商標権侵害でも損害賠償がゼロ?「小僧寿し」事件をわかりやすく解説

商標権を侵害した場合、「損害賠償が発生するのは当然」と思われがちです。

ところが、「小僧寿し」事件では、商標権侵害が認められながらも、最終的に損害賠償がゼロと判断されました。

この判例は、「損害不発生の抗弁」と呼ばれる重要な考え方を示したものとして、商標法を学ぶうえで欠かせません。

では、なぜ損害が認められなかったのでしょうか? どのような場合に、この抗弁が成立するのでしょうか?

この記事では、「小僧寿し」事件の概要と裁判所の判断を初心者にもわかりやすく整理します。

また、実務において活かせるポイントを弁理士の視点から解説します。

記事の信頼性
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すみや商標知財事務所の代表弁理士(登録番号18043)が執筆しています

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「小僧寿し」事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、最高裁判所第三小法廷の平成6年(オ)第1102号の判決、いわゆる「小僧寿し」事件の判例を紹介します。

判決文は、こちら

まず、事件の概要を説明します。

以下の商標登録を保有する登録権者が、本件の上告人になります。

登録第505891号

これに対して、被上告人は、フランチャイズ契約により、全国的に「小僧寿し」という名称の持ち帰り寿司店を展開していました。

(小僧寿しの公式ホームページより)

被上告人は、「小僧寿し」「KOZOSUSHI」「KOZOSUSI」「KOZO ZUSHI」「KOZO」等の商標を使用していました。

上告人が、上記の商標登録に基づいて、被上告人に対して、損害の賠償を求めたのが、本件です。

虎さん
虎さん

最高裁判所まで争った商標業界では有名な裁判例(判例)です

「小僧寿し」事件における裁判所の判断

小僧寿しの使用商標が、登録商標「小僧」と類似するか?

初心者くん
初心者くん

当時、「小僧寿し」は、有名でしたよね?

虎さん
虎さん

はい、被上告人の小僧寿しチェーンは、外食産業において上位の売上高を上げ、知名度も高かったです。

「小僧寿し」は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称として一般需要者の間で広く認識されていました!

被上告人の商標の著名性を勘案して、「小僧寿し」「KOZOSUSHI」などの商標は、全体が不可分一体のものであるとして、登録商標「小僧」とは区別できると判断しました。

一方、「コゾウ」の称呼が生じる「KOZO」などの商標については、登録商標と類似すると認められました。

被上告人の行為により、損害が発生しているか?

初心者くん
初心者くん

この裁判の争点が知りたいです

虎さん
虎さん

この裁判では、損害が発生しているか否か、争われました!

上告人は、大阪市を中心とする近畿地区において「おにぎり小僧」の名称のおにぎり・すし等の製造販売を始めました。

しかし、被上告人やその傘下の加盟店の店舗の所在する四国地域では本件商標を使用しておにぎり・すし等を販売した実績がありませんでした。

この事実や被上告人の商標の著名性を勘案して、裁判所は、以下のように、判断しました。

  • 登録商標は、四国地域において全く使用されておらず、一般需要者の知名度がない
  • 登録商標には、業務上の信用が化体されていなく、顧客吸引力が殆どなかった
  • 上告人の販売する商品の売り上げにつき損害が生じていない
  • ライセンス料のような、本件商標権につき得べかりし利益の喪失による損害も何ら生じていない

よって、損害が発生していないとして、損害賠償の請求が認められませんでした。

虎さん
虎さん

いわゆる「損害発生の抗弁」が認められた画期的な事例です!

損害不発生の抗弁に関する「よくある質問」(FAQ)

以下は、読者の方が迷いがちな実務上の疑問に対して、簡潔に答えたFAQです。

記事本文と合わせてご活用ください。

Q1. 「損害不発生の抗弁」とは何ですか?

商標権侵害が認められた場合でも、実際に損害が発生していないときには、被告が「損害は発生していない」と主張して、損害賠償を免れることができます。

これが「損害不発生の抗弁」です。

つまり、「侵害=必ず損害賠償」というわけではなく、実際の損害の有無が問われるという点が重要です。

Q2. どのような場合に「損害不発生の抗弁」が認められますか?

次のようなケースで認められる可能性があります。

  • 侵害行為によって、権利者の売上・信用が実際には減少していない場合
  • 被告の使用が限定的で、経済的な影響がなかった場合
  • 権利者が商標を使用していなかったため、損害の発生自体が立証できない場合

「小僧寿し」事件でも、侵害は認められたものの、実際の損害が立証されなかったため、賠償は認められませんでした。

Q3. 損害がなくても「差止請求」はできますか?

はい、できます!

損害不発生の抗弁は損害賠償請求に関するものであり、差止請求(侵害の中止・予防)には影響しません。

したがって、実際の損害が立証できなくても、今後の侵害を防ぐための差止請求は可能です。

【まとめ】「小僧寿し」事件の判例から学べること

本記事のまとめ

・いわゆる、「損害不発生の抗弁」が認められたケースで、商標権侵害による損害が生じていないと判断されました

・登録商標を使用していないと、損害賠償を請求しても、損害賠償が認められない危険性があります

・ただし、実務上、「損害不発生の抗弁」が認められた判例も少なく、必ずしも、「損害不発生の抗弁」が認められるわけではありません

あなたが、商標登録を保有していて、商標権を侵害している第三者を見つけたとします。

その場合には、あなたが登録商標を使用していないと、相手方の「損害不発生の抗弁」により、損害賠償が認められない危険性があることを理解しておきましょう。

なお、実務上、「損害不発生の抗弁」が認められた判例は、ほとんどありません。

よって、万が一、あなたが他者の商標権を侵害して、損害が生じていない旨、主張したとしても、必ずしも、「損害不発生の抗弁」が認められるわけではありませんので、注意してください。

虎さん
虎さん

あくまでも例外的な事例ですので、他者の商標権を侵害しないよう、注意しましょう

なお、商標登録や商標権侵害で分からないことがあれば、商標専門の弁理士に相談しましょう。

筆者(角谷 健郎)にご連絡いただければ、一緒に検討して、あなたの疑問を解決します!

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