「誰もが知る超ヒット映画のキャラクターなら、当然すぐに商標登録できるはず!」
そう思っていませんか?実は、2016年に興行収入82億円を超える大ヒットを記録した映画『シン・ゴジラ』のキャラクター造形(立体形状)でさえ、特許庁から二度も「商標登録不可」と拒絶された過去があります。
「なぜゴジラほどの有名キャラが拒絶されたのか?」 「そして、東宝はいかにして知財高裁で逆転勝利を収めたのか?」
商品の「形」や「キャラクターのデザイン」を商標として独占登録する(立体商標)には、極めて高いハードルが存在します。
しかし、この「シン・ゴジラ」の裁判例(知財高裁 令和6年(行ケ)第10047号事件)を紐解くと、自社の看板商品やオリジナルデザインを守りたい経営者が学ぶべき「重要な知財戦略」が見えてきます。

判決の全文は、こちらです。
本記事では、13年以上の実務経験を持つ商標専門弁理士が、専門用語をかみ砕いて「シン・ゴジラ立体商標事件」の全貌と、自社ビジネスに応用できる3つの教訓・知財ミックス戦略を分かりやすく解説します!

・すみや商標知財事務所の代表弁理士(登録番号18043)が執筆しています
・商標専門の弁理士として、13年以上、働いています
・近年の商標に関する判例を、全て、チェックしています
・初心者向けに分かりやすく説明するのが、得意です
「シン・ゴジラ」立体商標事件とは?
2016年に公開され、興行収入82億円を超える空前の大ヒットを記録した映画「シン・ゴジラ」。

映画のヒットに伴い、映画に登場する「シン・ゴジラ」の独特なキャラクター造形(立体的形状)そのものを商標として守る。
映画会社である東宝株式会社が特許庁へ商標出願したことから本件のドラマが始まります。
東宝が出願したのは、文字や平面のデザインではなく、「シン・ゴジラの頭部から尻尾に至る立体的な全身フィギュア形状」そのものを権利化する「立体商標」でした。
出願人: 東宝株式会社
商標: 「シン・ゴジラ」の以下の立体的形状(特定の特徴的なポーズ)

指定商品: ぬいぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形
自社の超ヒットキャラクターのフィギュアやぬいぐるみが模倣されるのを防ぐため、東宝としては「立体商標」での確実な権利化を目指したのです。

誰もが知る大ヒット映画のキャラクターなので、簡単に商標登録できそうですが、なぜ拒絶されたのですか?

特許庁の審査官は出願を拒絶(登録不可)と判断しました。その理由は以下の2点です!
1.「単なるおもちゃの形状」とみなされた(原則:識別力なし)
特許庁は、「この立体形状は、ぬいぐるみやフィギュアなどの商品として通常採用される範囲のデザインに過ぎず、出所(誰が作った商品か)を識別する『商標』としての機能(識別力)がない」と判断しました(商標法第3条1項3号)。
2.「圧倒的な知名度による識別力」も不十分とされた(例外:3条2項の否定)
本来は識別力がない形状であっても、長年の使用や爆発的な知名度によって全国的に有名になれば、例外的に「誰の商品か分かる(使用による識別力獲得)」として登録が認められます(商標法第3条2項)。
しかし、特許庁は、「そこまでの知名度や使用実績の立証には至っていない」と厳しく判定しました。
東宝はこの拒絶査定に対して不服を申し立て(拒絶査定不服審判)、審判官グループによる再審理を求めました。しかし、審判でも特許庁の結論は覆らず、拒絶審決が維持されたのです。
後がない東宝は、この特許庁の判断(審決)を取り消すよう求め、裁判所(知財高裁)へ訴訟を提起しました。
これが「シン・ゴジラ立体商標事件」の全貌です。
「シン・ゴジラ」立体商標事件の裁判所の判断
特許庁の審査・審判で連敗した東宝。舞台は知財専門の裁判所である「知財高裁(知的財産高等裁判所)」へと移りました。
あなたは、あのゴジラの立体フィギュアの形状を見て「これはシン・ゴジラの商品だ!」と直感的に見分けられるほど有名だと思いますか?
裁判所が下した最終判断は、特許庁の判断を覆す「逆転勝訴(拒絶審決の取消)」でした。
特許庁の審査官、審判官、そして知財高裁の判断の変化をまとめると以下の通りです。
なぜ裁判所は、特許庁が二度にわたって拒絶した「シン・ゴジラ」の立体商標登録を認めたのでしょうか?
その判断ロジックを解説します。
まず前提として、知財高裁も「この立体形状そのものには、本来的には商標としての特徴(自他商品識別力)はない」という点では特許庁と同じ見解を示しました。
おもちゃ業界には恐竜や怪獣のフィギュア・ぬいぐるみが数多く存在します。

