「X」型の十字形状の図形商標の判例紹介

まとめ

・本願商標「」が、引用商標「」及び「」と類似すると判断しました

・図形商標の類否を判断した裁判例は少ないので、参考になる事例です

・図形商標の類否判断の際には、共通点・差異点を洗い出して、比較・検討しましょう

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和4年(行ケ)第10095号の判決、「X」型の十字形状の図形商標の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

原告は、「スニーカー,履物,運動用特殊靴」を指定して、以下の図形商標を商標出願しました。

(商願第2020-96655号)

しかし、特許庁の審査において、本願商標が、以下の2件の先行商標と抵触するとして、本件の商標出願が拒絶されました。

(商登第4616840号)
(商登第5348806号)

この判断に対して、拒絶査定不服審判を請求しましたが、判断が覆らず、拒絶査定が維持されました。

この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件になります。

裁判所の判断

あなたは、出願商標が、2件の引用商標と類似していると思いますか?

結論から言えば、裁判所は、出願商標が2件の引用商標と類似するとして、原告の請求を棄却しました

裁判所の判断について、紹介していきます。

外観の比較

本願商標と各引用商標は、いずれも「X」型の十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わせた2本の帯の図形からなります。

また、どちらも、短辺が直線、長辺が鋸歯状に表されている点が共通します。

さらに、「X」型の十字の交点から右下に伸びる部分が左上に伸びる部分よりも長くなっている点なども共通しています。

一方、本願商標は2本の帯を重なるように交差させているのに対し、各引用商標は一体的に交差させています。

また、本願商標は各帯状図形の長辺輪郭線の内側にそれぞれ破線を有しています。

しかし、このような差異点は、共通点に比較して些細な点で、殊更強い印象を与えるものではなく、需要者の記憶に残るものともいえないと判断しました

本願商標と2件の引用商標を比較すると、いくつかの差異点はあるものの、些細なものに過ぎないので、外観上、類似すると判断しました!

取引の実情

本願商標と各引用商標の各指定商品は、いずれも、履物や運動用特殊靴という日用品です。

よって、その需要者は一般消費者であって、取引の際に払われる注意力はさほど高いとはいえないと判断しました。

なお、スポーツシューズの場合、購入時に需要者が側面のデザインに注意を払うと、原告は主張しました。

しかし、本願商標の指定商品は、スポーツシューズ以外の履物も含むことから、原告の主張は採用できないと判断しました。

履物などの日用品の場合には、需要者は、高い注意力を持って、商品を選ばないと裁判所は考えました

称呼・観念の比較

本願商標及び各引用商標は、「X」のアルファベットとは形状が異なります。

よって、これらの商標からは、「エックス」の称呼(読み)が生じないと判断しました。

また、「X」のアルファベットとは認識できないので、特定の観念(意味合い)も生じないとのことです。

以上より、いずれも特定の称呼及び観念を生じないため、称呼及び観念において、本願商標と各引用商標を比較できないと判断しました。

アルファベットの「X」とは認識できないので、特定の称呼(読み)・観念(意味合い)が生じないと判断しました

判例から学べること

実務上の経験では、文字を含まない図形の商標出願の場合、先行商標が問題となることは、ほとんどありません。

そのため、図形商標の類否を判断した裁判例は少ないです。

しかし、本件のように、先行商標が障害となり、裁判まで争っても、商標登録できないこともあります

本件の判例は、図形商標の類否判断の目安になります。

図形商標の場合には、共通点・差異点を洗い出して、類否を判断する必要があります。

図形商標の場合、経験上、先行商標が障害となることは、ほとんどありませんが、商標が類似するか、判断する場合には、共通点・差異点を洗い出して、比較しましょう!

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