商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和5年(行ケ)第10131号の判決、商標「hololive Indonesia」の判例を紹介します。
商標専門の弁理士の筆者が、本件の判例を、分かりやすく解説します。
この判例から、国名や地名を含む商標を出願した場合、直面しうる問題を学べます。
また、そのような問題に直面した場合の対応策を教えます。
事件の概要
原告のカバー株式会社は、ITサービス業やアプリケーションの開発を行う日本の企業です。
また、カバー株式会社は、VTuber事務所であるホロライブプロダクションを運営しています。
原告は、以下の商標を日本で出願しました。
「hololive」は、女性VTuberグループの名称です。
本願商標は、「hololive」に所属するキャラクターのうち、インドネシアを拠点に活動する者から構成されるグループ名称です。
指定商品・役務は、「文房具類」や「インターネットを利用して行う映像の提供」など、多岐に渡っています。
特許庁では、本願商標が、以下の規定に該当するとして、商標出願を拒絶しました。
商標法4条1項16号
商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
本願商標は「Indonesia」の文字を含みます。よって、「インドネシア」に関連した商品・サービス以外に使用すると、誤認が生じると判断しました!
これに対して、原告は、拒絶査定不服審判を請求しましたが、判断が覆りませんでした。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。
裁判所の判断
インドネシアに関連しない商品・サービスに本願商標を使用したとき、品質の誤認が生じるでしょうか?
結論としては、本願商標を使用すると、品質の誤認が生じる危険性があると裁判所は判断しました。
裁判所は、原告の請求を棄却しました。
特許庁・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
裁判所の判断について、紹介していきます。
「hololive」部分は造語なのに対して、「Indonesia」部分は既存の英単語
本願商標のうち、「hololive」部分は、辞書に載っていない造語です。
一方、「Indonesia」部分は、東南アジアの共和国の「インドネシア」を意味すると、容易に理解できます。
よって、本願商標から「Indonesia」部分が、分離・抽出して認識されると、裁判所は判断しました。
他社の使用例
「Indonesia」もしくは「インドネシア」の文字を含む商標は、以下の通り、存在します。
- Zalora Indonesia ザローラ・インドネシア
- Reebonz Indonesia リーボンツ・インドネシア
- Ree Indonesia リー・インドネシア
- マクドナルドインドネシア
- 丸亀インドネシア
これらは、いずれも、「インドネシアで生産される物」又は「インドネシアで提供されるサービスに関するもの」とのことです。
本願商標の需要者層
例えば、以下の商品・役務(サービス)は、一般消費者が需要者となるとのことです。
- 化粧品
- 身飾品
- かばん類
- 被服
- 頭飾品
- 映画の上映・制作又は配給
- 飲食物の提供
これに対応する商品又は役務で、インドネシアで生産等されたもの(インドネシアに由来するもの)が日本で販売・提供されているとのことです。
本願商標は著名とは判断できない
「hololive」のYoutubeのチャンネルの登録者は185万人です。
ただし、映像の多くが欧文字で投稿されていて、登録者のうち、どの程度が日本の需要者か、分からないとのことです。
よって、本願商標は、日本で著名とは認められないと、裁判所が判断しました。
結論として、本願商標は、品質の誤認が生じる
このような状況で、インドネシアに関連しない商品・サービスに本願商標を使用したとします。
そうすると、商品又はサービスの質の誤認を生じさせるおそれがあると考えました。
よって、本願商標が商標法4条1項16号に該当すると、裁判所は判断しました。
判例から学べること
今回の判例から、以下の2つのことが、学べます。
- 国名・地名を含む商標を出願する場合、品質の誤認の拒絶理由を受ける可能性あり!
- 品質の誤認の拒絶理由には、なるべく指定商品・役務の限定で対応すべき!
国名・地名を含む商標を出願する場合、品質の誤認の拒絶理由を受ける可能性あり!
国名や地名を含む商標を出願しても、このような指摘を受けることなく、すんなりと商標登録になっている例も、多数あります。
しかし、本件のように、品質の誤認の拒絶理由を受ける危険性もゼロではありません。
実際、以下の都市名を含む商標が、特許庁の審査で、品質の誤認が生じると判断されています。
- IRO PARIS(URL: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2020-144559/40/ja)
- (URL: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2022-000496/40/ja)
国名や地名を含む商標を出願した場合、このような拒絶理由を受ける危険性があることに留意しましょう。
品質の誤認の拒絶理由には、なるべく指定商品・役務の限定で対応すべき!
品質を誤認する旨、審査官から指摘を受けたら、意見書にて、反論することが可能です。
しかし、経験上、意見書で反論しても、判断を覆すのは、なかなか難しいです。
品質の誤認の拒絶理由に対しては、指定商品・役務を限定することをお勧めします。
拒絶理由通知書において、審査官が補正案を提示することが多いので、まずは、審査官の補正案が受け入れられるか、検討しましょう!
指定商品を限定することで対応した事例
例えば、「京都」の文字を含む以下の商標です。
商標出願は、審査過程で、指定商品を「京都府産の蕨餅(わらびもち)」に補正しています。
・インドネシアに関連しない商品・サービスに本願商標「hololive Indonesia」に使用すると、商品又はサービスの質の誤認を生じさせるおそれがあると判断しました
・国名や地名を含む商標を出願した場合、品質誤認の拒絶理由を受ける危険性があることに留意しましょう
・経験上、意見書で反論しても、判断を覆すのは、なかなか難しいです。品質の誤認の拒絶理由に対しては、指定商品・役務を限定することをお勧めします