シン・ゴジラの造形も「怪獣の一般的な形状の範囲内」に留まるため、形状を見ただけで直ちに特定メーカーの商品だと識別することは原則としてできない(商標法第3条1項3号)と判断されたのです。
【判断の決め手】圧倒的な認知度による「自他商品識別力」の獲得(3条2項)
しかし、裁判所は「使用された結果、圧倒的な知名度を獲得して『誰の商品か』が全国的に分かるようになった(商標法第3条2項の適用)」として、例外的に商標登録を認めました。
その決め手となったのが、東宝側が提示した以下のような驚異的な実績と証拠データです。
1.単体としての爆発的なヒットと認知度の実証
映画の記録的ヒット: 興行収入が当時の日本映画歴代22位(約82.5億円)を記録
関連商品の圧倒的売上: 出願対象のフィギュア・ぬいぐるみ等だけでも売上数量102万個・売上額約26億5,000万円を達成
認知度調査(アンケート): 画像を見せて「何をモデルにしたフィギュアか」を尋ねたところ、64.4%が「ゴジラ」または「シン・ゴジラ」と回答
2.「ゴジラ」というブランドが60年かけて築いた歴史的背景
長年の実績: 1954年の1作目から60年以上の長きにわたり全30作に及ぶ映画シリーズを展開
巨大な市場規模: ゴジラシリーズ全体の関連商品売上は数百億円規模
日常的な認知: 東京都の日比谷をはじめ、都内各地に巨大なゴジラ像が恒常的に設置されている

裁判所はこれらの事実を総合的に評価し、「本来は識別力がない形状であっても、出願商品(ぬいぐるみ等)に使用された結果、一般消費者が『シン・ゴジラに関連する商品だ』と明確に識別できるレベル(著名性)に達した」と結論付けました。
「シン・ゴジラ」立体商標事件から経営者が学ぶべき「3つの教訓」
多くの事業者様から商標登録のご相談をお受けしますが、「商品やサービスの形状に特徴がない(識別力がない)」という理由で特許庁から拒絶され、諦めてしまうケースが多々あります。
しかし、すんなり諦めてしまう前に「例外的に商標登録できる余地(商標法第3条2項)はないか?」を必ず検討すべきです。
「シン・ゴジラ」の判例は、看板商品や独自デザインを持つすべての経営者にとって、非常に勇気を与える3つの重要な教訓を教えてくれています。

本来、商品や容器の「形状そのもの」は誰でも使う可能性があるため、商標登録のハードルは極めて高設定になっています。
しかし、膨大なマーケティングと実績によって「全国的な著名性」を獲得すれば、例外的に商標登録が認められます。
例えば、以下の文字商標は、例外的に、商標登録になりました。
また、以下の立体商標も、例外的に、商標登録になりました。
(ヤクルトの容器の立体形状)
(コカ・コーラの容器の立体形状)
ちなみに、コカ・コーラの立体商標の判例については、以下の記事で、詳しく紹介しています。

ヤクルトやコカ・コーラの容器の形状も、登録商標なんですね

ヤクルトやコカ・コーラのように、「そのシルエットを見ただけで誰もがブランドを特定できるレベル」まで育て上げ、有効な使用証拠を提示できれば、立体商標として独占権利化することが可能です!
「商標の知名度を証明するには、何十年もの歴史が必要なのでは?」と思われがちです。
確かに「ゴジラ」自体は長年続いていますが、映画『シン・ゴジラ』が公開されてから本件の審決・判決が下されるまでの期間はおよそ8年間でした。
商標実務において、8年という使用期間は決して長くありません。
つまり、長年の歴史や老舗企業でなくとも、短期間で爆発的なヒットを起こし、集中的にメディア露出や販売実績を作れば、使用による識別力(著名性)を獲得したと認められる可能性があるということです。

