・自動車ブランドの商標「EQ」が日本での著名性が認められて、商標法第3条第2項の規定が適用されました
・広告宣伝期間が、比較的、短く、また、販売台数が多くはないものの、大規模な広告宣伝することで、本願商標が、短期間で周知になったと判断されました
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の平成31年(行ケ)第10004号の判決、「EQ」商標の判例を紹介します。
メルセデス・ベンツが日本でも有名なダイムラー社が、12類の商品「Motor Vehicles」(参考訳:自動車及び二輪自動車)を指定して、以下の商標を出願しました。
特許庁において、本願商標は、普通に用いられる方法で、アルファベット2文字を表示したに過ぎず、識別力を有さないとして、判断されました。
また、日本での著名性も認められず、商標法第3条第2項の例外規定も適用されず、拒絶されました。
なお、アルファベット2文字の商標の識別力の判断については、以下の記事をご参照ください。
拒絶査定に対して不服審判を請求しましたが、やはり本願商標が識別力を有さないと判断されて、拒絶査定を維持する旨、審決が下されました。
この審決に対して不服があり、訴訟を提起したのが、本件の裁判になります。
裁判所の判断
あなたなら、本願商標「EQ」の識別力について、どのように判断しますか?
本願商標「EQ」に接して、原告であるダイムラー社の自動車を思い浮かべますか?
争点になったのは、本件商標「EQ」に接した需要者が原告の商品(電動自動車)を想起するほど、本願商標が日本において著名であるかどうか、になります。
結論を言うと、原告の使用により、本願商標は識別力(特別顕著性)を獲得していると裁判所は判断して、拒絶審決を取り消しました。
本願商標についての広告宣伝期間は、パリモーターショーで初めて公表された平成28年9月29日からで本件の審決時までで、約2年間に過ぎません。
また、「EQ POWER」という名称の自動車を販売しましたが、販売台数は平成29年から平成31年4月までの累計で1081台に過ぎません。
しかし、自動車専門誌などの雑誌で、原告の新ブランド「EQ」が取り上げられたり、モーターショーにも出展して、「EQ」を紹介しました。
また、読売新聞などの全国紙にも本件商標に関する広告を掲載したり、日本国内の顧客向けの定期機関誌においても、「EQ」を紹介しています。
このような状況から、自動車に関心を持つ取引者・需要者に対し、「EQ」が原告の新しい電動車ブランドであることを印象付ける形で、集中的に広告宣伝が行われたと裁判所は評価しました。
広告宣伝期間が、比較的、短く、また、販売台数が多くはないですが、原告の電動車ブランドを表す商標として、取引者・需要者が原告との関連を認識することができる程度に、本願商標が周知されていたと、裁判所は判断しました。
判例から学べること
商標法第3条第2項の適用の判断において、広告宣伝期間や販売数量は重要な要素になります。
しかし、本件においては、広告宣伝期間が短く、販売数量は多くないにも関わらず、短期間の大規模な広告宣伝活動により、商標が著名性を獲得したと判断されました。
一般的に商標法第3条第2項の適用のハードルは高く、本件では、自動車業界における原告の企業規模も影響した例外的なケースだと考えます。
ただ、広告宣伝期間や販売期間が短いにも関わらず、短期間の大規模な広告宣伝活動により、商標が著名性を獲得した旨、主張する場合には、本件の判例を参考にしましょう。