商品だけではなく、商品の小売業(専門的に言うと「小売等役務」)も、商標登録でカバーできます。
10年以上、商標専門の弁理士として働いている筆者は、小売等役務をカバーした商標出願を、多数、手伝ってきました。
この記事を読めば、小売業を営んでいる人が、自分のブランドを、どのように商標登録でカバーすべきか、分かります。
また、小売等役務を指定した商標登録を取得することのメリットと注意点を、教えます。
商標法上の小売等役務の規定
一般的な役務(サービス)については、以下の記事で紹介しています。
なお、一般的な役務の他に、小売等役務があります。
2007年4月1日より、指定可能になりました。
具体的には、商標法第2条第2項は、以下のように、規定しています。
前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする
それでは、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、いわゆる小売等役務が、どのようなサービスか、紹介します。
小売等役務制度を導入する前の問題点
商品に関する商標登録を取得することで、従来から、商標を付した商品の販売行為などはカバーできていました。
例えば、あなたが「ABCスーパー」というスーパーマーケットを運営していて、「ABCスーパー」と記載した製品を販売しています。
この場合、製品の販売行為は、商品に関する商標登録を取得することで、従来から保護できていました。
しかし、これだけでは、スーパーマーケット業務を十分にカバーできていません。
「ABCスーパー」というスーパー名は、様々な物に使用します。
例えば、ショッピングカート・店員の制服・レシート・陳列棚・店舗の看板・レジ袋などに「ABCスーパー」と記載しますが、このような使用態様までは、保護できませんでした。
そこで、2007年に、小売等役務制度を導入しました。
小売等役務とは「小売又は卸売の業務での総合的なサービス活動」
小売等役務とは、小売又は卸売の業務において行われる総合的なサービス活動です。
つまり、商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった最終的に商品の販売により収益をあげるものです。
小売等役務の事業者は?
メインの事業者は、スーパー・コンビニ・ホームセンター・百貨店・家電量販店などです。
しかし、小売りサービスを行っていれば、肉屋・本屋・眼鏡屋なども対象になります。
さらに、インターネットにおけるショッピングサイトや通信販売も含まれます。
小売等役務制度は、多くの事業者の利用が見込まれる制度になっています。
小売等役務の商標登録を取得するメリット
小売等役務を指定して、商標登録を取得するメリットは、主に、以下の3つです。
- 商標登録で、適切に小売業をカバーできる
- 商標登録を取得するための費用を抑えられる
- 商標登録で保護できる範囲が広い
上述した通り、小売等役務で商標登録を取得することで、従来、保護が及ばなかった店舗販売での行為もカバーできます。
例えば、ショッピングカートや店員の制服などの商標の使用も保護が可能になりました。
なお、インターネット上のショッピングサイトでの小売りサービスも対象に含まれます。
どんな商品の小売等役務でも、全て、35類に属します。
よって、小売等役務をカバーする場合、出願する区分は第35類の1つだけでOKです。
商標登録に掛かる費用は区分数に連動するので、費用を大幅に節約できます。
現行の商標実務において、商品とその商品の小売等役務を類似関係にあります。
仮に、あなたが様々な商品の小売等役務の商標登録を取得したとします。
その後、第三者が、その商品を指定した同一商標を出願しました。
その場合、あなたの商標登録によって、第三者の商標出願は拒絶されます。
小売等役務を指定して商標出願する際の注意点
小売等役務を指定して商標出願することは、よくあります。
その際、以下のような事項に注意しましょう。
- プライベートブランドはカバーできない危険性がある
- 特許庁の審査で、使用意思に疑義があるとの指摘を受けるかも
- 願書(申請書)には、取り扱う対象の商品を明確に記載すべき
大手のスーパーやコンビニは、他社の製品を扱うだけではありません。
プライベートブランドも展開しています。
このような場合、自ら、商品を企画・製造して、販売することがあります。
よって、プライベートブランドに関する商標を出願する場合、第35類の小売等役務だけでは、不十分です。
費用が掛かりますが、対象の商品区分についての出願も検討しましょう。
複数の小売等役務を指定して商標出願すると、使用意思に疑義があると判断される可能性が高いです。
具体的には、特許庁の審査で、拒絶理由が通知されるので、注意しましょう。
詳しくは、以下の記事をご参照ください。
これに対して、例えば、小売等役務を行っていることを証明します。
具体的には、特許庁に、使用証拠を提出します。
その他にも、いくつか、対応方法があります。
詳細については、以下の記事で紹介しています。
願書には、どのようなサービス(役務)に権利を求める商品・役務を示します。
具体的に言えば、「指定商品・役務」を記載します。
「小売業」や「あらゆる商品の小売業」の表示では、特許庁の審査官が認めません。
「被服」や「文房具類」など、小売業の対象を具体的に記載する必要があります。
例えば、以下のセブン・イレブンの商標登録の抜粋をご覧ください。
35類において、様々な商品の小売業が、細かく、指定されていることが分かります。
なお、指定役務の表示が不明確と判断すると、特許庁は、出願人に拒絶理由を通知します。
小売等役務で分からないことがあれば、商標専門の弁理士に相談!
自力で、小売等役務を指定した商標出願を進めることは可能です。
なお、時間や労力を省きたい方は、商標専門の弁理士に依頼しましょう。
また、小売等役務を指定した商標出願を進めると、特許庁から拒絶理由通知を受ける可能性が高いです。
対応方法が分からなければ、一人で悩まずに、商標専門の弁理士に相談しましょう。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)にご相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士
・小売等役務とは、小売又は卸売の業務において行われる総合的なサービス活動です
・実店舗だけではなく、インターネット上のショッピングサイトも対象です
・複数の小売等役務を指定すると、特許庁の審査で、使用意思に疑義があると、指摘を受ける危険性があります