・森永製菓は、「ミルクキャラメル」の商標登録を保有しています。「ミルクキャラメル」の文言を使用すると、形式的には森永製菓の商標権を侵害します
・しかし、商標法では、例外的に商標権の効力が及ばない範囲が設定されています。「ミルクキャラメル」の文言が、商標の内容表示に過ぎなければ、商標権の効力が及びません
・他社の使用状況などを勘案すると、「ミルクキャラメル」の文言を使用できる可能性が高そうです(筆者の個人的な見解です)
森永製菓の「ミルクキャラメル」と商標登録
突然ですが、森永製菓の「ミルクキャラメル」を知っていますか?
ほとんどの人が、一度は、食べたことがあると思います。
ロングセラーの人気のキャラメルです。
森永製菓は、以下の「ミルクキャラメル」の商標登録を保有しています。
なお、驚くことに、商標登録した年は、1917年です。
100年以上、生き続けている商標登録です。
質問(キャラメルに「ミルクキャラメル」の語を使用できるか)
それでは、質問です。
あなたが、キャラメルを製造・販売していたとします。
新商品の名称に「ミルクキャラメル」の語を使用したいとします。
その場合、1つの懸念が生じます。
森永製菓の「ミルクキャラメル」の商標権を侵害しないでしょうか?
森永製菓の登録商標には、「ミルクキャラメル」の文字が含まれています。
また、森永製菓の商標登録の指定商品は、「キャラメル」です。
よって、「ミルクキャラメル」の使用は、形式的には、森永製菓の商標権を侵害しそうです。
ここで、ポイントになるのは、「商標権の効力が及ばない範囲」に該当するか、です。
登録商標と類似する文言を使用しても、実質的に判断して、商標権侵害に該当しないことが多々あります
商標権の効力が及ばない範囲について
まずは、商標法の条文をチェックしてみましょう。
商標法26条1項2号では、以下のように、規定しています。
当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、(省略)を普通に用いられる方法で表示する商標
条文だと分かりにくいので、もう少し、簡潔に説明します。
商品の品質や原材料を表示しているに過ぎない場合、例外的に、商標権の効力が及びません。
つまり、商品の直接的な内容表示であれば、自由に使用できます。
商品の直接的な内容表示だと、誰の商品・サービスか、分かりません。
商標として機能しないので、誰でも使うことができます。
本件では、「ミルクキャラメル」の語が、商品の直接的な内容表示に該当すれば、森永製菓の商標権の効力が及びません。
「ミルクキャラメル」が商品の内容表示に該当するか
「ミルクキャラメル」の語は、「ミルク」と「キャラメル」の語からなります。
「牛乳を使ったキャラメル」の意味合いが生じ、商品の内容表示に該当しそうです。
ただ、これだけでは、説得力がありません。
商品の内容表示に過ぎないことを示す証拠がないか、探していきます。
商品・サービスの内容表示に該当するか、判断するのは、なかなか難しいです
辞書の記載
辞書に掲載されていれば、普通名称や一般名称であることの証拠になります。
日本国語大辞典には、以下の意味で「ミルクキャラメル」の語が掲載されています。
牛乳を入れてつくったキャラメル。
よって、この辞書の記載は、役に立ちそうです。
他社の使用事例
裁判では、他社の使用事例を考慮して、判断します。
実際の消費者の判断が、重要だからです。
多くの人が、商品・サービスの内容表示として使用していれば、商標として機能しません。
インターネットで調べると、以下の「ミルクキャラメル」の使用事例が見つかりました。
このような使用状況から、「ミルクキャラメル」が商品の内容表示に過ぎないと言えそうです。
商標登録の併存例
商標登録の並存例も、判断の参考になります。
「ミルクキャラメル」が、特徴のある言葉でだったとします。
その場合、「ミルクキャラメル」を含んだ他社の出願商標は、拒絶されます。
つまり、「ミルクキャラメル」を含んだ商標が、森永製菓の商標登録と併存して、商標登録されません。
しかし、実際には、以下の商標が、森永製菓の商標登録と併存して、登録になっています。
このような事実から、「ミルクキャラメル」の文言は、商標としての特徴がないと言えそうです。
商標出願の拒絶例
出願商標が、商標としての特徴(識別力)を有さないと判断されると、商標出願が拒絶されます。
このような拒絶例も、証拠資料となり得ます。
特許庁データベースを利用すれば、拒絶例を探せます。
そうすると、特許庁の審査で、以下の商標が、商標としての特徴を有さないとして、拒絶されています。
拒絶された商標には、「ミルクキャラメル」の語が含まれています。
この事実は、「ミルクキャラメル」の語が商品の内容表示に過ぎないことを裏付けています。
結論(「ミルクキャラメル」を使用できる可能性が高い!)
上述したように、「ミルクキャラメル」の他社の使用例や併存登録例を見つけました。
このような証拠資料から、「ミルクキャラメル」は、「牛乳で作ったキャラメル」を意味するに過ぎないと考えられます。
つまり、「ミルクキャラメル」の文言は、商品の内容表示に該当しそうです。
よって、キャラメルに、「ミルクキャラメル」の文言を使用できる可能性が高そうです。
ただし、筆者の個人的な見解に過ぎません。
裁判では、森永製菓の「ミルクキャラメル」の著名性が勘案されます。
実際には、裁判で争ってみないと、どう判断されるか、正確には分かりません。
また、パッケージが似ていると、権利侵害のリスクが高まります。
消費者が、森永製菓の商品と誤認・混同する可能性があるからです。
なお、「滋養豊富」「風味絶佳」の文字も一緒に使用した場合も同様です。
森永製菓の商標権を侵害する危険性が高まります。
登録商標の一部分を使用したいケースは多々ありますが、なかなか判断が難しいです。
使用しても、問題ないかどうか、様々な観点から、慎重に検討しましょう。