これはスタートアップや新商品を急成長させたい事業者にとって大きな希望です!
おもち日本のおもちゃ市場全体という巨大な枠組みで見れば、「ゴジラ関連商品」の占有率(市場シェア)自体は決して高くありません。
特許庁も最初は「業界全体の中ではシェアが低い」点を拒絶理由の一つにしていました。
しかし裁判所は、「おもちゃ業界には男児向け・女児向け・知育玩具など極めて多様なジャンルが存在しており、市場全体を分母にしてシェアを測るのは不適切である」と判断したのです。
自社の売上規模や業界シェアがそれほど大きくなくても、「話題性・認知度が高いこと」や「業界の構造や特殊性」を論理的に弁理士が主張・立証できれば、著名性を認めさせることができます。
【実践】自社キャラクター・看板商品の形状を守る知財戦略

「自社でもオリジナルのキャラクターや、独特なデザインの看板商品を展開したい」
「他社にデザインを真似されないよう、しっかり権利で守っておきたい」
そう考えたとき、今回の「シン・ゴジラ」のように最初から立体商標一本で守ろうとするのは非常にハイリスクです。
自社のキャラクターや商品の形状を守り、ブランド価値を最大化するためには、複数の知的財産権を組み合わせる「知財ミックス戦略」が不可欠です。
「シン・ゴジラ」事件で見た通り、立体の形状を商標登録するためには「全国的な圧倒的知名度(著名性)」という途方もなく高いハードルを超えなければなりません。
商品やキャラクターの立ち上げ初期段階では、商標権だけに頼るのは非常に危険です。
そこで、以下の権利と組み合わせた多角的な保護を視野に入れます。
著作権:オリジナルキャラクターのデザインやイラストそのものは、創作された時点で自動的に著作権で保護されます。
意匠権(デザインの権利):商品の形状やパッケージデザインそのものを守る強力な権利です。「公表する前」に出願する必要がありますが、著名性を獲得していなくても登録できるため、立ち上げ初期の形状保護に最も適しています。
新規商品を展開する際は、「まずは著作権や意匠権で初期デザインをガッチリ防衛し、ヒットして認知度が上がった段階で立体商標を狙う」という二段構えの手順を踏むのが安全です。
なぜハードルが高いにもかかわらず、多くの企業が「立体商標」での登録を目指すのでしょうか?
その理由は、商標権にしかない「半永久的な保護期間」という圧倒的なメリットにあります。
| 保護期間(存続期間) | 更新の可否 | |
| 意匠権 | 出願日から最大25年 | |
| 著作権 | 著作者の死後70年 (法人名義は公表後70年) | |
| 商標権 | 登録日から10年 |
意匠権や著作権はどんなに強力でも、一定期間が過ぎれば権利が消滅し、誰でも真似できる状態になってしまいます。
一方、商標権は10年ごとに更新すれば、50年でも100年でも半永久的に自社ブランドを独占し続けることができる「最強の永続権」なのです。
「立体商標は更新すれば半永久的に守れる。しかし、最初から100%登録できるとは限らない」
だからこそ、知財の専門家である弁理士のアドバイスを受けながら、「商標権・著作権・意匠権」をいつ・どのタイミングで組み合わせるかという将来的・総合的な知財戦略を立てることが極めて重要になります。
自社のフェーズ(開発段階/発売初期/ヒット後)に合わせて最適な選択肢を組み替えていくことこそが、模倣品を排除し、自社のブランド資産を永続的に守り抜く唯一の道です。
【まとめ】商品の「形状」や「キャラクター」を守るなら、総合的な知財戦略が不可欠です!
今回は、映画「シン・ゴジラ」の立体商標判例を題材に、商品形状の商標登録のハードルや、実践的な知財戦略について解説しました。
・原則として、商品の形状そのものは商標登録のハードルが非常に高い(3条1項3号)
・ただし、全国的な著名性や実績(売上・話題性・アンケート等)を立証できれば逆転登録も可能(3条2項)
・スタートアップや立ち上げ初期は「意匠権」や「著作権」で初期防衛し、ヒット後に「立体商標(更新で半永久保存)」を狙う「知財ミックス戦略」が重要
「せっかく開発した独自デザインの商品が、他社に真似されてしまった…」
「自社のオリジナルキャラクターを一生モノの権利として保護したい」
知財保護は、タイミングや権利の組み合わせ方を一歩間違えると、模倣品の発生を防ぎきれなくなってしまうリスクがあります。

すみや商標知財事務所では、商標専門の弁理士の筆者(角谷 健郎)がビジネス展開を丁寧にお伺いし、キャラクターや商品の形状を守るための権利設計をご提案いたします。

事務所HPからもご相談いただけますが、以下のフォームからも簡単にお問い合わせいただけます。


