・商標権者は、侵害者に対して、差し止め請求と損害賠償請求できます。なお、侵害品の在庫の廃棄なども要求できます
・損害額の計算方法には、いくつかあります。事案に応じて、使い分けましょう
・商標権者の業務上の信用が害された場合、裁判所を通じて、信用を回復するための措置を命じることもできます
自分の商標権が侵害されたら
あなたが商標出願を行い、無事に商標登録を取得できました。
その後、事業を継続していたところ、商標権侵害している第三者を見つけたとします。
それでは、あなたは、商標権を侵害している第三者に対して、どんなことを請求できるでしょうか?
商標の実務では、商標権者が侵害者に対して請求するのは、主に、差し止め請求と損害賠償請求の2つです。
それでは、以下、各々の請求内容について、説明していきます。
商標権侵害に該当した場合、商標の使用の中止と損害賠償を請求できます!
商標権侵害への救済手続①(差し止め請求)
まずは、商標法の条文をチェックします。
商標法36条1項において、以下のように、定められています。
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
さらに、同条2項において、以下のように、続けて、記載されています。
商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
よって、この条文を根拠に、商標権者が、侵害者に対して、侵害行為を停止するよう、請求できます。
例えば、あなたの商標権を侵害している商品が、製造・販売されているとします。
その場合、製造者・販売者に対して、侵害品の製造・販売をすぐに中止するよう、要求できます。
さらに、商標権を侵害している商品の在庫が残っている場合には、侵害品の在庫の廃棄も要求できます。
侵害品の製造・販売の中止とともに、侵害品の在庫の廃棄も要求できます
商標権侵害への救済手続②(損害賠償請求)
損害賠償できる根拠となるのは、民法です。
民法709条において、以下のように、規定されています。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
なお、「故意又は過失」が損害賠償請求の条件(要件)です。
しかし、商標法39条において、特許法の過失の推定規定を準用しています。
これにより、商標権者が、侵害者の「過失」を立証する必要はありません。
侵害者が、無過失の立証の責任を負います。
侵害品が出回ったことにより、あなたの製造・販売している正規品の売り上げが落ちたとします。
その場合には、あなたは、損害を被っています。
あなたは、自己の商標権に基づいて、侵害者に対して損害賠償を請求できます。
なお、例外的に、損害賠償の請求が認めらないケースもあります。
損害が発生していないと判断されると、商標権が侵害されても、損害賠償の請求が認められません。
例えば、以下の記事で、紹介している「小僧寿し」事件です。
「小僧寿し」事件の判例紹介最高裁判所の判断では、「損害不発生の抗弁」により、損害賠償の請求を認めませんでした。
商標権侵害における損害賠償額の計算方法
それでは、損害賠償の金額をどのように計算するでしょうか?
なかなか判断が難しいですよね。
そこで、商標法では、損害額の推定規定を設けています。
具体的には、商標法38条です。
商標法で規定している損害額の計算方法を簡単に紹介していきます。
損害額の計算方法は、いくつかあります。事案に応じて、適切なものを選択しましょう!
まず、商標権者が得られたであろう利益(逸失利益)を損害額とする計算方法です。
分かりにくいので、具体例を出して、説明します。
例えば、侵害者が1万個の模倣品を販売したとします。
一方、商標権者は、1つの商品あたり、1000円の利益を得ていました。
その場合、商標権者の受けた損害額は、1万個×1000円=1000万円になります。
なお、設備の問題などで、侵害分のうち、3000個しか、販売する能力がないとします。
その場合でも、残りの7000個分については、ライセンス料の相当額を損害額として認められます。
次に、侵害者の得た利益を損害額とする計算方法です。
こちらも、具体例を出して、説明します。
例えば、侵害者が1万個の模倣品を販売したとします。
侵害者は、1つの商品あたり、500円の利益を得ていました。
その場合、侵害者の得た利益は、1万個×500円=500万円になります。
侵害者の得た利益が損害額なので、損害額は500万円です。
ライセンス料の相当額を侵害額とする計算方法です。
ライセンス料の相当額とは、商標の使用許諾をしていれば、受け取ることができた金額です。
ライセンス料の相当額は、案件によって、大きく異なります。
ただ、過去の裁判例では、侵害品の売上の1~10%の間で、認定されることが多いです。
TPP協定に参加したことで、新たに設けられた規定です。
商標権の取得及び維持に掛かる費用を損害額として計算できます。
侵害者の売り上げがなかったり、少額の場合、有効な計算方法です。
商標権侵害への救済手続③(信用回復措置請求も可能)
侵害行為によって、商標権者の業務上の信用が害されたとします。
その場合、裁判所を通じて、信用を回復するための措置を命じることができます。
例えば、侵害品が、粗悪で、商標権者の信用が害された場合です。
具体的には、謝罪広告の掲載などを要求できます。
自分の商標権が侵害されたら、弁理士や弁護士に相談!
自分の商標権が侵害されたら、どうすればいいか、迷うかと思います。
分からないことがあれば、商標専門の弁理士、もしくは、商標に精通した弁護士に相談しましょう。
筆者(すみや商標知財事務所)に相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士