・商標の普通名称化とは、商品・サービスの普通名称となることです。つまり、他者の商品・サービスと区別するという商標の基本的な機能が失われることです。
・「招福巻」「エスカレーター」「正露丸」などが普通名称化の事例です
・普通名称化を防ぐためには、を登録商標に付けること等が考えられます
登録商標の普通名称化は、「商標登録後に、商品・サービスの普通名称になること」
突然ですが、「登録商標の普通名称化」とは、何か分かりますか?
以下の記事で紹介している通り、普通名称は商標登録できません。
【商標登録できないもの】普通名称よって、登録になっている商標は、特許庁の審査で、普通名称には該当しないと判断されています。
しかし、登録商標が、不特定多数の人に使用されることで、誰の商品・サービスなのか、分からなくなることがあります。
つまり、他者の商品・サービスと区別するという商標の基本的な機能が失われ、商標が商品・サービスの普通名称となった状態です。
このように、商標としての機能を喪失して、商品・サービスの普通名称になってしまうことを、「登録商標の普通名称化」といいます。
不特定多数の人が、普通名称のように、登録商標を使用することで、登録商標の普通名称化が起こります
登録商標が普通名称化するデメリット(商標権の空洞化)
多くの人に使用されることで、自分の登録商標が、世の中に広く知れ渡りますので、良いことのように思えます。
それでは、登録商標が普通名称化することの何が問題なのでしょうか?
端的に言えば、登録商標が普通名称化するデメリットは、商標権の空洞化です。
まず、商標法には、無効審判制度があり、商標登録に無効理由があった場合には、取り消せます。
しかし、後発的に普通名称になった場合、無効理由には該当しません。
つまり、無効審判では、普通名称化した商標登録を取り消せません。
無効審判によって、商標登録が取り消されず、商標登録を維持できるので、一見すると、普通名称化しても、問題ないように思えます。
しかし、商標法には、商標権の効力が及ばない範囲が規定されていて、商標法26条1項2号で、以下の通り、普通名称に対して、商標権の効力が及ばない旨、定めています。
当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、(省略)を普通に用いられる方法で表示する商標
よって、登録商標が普通名称化してしまうと、他者が勝手に登録商標を使用しても、商標権の効力が及ばなくなります。
つまり、実質的に、商標権の効力がなくなり、商標権が空洞化してしまいます。
普通名称化により、商標権の効力が及ばないと判断された判例(裁判例)があります。
例えば、以下の記事で紹介している「招福巻」の事件です。
商標「招福巻」事件の判例紹介ざっくりと言えば、登録商標「招福巻」が、巻き寿司の一態様を示す商品名として、すでに普通名称になったと裁判所は判断しました。
そのため、他者の「十二単の招福巻」の使用が、「招福巻」の商標権侵害に該当しないと判断しました。
このように、登録商標が普通名称化してしまうと、商標権が空洞化するという、大きなデメリットがあります。
登録商標が普通名称化してしまうと、他人が無断に使用しても、商標権が及ばない危険性があります
登録商標の普通名称化の具体例
上述した「招福巻」以外にも、普通名称化した事例は、多々あります。
その中でも、代表的な事例は、2つ紹介します。
- エスカレーター(従来には存在しなかった革新的な商品・サービス)
- 正露丸(商標が広く知れ渡り、普通名称化)
従来には存在しなかった革新的な商品・サービスの名称は、普通名称化しやすい傾向にあります。
代表的な例が、「エスカレーター」です。
もともと「エスカレーター」は、階段式の昇降機の商標(商品名)でした。
しかし、有名になり過ぎたために、「エスカレーター」の語が、階段式の昇降機そのものの意味合いで認識されるようになりました。
つまり、「エスカレーター」は、階段式の昇降機の普通名称になってしまいました。
現在では、普通名称として、広く一般的に使用されていて、「エスカレーター」が登録商標だったことを知らない人が多いでしょう
また、商標が広く知られるようになると、商標の普通名称化が発生するようなことがあります。
その代表的な例が、「正露丸」です。
「正露丸」は、大幸薬品社の登録商標です。
しかし、「正露丸」が世の中に普及していくにつれて、似たような成分の製品に「正露丸」の名称が使用されるようになりました。
その結果、「正露丸」は、クレオソートを主剤とする丸薬の普通名称となってしまいました。
「正露丸」は、有名になって、似たような製品に、勝手に登録商標が使用された結果、普通名称になった事例です
登録商標の普通名称化の防止策
それでは、普通名称化を防止するためには、どうすればいいでしょうか?
登録商標の普通名称化の防止策として、以下の3つの対応が考えられます。
- 登録商標であることを明示する
- 権利者が、普通名称化しないよう、注意して、登録商標を使用する
- 第三者の無断使用に対して、注意を払う
例えば、使用している商標が登録商標であることを明示することが挙げられます。
具体的には、パッケージやパンフレットなどに、「〇〇〇は、株式会社□□□の登録商標です。」のように記載します。
また、商標登録表示であるを登録商標に付けることも有効です。
なお、については、以下の記事で説明していますので、併せて、ご参照ください。
【登録商標マーク(Rマーク)の使い方】メリットや注意点も紹介また、権利者自らが、普通名称的に使用しないように、注意しましょう。
具体的には、文中で商標を記載する際には、書体を変える、太字にする、「」を付ける等で、商標として記載することを明確にすべきです。
商標権者の登録商標の使用方法によっては、普通名称化を助長することがあるので、要注意です!
さらに、第三者の無断使用にも、注意を払う必要があります。
類似の商品・サービスに登録商標が使用されると、普通名称化に繋がります。
第三者が無断で登録商標を使用していた場合には、自己の商標権をもとに、警告書の送付などを検討しましょう。
業界内で、自分の登録商標を勝手に使われていないか、気に掛けましょう!
商標の普通名称化で分からなければ、商標専門の弁理士に相談!
商標の普通名称化について、説明してきましたが、分からないこともあるでしょう。
分からないことがあれば、商標専門の弁理士にご相談ください。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)にご連絡いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士