「For brother」事件の判例紹介

まとめ

・「For brother」「ブラザー用」の表示が、商標的な使用ではないので、「brother」や「ブラザー」の商標権の侵害に該当しないと裁判所が判断しました

・商標的な使用に該当するか否かが、商標権侵害の際には、ポイントになりますので、十分に検討しましょう

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、東京地方裁判所の平成15年(ワ)第29488号の判決、いわゆる「For brother」事件の判例を紹介します。

まず、事件の概要を説明します。

ブラザー工業株式会社が、「印字用インクリボン」などの商品を指定する以下の商標登録を保有していました。

(登録第934694号)
(登録第2137558号)

一方、被告は、原告製造に係るファクシミリ装置のインクリボンを取り扱っていて、このインクリボンは純正品ではありませんでした。

分かりにくいですが、以下の通り、被告の製品パッケージには、「For brother」「ブラザー用」という表示が記載されています。

これに対して、原告であるブラザー工業社が、自己の商標登録に基づき、被告に対して、差し止めと損害賠償を求めて、訴訟を提起しました。

裁判所の判断

結論から先に言えば、商標権侵害に該当しないと判断して、裁判所は、原告の請求を棄却しました。

争点になったのは、被告の製品パッケージに記載されている「For brother」「ブラザー用」の表示が、商標的な使用に該当するか、になります。

「For brother」「ブラザー用」には、brotherやブラザーだけではなく、「For」や「用」の文字が付加されています。

よって、需要者は、「For brother」「ブラザー用」の表示について、被告製品が、原告製造のファクシミリに使用できるインクリボンであることを示すための表記であると理解します。

また、ユーザーが誤って自己の使用する機器類に適合しない消耗品を購入することがないように、商品の外箱等に適合機種を表示することが、通常、行われており、消費者も、そのようなことを十分に認識し、消耗品購入の際の参考にしています。

このような事情を勘案して、「For brother」「ブラザー用」の表示は、自他商品識別機能・出所表示機能を有する態様で使用する行為、すなわち商標としての使用行為には該当しないと裁判所は判断しています

よって、被告の行為は、原告の商標権の侵害に該当しないと裁判所が判断しました。

なお、原告は、この判決に不服があり、東京高等裁判所に控訴しましたが、東京高等裁判所でも商標権侵害には該当しないと判断されました。

判例から学べること

確かに、被告は、「brother」「ブラザー」の文字を使用しているので、形式的には、原告の商標権を侵害しているように思えます。

しかし、商標としての使用に該当するか否かが、商標権侵害の判断のポイントになります。

以下の「巨峰」事件も、商標としての使用に該当するかが争点になっていますので、ご参考ください。

使用態様をきちんと確認した上で、商標としての使用に該当するか、つまり、商品・サービスの出所を表示しているか、他社の商品・サービスと区別できる機能を発揮しているか、検討しましょう。

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