商標「5252byO!Oi」の判例紹介

まとめ

・登録商標「5252byO!Oi」が、マルイの著名商標「」と類似すると、裁判所は判断しました

・特許庁の審査及び審判では、商標が類似しないと判断していて、裁判所で、判断が覆りました

・商品名やサービス名を決める際、著名商標には、注意しましょう。著名商標を避けたネーミングが重要です

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10067号の判決、商標「5252byO!Oi」の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

「5252byO!Oi」は、韓国のストリートファッションのブランドです。

そこで、本件の被告は、以下の商標を日本で出願しました

(商登第6371693号)

指定商品は、「被服」や「かばん類」などです。

特許庁の審査を無事に通過して、商標登録になりました

この商標登録に不満を抱いたのが、原告の丸井グループです。

丸井グループは、以下のような商標登録を保有しています。

(商登第4640297号、URL: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2020-026358/40/ja

丸井グループは、「5252byO!Oi」の商標登録に対して、無効審判を請求しました。

丸井グループは、商標「5252byO!Oi」が、自己の登録商標に類似しているとして、主張しました。

しかし、丸井グループの主張は認められず、商標登録を維持する旨の審決が下されました。

この審決に不服のある原告(丸井グループ)が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。

裁判所の判断

あなたは、本願商標「5252byO!Oi」が、マルイのロゴ商標「」と類似していると思いますか?

結論としては、裁判所は、特許庁・審判での判断を覆し、無効審判の審決を取り消しました。

つまり、裁判所では、本願商標「5252byO!Oi」が、マルイのロゴ商標「」と類似すると判断しました

特許庁・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。

・特許庁の判断→本願商標は、マルイのロゴ商標と類似しない

・審判での判断→本願商標は、マルイのロゴ商標と類似しない

・知財高裁の判断→本願商標は、マルイのロゴ商標と類似する

以下、裁判所の判断について、紹介していきます。

マルイのロゴ商標は著名

マルイは、昭和12年、家具の割賦販売などの事業を行う会社として設立しました。

マルイは、平成7年頃、ロゴマークを「」に刷新しています。

(錦糸町マルイの公式ウェブサイトより)

マルイは、小売事業として、令和2年時点で、首都圏を中心に20以上の店舗を営業しています。

ちなみに、マルイウェブチャンネルやマルイ楽天市場店など、ECサイトも展開しています。

マルイの令和3年3月期の売上高は、720億6700万円でした。

長年、使用した結果、マルイのロゴ商標は、アパレル分野において、需要者・取引者に、広く知れ渡りました

遅くとも平成22年には、特許庁の審査実務においても、マルイのロゴ商標は、著名な商標として認定されるようになりました

売り上げの規模や使用期間を立証すれば、特許庁が、著名商標と認定してくれることがあります!

「O!Oi」部分が、本願商標の主要部分

本願商標は、「5252」「by」「O!Oi」から構成されます。

「by」は、一般に「by 〇〇〇」との用法で、「商品やサービスの出所が〇〇〇」であることを表します。

よって、「by」の後の「O!Oi」 部分が、独立して、見る者の注意を引きます

また、本願商標の「5252」部分は、単に数字を羅列したに過ぎません。

それに比べて、「O!Oi」部分は、辞書に掲載されている語ではなく、造語とも図形とも理解でき、特徴的です。

また、視覚的にも、「O!Oi」部分は、際立った印象を与えます。

よって、「O!Oi」部分が、本願商標の主要部分と、裁判所は認定しています

本願商標から「O!Oi」部分を抽出して、他人の商標と比較して、商標の類否を判断できます。

本願商標は、マルイのロゴ商標と類似する

(1)称呼(読み)の比較

本願商標の「O!Oi」部分から、「オーオイ」「オーオーアイ」の称呼が生じます。

一方、マルイのロゴ商標から、「オーアイオーアイ」「オイオイ」及び「マルイ」の称呼が生じます。

「O!Oi」部分には「!」が含まれていて、厳密には称呼が異なります。

しかし、多くの音が共通し、称呼上、相応に類似していると、裁判所は判断しました。

(2)外観(見た目)の比較

本願商標の「O!Oi」部分とマルイのロゴ商標、どちらもゴシック体で、4つの文字または記号です。

また、1字目と3字目は、どちらも「O」で共通しています。

2字目は「!」と「I」、4字目は「i」と「I」と異なる文字又は記号が使用されています。

しかし、いずれも、1本の縦線、または、1本の縦線とその延長線上にある点により構成されるので、形状が類似しています。

加えて、各文字の字間を含めた配列も近似しています。

そうすると、両者の外観は、時と場所とを異にする隔離的観察の下では、互いに相紛らわしいと判断しました。

外観上、似通っているという判断は、確かに、同意できます

(3)結論(商標が類似する)

本願商標の「O!Oi」部分とマルイのロゴ商標は、称呼上、相応に類似します。

また、両者は、外観において互いに相紛らわしいです。

さらに、一般消費者は、アパレル・ファッションの出所につき、主として対象商品やロゴマークの外観などに注目します。

よって、本願商標を指定商品に使用した場合、取引者・需要者が、両商標の出所を見誤る可能性があります

つまり、商品の出所において誤認混同するおそれがあります

よって、本願商標とマルイのロゴ商標が類似すると、裁判所は判断しました

判例から学べること(著名商標の類似範囲は広くなり得る!)

他社の著名商標には、十分に注意すること!

著名商標は、通常の商標に比べて、広く保護されます。

例えば、以下のような商標が、特許庁の審査で、著名商標と類似していると判断されて、拒絶されました。

  • 出願商標「」が、著名商標「」と類似
  • 出願商標「」が、著名商標「」と類似
  • 出願商標「JETきりん」が、著名商標「」と類似

先行商標が著名でなければ、商標が非類似と判断された可能性は十分にあります。

しかし、先行商標が有名だと、消費者は、対象商標から、その部分を分離・抽出して認識します。

よって、著名商標の保護範囲が広がるのは、実情にも合っていて、合理的です

商品名やサービス名を決める際、著名商標には、注意しましょう

著名商標を含んだ商品名やサービス名だと、商標登録できない可能性があります。

さらに、商標権侵害で訴えられるかもしれません。

著名商標を避けたネーミングが重要です。

「by」の前後の部分が、分離・抽出される可能性がある!

「by 〇〇〇」を使ったブランド名は、結構、存在します。

特に、ファッション業界では、このような商標が、多いです

例えば、以下のような登録商標は、このような用法で「by」を使用しています。

このような商標だと、「by」の前後の部分が、分離・抽出される可能性があります。

例えば、「JILL by JILLSTUART」を商標出願したとします。

その場合、「JILL」や「JILLSTUART」の他者の先行商標があれば、障害となる危険性があります。

「by」を含む商標の場合、前後の部分が、分離・抽出される可能性があるか、検討すべきです。

そのことを念頭に入れて、類似する先行商標を調べて、使用する商標を決めましょう。

判断に迷うことがあれば、商標専門の弁理士に相談することをお勧めします。

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