・本願商標「VENTURE」が、「遊」と「VENTURE」の文字を二段に併記した引用商標と類似しないと、裁判所は判断しました
・引用商標のうち、「遊」の文字が、「VENTURE」の文字に比べて、大きく目立つように記載されています
・引用商標中の文字部分の主従関係を考慮した上で、引用商標から「VENTURE」の文字部分が分離・抽出して、認識されないと判断しました
商標「VENTURE」事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10063号の判決、商標「VENTURE」の判例を紹介します。
判決文は、こちら。
まず、事件の概要を説明します。
原告である株式会社ケー・ジー・アイは、標準文字の商標「VENTURE」を出願しました。
指定商品は、「被服」や「帽子」などです。
しかし、特許庁の審査では、以下の引用商標に類似するとして、拒絶理由が通知されました。
引用商標は、「遊」と「VENTURE」の文字が二段に併記された商標です。
これに対して、意見書を提出して、争いましたが、最終的に、商標登録を認められないとして、拒絶査定になりました。
原告は、拒絶査定に対して、不服審判を請求して、再度、商標が類似しない旨、主張しました。
しかし、審判でも、判断が覆らずに、拒絶査定が維持されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。
商標「VENTURE」事件における裁判所の判断
キーとなるのは、以下の引用商標の態様です。
あなたは、本願商標「VENTURE」が、引用商標と類似すると思いますか?
つまり、引用商標から「VENTURE」部分を分離・抽出して、本願商標が引用商標と類似すると判断するのは、妥当でしょうか?
裁判所では、本願商標が、引用商標と類似しないと判断しました。
特許庁の審査・審判とは、異なった判断です。
裁判所は、拒絶査定を維持する旨の審決を取り消しました。
特許庁と裁判所の判断をまとめると、以下の通りです。
- 特許庁の審査→本願商標は、引用商標と類似する
- 拒絶査定不服審判の判断→本願商標は、引用商標と類似する
- 知財高裁の判断→本願商標は、引用商標と類似しない
以下、裁判所の判断について、紹介していきます。
知財高裁において、特許庁の審査・審判の判断が、覆りました
「遊」の文字は、「VENTURE」を構成する文字よりも、縦横とも約5倍の大きさです。
面積を比較すると、「遊」の文字は、「VENTURE」の文字の約3.5倍です。
「遊」の文字部分は、「VENTURE」の文字部分に対して圧倒的な存在感を示しています。
一方、「VENTURE」の文字部分は、底辺部で「遊」を支える台座のような印象を与えます。
文字の大きさの違いや文字の配置から、主従関係が導かれるとのことです。
つまり、引用商標中の「遊」の文字部分が主で、「VENTURE」の文字部分が従です。
引用商標の態様を考慮すると、「遊」が主、「VENTURE」が従とした裁判所の判断には、納得できます
「遊」の文字部分は、中心的な構成要素として強い存在感があります。
よって、引用商標から「遊」の文字部分が分離・抽出して認識される可能性があります。
しかし、「VENTURE」の文字部分は違います。
「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らかに存在感が希薄です。
引用商標に接した需要者・取引者が、「VENTURE」の文字部分に着目することはありません。
「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との分離観察は可能です。
しかし、「VENTURE」の文字部分は主要部分(要部)とは認められないと、裁判所は判断しました。
つまり、引用商標から「VENTURE」の文字部分が分離・抽出して認識されることはありません。
まず、引用商標を全体として1つの商標と認識した場合、本願商標と類似するか、検討します。
本願商標と引用商標には、「遊」の文字の有無に、違いがあります。
これにより、外観、称呼、観念のいずれにおいても両者は大きく異なります。
よって、本願商標と引用商標は類似しません。
次に、引用商標から「遊」の文字部分が分離・抽出して認識された場合を検討します。
「遊」の文字部分と本願商標「VENTURE」を比較すると、両者は、明らかに類似しません。
よって、この場合も、本願商標は、引用商標とは類似しません。
商標「VENTURE」の判例から学べること
引用商標は、「遊」と「VENTURE」の文字を組み合わせた結合商標です。
本件では、結合商標から一部分が分離・抽出されるか否か、争点になっています。
「つつみのおひなっこや」事件で、最高裁判所が示した以下の規範・基準をもとに判断するのが、一般的です。
商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである
なお、「つつみのおひなっこや」事件については、以下の記事で、詳細に紹介しています。
本件では、最高裁判所が示した規範・基準に少しアレンジを加えています。
主従関係を考慮している点が、かなりユニークで、斬新な判断です。
結合商標が問題となった裁判例は、今まで、多数あります。
しかし、その中で、主従関係を考慮したと、明確に示した事例は、ほとんどありません。
ただ、主従関係を考慮した判断は、実際の取引実情に合っています。
確かに、商標の主要部分については、需要者・取引者が着目するので、その部分を分離・抽出して認識されます。
一方、目立たない部分については、需要者・取引者は、あまり意識することなく、着目することはありません。
よって、普通、その部分を分離・抽出して認識することはありません。
今後、引用商標と類似しない旨、反論する際に、本件の判例が参考になる可能性があります。
引用商標のうち、目立たない部分(従たる部分)に類似するとして、拒絶理由が通知されたとします。
その場合、引用商標中の主従関係を明らかにし、本件の判例を示した上で、商標が類似しない旨、反論することが考えられます。