・商標「ブランディングDX」が、サービスの直接的な内容表示に過ぎないと判断されて、商標登録が認められませんでした
・原告は、「DX」の語が浸透していないと主張しました。しかし、「デジタルトランスフォーメーション」の意味合いで、すでに浸透していると、裁判所は判断しました
・近年、特許庁の審査において、「〇〇DX」の商標が、多数、拒絶されているので、今回の裁判所の判断は妥当です
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10074号の判決、商標「ブランディングDX」の判例を紹介します。
まず、事件の概要を説明します。
原告である株式会社ライオンハートは、名古屋のブランディング・マーケティングの会社です。
具体的には、WEBサイトの構築・運用やWEBマーケティングを提供しています。
原告は、標準文字で、商標「ブランディングDX」を出願しました。
指定役務は、「広告業」や「販売促進のための企画及び実行の代理」です。
しかし、特許庁において、本願商標が、識別力を有さないとして、拒絶理由を通知しました。
つまり、本願商標は、サービスの内容を直接的に表示しているに過ぎないと、審査官が判断しました。
これに対して、反論しましたが、認められず、拒絶査定になりました。
この拒絶査定に対して、株式会社ライオンハートは、不服審判を請求しました。
しかし、審判においても、判断が覆らずに、拒絶査定が維持されました。
この審決に不服のある株式会社ライオンハート(原告)が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。
裁判所の判断
あなたは、本願商標「ブランディングDX」が識別力を有すると思いますか?
つまり、本願商標は、サービスの直接的な内容表示に該当すると思いますか?
結論としては、裁判所は、原告の主張を認めず、本願商標が識別力を有さないと判断しました。
裁判所は、原告の請求を棄却しました。
特許庁・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
・特許庁の判断→本願商標は、識別力を有さない
・審判での判断→本願商標は、識別力を有さない
・知財高裁の判断→本願商標は、識別力を有さない
以下、裁判所の判断について、紹介していきます。
本願商標中の「ブランディング」の意味
本願商標は、「ブランディング」と「DX」の語で構成されます。
そこで、各々の語から生じる意味合いについて、検討しています。
まずは「ブランディング」の語です。
「ブランディング」は、「顧客や消費者にとって価値のあるブランドを構築するための活動」を意味します。
実際、「ブランディング」の語は、広く一般的に使用されています。
このことに関しては、特段、疑義はなく、原告も反論していません。
本願商標中の「DX」の意味
次は、本願商標中の「DX」の語です。
「DX」は、「デジタルトランスフォーメーション」を意味すると、裁判所は判断しています。
ちなみに、「デジタルトランスフォーメーション」は、「情報通信技術の浸透に伴うビジネスや社会の構造的変革」、「デジタル変革」を意味します。
これに対して、原告は、「DX」の語が浸透していないと主張しています。
しかし、裁判所は、このような原告の主張を認めませんでした。
政府によって「DX推進指標」が公表され、また、総務省によって「自治体DX推進計画」が策定されました。
このように、「デジタルトランスフォーメーション」を意味する「DX」の取組が広く啓発されました。
それに伴い、近年、「DX」の語が、「デジタルトランスフォーメーション」の意味合いで、急速に広まりました。
よって、「DX」の語が、「デジタルトランスフォーメーション」の意味合いで、浸透していると判断しました。
確かに、最近、「〇〇DX」というサービス名を、よく見かけます
本願商標はサービスの直接的な内容表示に過ぎない!
様々な業務や業種で、デジタル技術の活用による業務の変革の取組がなされています。
そのような取組を表す際に、「〇〇DX」と表すことがしばしば行われています。
実際、ブランディングに関わる業務でも、端的に「ブランディングDX」と称している事例があるとのことです。
このような現状を考慮すると、本願商標は、「ブランディングのデジタルトランスフォーメーション(化)」を表したものと認識・理解されます。
よって、本願商標は、サービスの直接的な内容表示に過ぎないと、裁判所が判断しました。
判例から学べること(商標は「生き物」なので、現状を考慮すること!)
使用状況によって、判断は異なる
商標は「生き物」で、使用状況によって、判断が異なります。
その時代によって、頻繁に使用される言葉があります。
一昔前だと、「DX」から「デジタルトランスフォーメーション」の意味合いが、直ちに、生じませんでした。
つまり、商標「ブランディングDX」が、サービスの直接的な内容表示には該当しないと判断されたかもしれません。
しかし、近年、政府主導の政策により、様々な分野によって、デジタル化を推進しています。
その結果、「デジタルトランスフォーメーション」の意味合いで、「DX」の語が使用されるようになりました。
このような現状を踏まえると、今回の裁判所の判断は妥当です。
商標が識別力(特徴性)を有するか、判断する際、使用状況を考慮することが大切です。
その時期に、よく使用される言葉があるので、時代によって、判断が異なることがあります!
「〇〇DX」の商標の拒絶例
近年、「ブランディングDX」のように、「〇〇DX」の商標は、多数、使用されています。
そのため、「〇〇DX」の商標が、出願された事例があります。
ただし、本件と同様、識別力(特徴性)を有さないと判断された商標も多いです。
実際、2022年に出願された、以下の「〇〇DX」の商標は、審査において、拒絶されています。
「金型管理DX」
「やさしいDX」
「採用DX」
「面接DX」
「コミュニケーションDX」
「保険DX」
「住宅DX」
「収益化 DX」
「派遣DX」
「健康DX」
「電話DX」
「現場DX」
「ランドリー DX」
「マーケティングDX」
このような拒絶例を踏まえても、今回の裁判所の判断は妥当です。
過去の拒絶例をチェックすれば、特許庁の審査で、どのように判断されるか、ある程度、予想できます。