお、実際にマドプロ出願していなくても、マドプロ出願の予定があることを証明すれば、認められる可能性があります。
その場合、以下のような宣誓書を提出する必要があります。
宣誓書に記載するマドプロ出願の予定時期は、早期審査の申出から3ヶ月程度以内が目安です。
② 全ての指定商品・役務について出願商標を使用している
指定商品・役務には、現在、使用していないものも含めることができます。
しかし、その場合には、この要件を満たしません。
この要件を満たすためには、全ての指定商品・役務について、すでに使用している、もしくは、相当程度、使用の準備を進めている必要があります。
なお、早期審査の申請と同時に、手続補正書を提出して、指定商品・役務を限定できます。
③ 「類似商品・役務審査基準」等の掲載の商品・役務のみを指定
この要件(条件)が、3つの中でも、比較的、満たしやすいです。
指定商品・役務は自由に記載できますが、「類似商品・役務審査基準」等の掲載の商品・役務に限定すれば、この要件を満たします。
逆に言うと、「類似商品・役務審査基準」等の掲載されていない商品・役務が含まれていると、この要件を満たしません。
出願前に、早期審査の適用を目指している場合、指定商品・役務をどうするか、十分に検討しましょう。
いくつかのパターンがありますが、出願商標を使用している、もしくは、相当程度、使用の準備を進めていることは、必須です!
商標の早期審査の利用方法(申請書の書き方)
早期審査を利用したい場合、出願人または代理人が、特許庁に「早期審査に関する事情説明書」を提出します。
提出方法は、オンラインでも書面でも、どちらでもOKです。
商標出願したら、いつでも提出可能で、商標出願と同時でもOKです。
なお、特許庁に支払う費用はありません。
つまり、出願人が、自力で事情説明書を作成して、特許庁に申請すれば、無料です。
ただし、弁理士に頼むと、別途、手数料が掛かります。
「早期審査に関する事情説明書」のフォームは、以下の通りです。
早期審査に関連した項目の記載方法について、簡単に説明していきます。
出願人の場合は「出願人」と記載します。
ライセンシーの場合、その者の氏名(名称)と住所(居所)を記載します。
「ゴルフ靴」のように、出願商標を使用している商品名(役務名)を具体的に記載します。
対象の商品・役務において、いつから出願商標を使用しているのか、記載します。
具体的には、「令和○年○月から使用中」のように記載します。
なお、使用の開始時期を証明する書類の提出は必要ありません。
出願商標が使用された場所の具体的な住所を記載します。
例えば、「○○県○×市△△の本社営業所内」と記載します。
なお、商標の使用場所は日本国内に限ります。
また、インターネット上の使用である場合は、URLを記載します。
出願商標の使用証明として、どういった資料を提出するのか簡潔に示します。
例えば、「出願商標の使用を示す資料として、商品のパンフレットを添付する。」のように記載します。
早期審査の要件を満たすために、手続補正書を提出した場合、この項目を設けます。
「令和○年○月○日に手続補正書を提出」のように記載します。
なお、手続補正書を提出していない場合、この項目は不要です。
早期審査の要件(条件)を満たすために、「権利化について緊急性」を証明することがあります。
その場合には、「緊急性を有する事情の説明」の項目を設けて、以下の事項を記載します。
① 他者が出願商標を無断で使用している場合
無断使用している者の住所(居所)や氏名(名称)を記載します。
また、使用に係る商品(役務)、使用場所なども記載します。
さらに、その使用の事実を示す書類も提出します。
② 他者から警告を受けた場合
警告を発した者の住所(居所)や氏名(名称)を記載します。
また、警告の根拠となる商標登録番号、商標、指定商品 (指定役務)なども記載します。
さらに、その証拠書類も提出します
③ 他者からライセンス請求があった場合
ライセンスを求めている者の住所(居所)や氏名(名称)を記載します。
また、使用許諾を求められている指定商品(指定役務)や期間なども記載します。
さらに、その証拠書類を提出してください。
④ 出願商標をすでに外国で出願している場合
出願している外国名(政府間機関名)、出願日や出願番号を記載します。
また、その出願書類の写しも提出します。
商標の早期審査の注意点
出願商標と使用(使用準備)商標は、同一である必要があります。
しかし、厳密に一致しない場合でも、その差異の程度がわずかであれば、同一と判断する可能性があります。
商標早期審査のガイドラインによると、例えば、以下のようなケースであれば、同一と認められます。
しかし、以下のようなケースでは、同一とは認められないので、注意しましょう。
出願人ではなく、その子会社や関連会社、もしくは、ライセンシーが出願商標を使用するケースがあります。
使用者が出願人の子会社や関連会社の場合には、出願人との関連性が分かる資料を提出します。
具体的には、組織図や支配関係を示すホームページの画面の写しです。
また、使用者がライセンシーの場合には、ライセンス契約を結んでいることが分かる資料を提出します。
具体的には、ライセンス契約書や使用許諾書などです。
商標の早期審査が認められた場合と認められなかった場合
特許庁に「早期審査に関する事情説明書」を提出した後、特許庁が早期審査を適用するか、審査します。
早期審査が認められた場合には、特許庁から、特に、通知が来ません。
特に、特許庁から通知がなければ、早期審査が適用されたので、安心してください。
なお、特許庁のデータベースで確認することも可能です。
早期審査が適用されると、「経過情報」の「出願情報」の欄に、以下のように記載されます。
早期審査が適用されたか、気になるようであれば、特許庁のデータベースで確認してみましょう。
早期審査が認められなかった場合、特許庁から、「早期審査選定結果の通知書」が届きます。
選定結果として、「早期審査の対象としない。」と書かれて、その理由が記載されます。
その理由を検討して、不備が是正できるようであれば、再度、「早期審査に関する事情説明書」を特許庁に提出できます。
一方、選定結果を受け入れた場合には、特に、対応は不要です。
その場合には、早期審査が適用されず、通常の審査スピードで対応されます。
商標の早期審査のメリットとデメリット
早期審査のメリット・デメリットは、以下の通りです。
早期審査のメリット | vs | 早期審査のデメリット |
・審査期間を短縮できる | ・弁理士に依頼すると、手数料が掛かる ・早期審査の利用条件を満たす必要がある (指定商品・役務の記載に制約を受けるかも) |
早期審査の最大のメリットは、審査期間の短縮です。
早期審査制度を利用することで、審査を早めることができます。
実際、早く審査結果を知りたいというニーズは高く、早期審査の申出件数も、年々、増えています。
早期審査の利用のためには条件があります。
出願商標を使用している、もしくは、相当程度、使用の準備を進めていることが、必須です。
また、例えば、早期審査の利用のために、指定商品・役務の記載に制約を受けるかもしれません。
さらに、弁理士に依頼すれば、弁理士に支払う手数料が掛かります。
早期審査のメリット・デメリットを比較した上で、早期審査を利用するか、検討しましょう。
商標の早期審査で分からないことがあれば、特許庁や商標専門の弁理士に相談!
早期審査を申請しようとして、分からないことがあれば、特許庁に問い合わせましょう。
または、商標専門の弁理士に連絡することも考えられます。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)にご連絡いただければ、親身になって、一緒に検討します。
早期審査の申請実績、多数あります
・早期審査制度を利用すれば、審査期間を2ヵ月程度に短縮できます。ただし、早期審査の適用のためには、いくつかの要件(条件)があります
・早期審査を利用したければ、特許庁に「早期審査に関する事情説明書」を提出します。早期審査が適用できないと判断した場合のみ、特許庁から通知が届きます
・早期審査のメリット・デメリットを把握した上で、早期審査を利用するか、検討しましょう