不使用取消審判は、商標登録を取り消すための制度で、実務上、よく利用されます。
商標法の条文を見ると、登録商標には、社会通念上、同一の商標が含まれると、規定されています。
実務歴10年以上の商標専門の弁理士が、分かりやすく解説します。
この記事を読めば、不使用取消審判における社会通念上、同一の商標を把握できます。
また、不使用取消審判を利用したり、不使用取消審判に対応するのに、役に立ちます。
不使用取消審判が請求されたら、使用証拠の提出を検討!
あなたが商標登録を保有していて、あなたの商標登録に対して、不使用取消審判が請求されました。
その場合、登録商標を使用していることを立証する必要があります。
立証しないと、商標登録が取り消されてしまいます。
なお、不使用取消審判については、以下の記事をご参照ください。
具体的には、登録商標の使用を示す証拠資料を、特許庁に提出します。
登録商標と、社会通念上、同一の商標の使用証拠でも、問題ありません。
不使用取消審判を請求された場合、登録商標と、社会通念上、同一の商標の使用証拠の提出でも、商標登録の取り消しを回避できます!
それでは、社会通念上、同一の商標とは、どのような商標が該当するでしょうか?
登録商標と、社会通念上、同一の商標と認められるケース
まず、商標法の条文をチェックすると、以下のように、規定されています。
書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む
条文だと、なかなか理解しにくいですよね。
それでは、審判便覧(審判便覧(第20版) | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp))から、具体例を出して、説明します。
特許庁によると、以下のようなケースであれば、社会通念上、同一と認められます。
- 登録商標「學藝」≒使用商標「学芸」(漢字の正字と略字の相違)
- 登録商標「HI-KE」≒使用商標「hi-ke」(大文字と小文字の違い)
- 登録商標「ちゃんぴおん」≒使用商標「チャンピオン」(平仮名と片仮名の違い)
- 登録商標「ラブ」≒使用商標「love」(片仮名とアルファベットの違い)
- 登録商標「」≒使用商標「」(フォントの相違)
また、以下の商標も、外観において、同視できます。
つまり、社会通念上、同一の商標です。
- 登録商標「」≒使用商標「」
- 登録商標「」≒使用商標「」
登録商標が二段併記の構成の場合も多いです。
その場合、上段及び下段の観念が同一であれば、その一方の使用で、社会通念上、同一と認められます。
具体的には、以下のような事例です。
- 登録商標「」≒使用商標「太陽」
ある程度、広く、登録商標と、社会通念上、同一の商標と認められます!
登録商標と、社会通念上、同一の商標と認められないケース
一方、同一の称呼(読み)が生じる場合でも、社会通念上、同一と認めれないケースがあります。
具体的には、片仮名とアルファベットのいずれかに、別異の観念(意味合い)が含まれる場合です。
例えば、以下のようなケースです。
- 登録商標「ピース」≠使用商標「peace」
「ピース」からは、「peace」以外に「piece」も想定できます!
また、平仮名と漢字のいずれかに、別異の観念(意味合い)が含まれるケースも、要注意です。
同一の称呼(読み)が生じても、社会通念上、同一とは認められません。
具体的には、例えば、以下のようなケースです。
- 登録商標「さいてん」≠使用商標「祭典」
「さいてん」からは、「祭典」以外に「採点」も想定できます!
さらに、以下のようなケースも、社会通念上、同一とは認められません。
- 登録商標「音楽」≠使用商標「music」
- 登録商標「蛙」≠使用商標「」
- 登録商標「」≠使用商標「」
社会通念上、同一の商標と認められなかった審決例
登録商標「GlassPong」に対する不使用取消審判(取消2023-300128)の事例も参考になります。
審決例は、こちらです。
登録していた商標は「GlassPong」に対して、使用していた商標は「GlassPong+」です。
両商標を比較すると、「+」の有無しか、違いはありませんが、「GlassPong+」は、登録商標と、社会通念上、同一の商標には該当しないと判断されました。
社会通念上、同一と認められないケースもあります。紹介した事例を参考にして、注意しましょう
・フォントや片仮名と平仮名の違いなどであれば、社会通念上、同一の商標と認められる可能性があります
・二段併記の商標も、一定の条件を満たせば、その一方の使用で、社会通念上、同一と認められます
・複数の観念(意味合い)が生じる場合には、社会通念上、同一とは認められない危険性があるので、注意しましょう