・商標「バレないふたえ」の商標権者(原告)が、「バレナイ二重」の使用に対して、商標権侵害を主張しました
・しかし、商品パッケージ中の「バレナイ二重」の文言は、商品の効能の説明、もしくは、キャッチフレーズを表示しているに過ぎないと、裁判所は判断しました
・このような態様であれば、例外的に、商標権の効力が及ばないとして、裁判所は、商標権侵害を認めずに、原告の請求を棄却しました
「バレないふたえ」事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、東京地方裁判所の令和3年(ワ)第33526号の判決、商標「バレないふたえ」の判例を紹介します。
判決文は、こちら。
まず、事件の概要を説明します。
原告は、以下の登録商標「バレないふたえ」の商標権者です。
なお、指定商品は「二重瞼形成用化粧品」などです。
一方、被告は、「二重瞼形成用化粧品」と「瞼整形用ストレッチテープ」に、「バレナイ二重」の文言を使用していました。
実際の商品のパッケージは、以下の通りです。
<被告の商品①>
<被告の商品②>
これに対して、原告が、被告の商標権侵害を主張して、裁判所に提起しました。
「バレないふたえ」事件の裁判所の判断
被告の行為は、原告の商標権の侵害に該当するでしょうか?
結論から言えば、原告の商標権を侵害しないとして、裁判所は原告の請求を棄却しました。
被告は、登録商標と類似する「バレナイ二重」の文言を使用しています。
しかし、商品の効能の説明、もしくは、キャッチフレーズとして認識されるので、例外的に商標権の効力が及ばないと判断しました。
原告の商標権の効力が及ばないとして、裁判所は、商標権の侵害を認めずに、原告の請求を棄却しました
商標法では、例外的に、商標権の効力が及ばない範囲を規定しています。
本件の対象となる条文は、商標法26条1項6号です。
具体的には、以下のように、規定されています。
需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
つまり、その商標に接した需要者が、誰の商品なのか、判別・認識できない場合、例外的に、商標権の効力が及びません。
本件では、「バレナイ二重」の文言に接した需要者が、どこの商品か、判別できない場合、例外的に、原告の商標権の侵害には該当しません。
誰の商品・サービスなのか、判別・認識できなければ、商標としての機能を発揮しません。そのような場合には、例外的に、商標権の効力が及びません!
まず、二重まぶたの美容施術や化粧品の宣伝広告で、どのような文言が使用されているか、調べました。
インターネットで検索すると、以下のような使用例が見つかったとのことです。
作った二重だなんてバレない
バレにくい二重
バレない自然な二重まぶたに!?
絶対バレない!自然な二重まぶたの作り方
本気でバレない二重の作り方
さらに、他社の二重まぶたの整形用化粧品で、商品の説明として、以下の文言が使用されていました。
バレない整形級ふたえ
極細繊維ファイバーでバレないふたえ成形
バレない!!整形メイク
確かに、このような使用状況を踏まえると、「バレナイ二重」の文言は、「バレないように二重に整形する(商品)」を意味しているに過ぎません。
よって、「バレナイ二重」の文言は、商標としての特徴性(識別力)が弱いものと考えられます。
「バレナイ二重」に類似する多数の文言が、他社に使用されていました
次に、商品パッケージでの「バレナイ二重」の使用態様について、検討しています。
例えば、商品名として認識できれば、「バレナイ二重」が商品の出所を表示します。
その場合には、原告の商標権侵害に該当します。
しかし、「バレナイ二重」の文言は、商品の効能の説明、もしくは、キャッチフレーズと理解されるに過ぎないと判断しました。
つまり、被告の商品の出所を表示しないと裁判所は考えました。
裁判所の判断では、商品パッケージを考慮すると、商品名は、以下の表示が該当するとのことです。
「Eye Catching Beauty FUTAE LIQUID」及び「アイキャッチングビューティ ふたえリキッド」
「Eye Catching Beauty FUTAE MESH TAPE」及び「アイキャッチングビューティ ふたえ メッシュテープ」
よって、商品パッケージには、「バレナイ二重」の他に、商品名と認識し得る記載が存在すると判断しました。
また、「バレナイ二重」の文言は、「長時間キープ」、「リキッドタイプ」又は 「テープタイプ」の文字に挟まれて記載されています。
このような態様だと、「バレナイ二重」の文字は、商品の効能の説明もしくはキャッチフレーズと認識されると判断しました。
「バレナイ二重」の文言は、商品名とは認識されず、商品の効能の説明もしくはキャッチフレーズに該当すると、裁判所は判断しました
「バレないふたえ」事件の判例から学べること
商標権侵害を主張した原告の心情は、理解できます。
商標「バレないふたえ」が登録になったのは、特許庁の審査で、商標としての特徴性(識別力)があると認められたからです。
よって、被告の使用している「バレナイ二重」の文言も、商品の効能の説明やキャッチフレーズには該当しないと考えるでしょう。
また、被告の商品パッケージをみると、「バレナイ二重」の文字が大きく記載されています。
このような態様だと、「バレナイ二重」が商品名と考える人もいそうです。
今回の判決は、原告にとって、厳しすぎる気もします。
ただし、「バレナイ二重」と似たような「バレにくい二重」などの表示が、一般的に使用されていました。
こういった現状を踏まえると、裁判所の判断も理解できます。
本件のように、パッケージ上に、様々な文言・図形が記載されていることがあります。
その場合、どの表示が、商標として認識されるか、判断するのは、なかなか難しいです。
もし、判断に迷うようであれば、弁理士などの専門家に相談した方がいいでしょう。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)に相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士