・「RaaS」の商標が、商品・サービスの直接的な内容表示に過ぎないとして、商標登録が認められませんでした
・「RaaS」は、「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称と認識されると判断しました
・「RaaS」の語・概念が、広く普及する前には、「RaaS」の商標登録を取得できていました
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10045号の判決、商標「RaaS」の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
医療情報技術研究所は、以下の「RaaS」の商標を出願しました。
指定商品・役務は、「産業用ロボット並びにその部品及び附属品」などです。
しかし、特許庁において、本願商標が、識別力を有さないとして、拒絶されました。
本願商標は、「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称と認識されて、商品・サービスの直接的な内容表示に過ぎないと判断しました。
この拒絶査定に対して、医療情報技術研究所は、不服審判を請求しました。
しかし、審判においても、判断が覆らずに、拒絶査定が維持されました。
この審決に不服のある医療情報技術研究所(原告)が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。
裁判所の判断
あなたは、本願商標を「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称と認識しますか?
また、本願商標は、商品・サービスの直接的な内容表示に該当すると思いますか?
結論としては、本願商標が、「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称と認識し、商品・サービスの直接的な内容表示に該当すると、裁判所は判断しました。
裁判所は、原告の請求を棄却しました。
「RaaS」は「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称
「ロボット・アズ・ア・サービス」という語が、以下の意味合いで、一般的に使用されているとのことです。
ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスであり、ロボット本体やロボットを制御するシステムを自社でつくり運用するのではなく、ロボット本体をレンタルし、クラウド上にある制御システムを利用するしくみ
「ロボット・アズ・ア・サービス」は、英語で、「Robot as a Service」もしくは「Robotics as a Service」です。
構成する英単語の頭文字をとると、「RaaS」です。
近年、「ロボット・アズ・ア・サービス(RaaS)」の概念は、注目を集めているとのことです。
実際に、一部の業界では、「RaaS(ラース)」と称されてロボットが提供(貸与)されているとのことです。
よって、「RaaS」が「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称と、裁判所は判断しました。
業界での使用状況が、識別力の判断に影響します!
本願商標は商品・サービスの直接的な内容表示に該当
識別力の判断は、指定商品・役務との関係を考慮します。
本願商標に係る指定商品・役務は、「産業用ロボット並びにその部品及び附属品」などです。
まさに、ロボット関係の商品・サービスを指定しています。
よって、本願商標は、「ロボットをサービスとして提供・利用することができるサービスのための商品」などを意味するに過ぎないとのことです。
本願商標は、商品・サービスの直接的な内容表示に該当すると判断しました。
例えば、商標「Apple」は、「飴」との関係では、リンゴ味を意味しているに過ぎません。一方、「スマホ」との関係であれば、商品の内容表示に該当しません
判例から学べること
時期・時代によって、識別力の判断は異なってくる!
原告の医療情報技術研究所は、別の区分で、すでに本願商標の登録を取得しています。
「 」(出願日2009年2月3日)
「 」(出願日2015年3月19日)
このような登録例があるにも関わらず、今回、商標登録が認められませんでした。
よって、原告としては、裁判所の判断には、納得できないでしょう。
しかし、商標は、「生き物」です。
多くの人が、一般用語として、使用するようになると、誰の商品・サービスを示すか、分からなくなります。
つまり、時代や時期によって、判断が異なります。
商標登録が認められた2015年以前は、「RaaS」の語・概念は、あまり普及していなかったのかもしれません。
しかし、現在、インターネットで調べると、裁判所の判断の通り、「RaaS」は、「ロボット・アズ・ア・サービス」の略称で使用されています。
よって、裁判所の判断は、近年の状況が考慮されていて、妥当だと思います。
なお、本件以外にも、過去、「RaaS」の商標が、識別力を有さないとして拒絶されています。
「 」(出願日2017年7月7日)
こちらの商標は、2017年に出願されています。
やはり、近年、「RaaS」の語・概念が、普及したため、拒絶された可能性があります。
アルファベット4文字の「〇aaS」には、要注意!
アルファベット4文字の「〇aaS」の単語が、どんどん出てきています。
特に、ITの分野で、よく使われています。
しかし、よく使用されているということは、一私人が独占するのは好ましくありません。
つまり、商標登録が難しい危険性があります。
実際、以下の「〇aaS」の出願商標が、特許庁の審査で、拒絶されています。
「NaaS」(Network as a Serviceの略)
「LaaS」(Logistics as a Serviceの略)
「東京MaaS」(Mobility as a Serviceの略)
「ビジネスSaaS」(Software as a Serviceの略)
「ビジネスPaaS」(Platform as a Serviceの略)
実際、筆者自身も、「〇aaS」の商標調査・出願の依頼を受けたことがあります。
他者の使用状況をインターネットで調べて、より慎重に検討・対応する必要があります。