商標「hololive Indonesia」の判例紹介

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10131号の判決、商標「hololive Indonesia」の判例を紹介します。

商標専門の弁理士の筆者が、本件の判例を、分かりやすく解説します。

以下のような人に読んでほしい!

・最新の商標判例を学びたい人

・国名や地名を含む商標の出願を検討している人

・品質の誤認が生じるケースを知りたい人

この判例から、国名や地名を含む商標を出願した場合、直面しうる問題を学べます。

また、そのような問題に直面した場合の対応策を教えます。

事件の概要

原告のカバー株式会社は、ITサービス業やアプリケーションの開発を行う日本の企業です。

(カバー株式会社のホームページより、URL: https://cover-corp.com/

また、カバー株式会社は、VTuber事務所であるホロライブプロダクションを運営しています。

(ホロライブプロダクションの公式ホームページより、URL: https://hololivepro.com/

原告は、以下の商標を日本で出願しました。

(商願2021-159976、URL: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2021-159976/40/ja

「hololive」は、女性VTuberグループの名称です。

本願商標は、「hololive」に所属するキャラクターのうち、インドネシアを拠点に活動する者から構成されるグループ名称です。

(ホロライブプロダクションの公式ホームページより、URL: https://hololivepro.com/

指定商品・役務は、「文房具類」や「インターネットを利用して行う映像の提供」など、多岐に渡っています。

特許庁では、本願商標が、以下の規定に該当するとして、商標出願を拒絶しました。

商標法4条1項16号

商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

虎さん
虎さん

本願商標は「Indonesia」の文字を含みます。よって、「インドネシア」に関連した商品・サービス以外に使用すると、誤認が生じると判断しました!

これに対して、原告は、拒絶査定不服審判を請求しましたが、判断が覆りませんでした。

この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。

裁判所の判断

インドネシアに関連しない商品・サービスに本願商標を使用したとき、品質の誤認が生じるでしょうか?

結論としては、本願商標を使用すると、品質の誤認が生じる危険性があると裁判所は判断しました。

裁判所は、原告の請求を棄却しました。

特許庁・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。

特許庁・審判・裁判所の判断は

・特許庁の判断→本願商標は、品質の誤認が生じうる

・審判での判断→本願商標は、品質の誤認が生じうる

・知財高裁の判断→本願商標は、品質の誤認が生じうる

裁判所の判断について、紹介していきます。

「hololive」部分は造語なのに対して、「Indonesia」部分は既存の英単語

本願商標のうち、「hololive」部分は、辞書に載っていない造語です。

一方、「Indonesia」部分は、東南アジアの共和国の「インドネシア」を意味すると、容易に理解できます。

よって、本願商標から「Indonesia」部分が、分離・抽出して認識されると、裁判所は判断しました。

他社の使用例

「Indonesia」もしくは「インドネシア」の文字を含む商標は、以下の通り、存在します。

  • Zalora Indonesia ザローラ・インドネシア
  • Reebonz Indonesia リーボンツ・インドネシア
  • Ree Indonesia リー・インドネシア
  • マクドナルドインドネシア
  • 丸亀インドネシア

これらは、いずれも、「インドネシアで生産される物」又は「インドネシアで提供されるサービスに関するもの」とのことです。

本願商標の需要者層

例えば、以下の商品・役務(サービス)は、一般消費者が需要者となるとのことです。

  • 化粧品
  • 身飾品
  • かばん類
  • 被服
  • 頭飾品
  • 映画の上映・制作又は配給
  • 飲食物の提供

これに対応する商品又は役務で、インドネシアで生産等されたもの(インドネシアに由来するもの)が日本で販売・提供されているとのことです。

本願商標は著名とは判断できない

「hololive」のYoutubeのチャンネルの登録者は185万人です。

ただし、映像の多くが欧文字で投稿されていて、登録者のうち、どの程度が日本の需要者か、分からないとのことです。

よって、本願商標は、日本で著名とは認められないと、裁判所が判断しました。

結論として、本願商標は、品質の誤認が生じる

このような状況で、インドネシアに関連しない商品・サービスに本願商標を使用したとします。

そうすると、商品又はサービスの質の誤認を生じさせるおそれがあると考えました。

よって、本願商標が商標法4条1項16号に該当すると、裁判所は判断しました。

判例から学べること

今回の判例から、以下の2つのことが、学べます。

  • 国名・地名を含む商標を出願する場合、品質の誤認の拒絶理由を受ける可能性あり!
  • 品質の誤認の拒絶理由には、なるべく指定商品・役務の限定で対応すべき!

国名・地名を含む商標を出願する場合、品質の誤認の拒絶理由を受ける可能性あり!

国名や地名を含む商標を出願しても、このような指摘を受けることなく、すんなりと商標登録になっている例も、多数あります。

しかし、本件のように、品質の誤認の拒絶理由を受ける危険性もゼロではありません

実際、以下の都市名を含む商標が、特許庁の審査で、品質の誤認が生じると判断されています。

国名や地名を含む商標を出願した場合、このような拒絶理由を受ける危険性があることに留意しましょう。

品質の誤認の拒絶理由には、なるべく指定商品・役務の限定で対応すべき!

品質を誤認する旨、審査官から指摘を受けたら、意見書にて、反論することが可能です。

しかし、経験上、意見書で反論しても、判断を覆すのは、なかなか難しいです。

品質の誤認の拒絶理由に対しては、指定商品・役務を限定することをお勧めします。

虎さん
虎さん

拒絶理由通知書において、審査官が補正案を提示することが多いので、まずは、審査官の補正案が受け入れられるか、検討しましょう!

指定商品を限定することで対応した事例

例えば、「京都」の文字を含む以下の商標です。

商標出願は、審査過程で、指定商品を「京都府産の蕨餅(わらびもち)」に補正しています。

まとめ

・インドネシアに関連しない商品・サービスに本願商標「hololive Indonesia」に使用すると、商品又はサービスの質の誤認を生じさせるおそれがあると判断しました

・国名や地名を含む商標を出願した場合、品質誤認の拒絶理由を受ける危険性があることに留意しましょう

・経験上、意見書で反論しても、判断を覆すのは、なかなか難しいです。品質の誤認の拒絶理由に対しては、指定商品・役務を限定することをお勧めします

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