他人の氏名を含む商標は登録できる?商標法改正の背景とリスクを解説【2024年版】

2024年の商標法改正により、「他人の氏名を含む商標」の登録要件が大きく変わりました。

これまでは、たとえ企業名や商品名であっても、他人の氏名(たとえば「山田 太郎」など)を含む商標は、原則として本人の承諾がなければ登録できませんでした。

しかし今回の法改正により、一定の条件を満たせば、本人の承諾がなくても登録が認められるケースが拡大しています。

この変更により、企業やブランドが氏名を含むネーミングを採用しやすくなる一方で、「自分の名前が勝手に商標登録されてしまう」リスクも現実味を帯びてきました。

本記事では、

  • 改正前の審査実務の概要
  • 改正に至った背景
  • 改正後の審査方針
  • 氏名の保護やリスクへの対応

について、弁理士の視点からわかりやすく解説していきます。

記事の信頼性
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「他人の氏名を含む商標」の従来の審査実務

2024年に商標法が改正されたので、改正ポイントを紹介します。

他人の氏名を含む商標の登録要件が、改正されました。

以前の商標法では、商標法4条1項8号で、以下のような商標は、商標登録が認められないと規定されていました。

他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

よって、他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾を得ていない限り、商標登録を受けることができません

特許庁ホームページでは、以下の図を使って、改正前の制度を紹介しています。

なお、この規定は、人格権の保護の観点から、かなり厳格に運用されています

具体的な事例を使って説明

例えば、「Takashi Sato」と商標出願すると、拒絶理由が通知されて、「サトウタカシ」さんの承諾を得るよう、審査官から指摘を受けます。

その中には、「佐藤 隆」「佐藤 孝」「佐藤 高志」など、あらゆる「サトウタカシ」さんが含まれるので、このような拒絶理由を克服するのは、かなり難しいです。

虎さん
虎さん

他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾を得ない限り、商標登録になりません。従来の審査実務では、かなり厳格に判断していて、拒絶理由を克服するのは、かなり難しいです

「他人の氏名を含む商標の登録要件」の法改正に至った経緯

ファッション業界を中心に、創業者やデザイナーの氏名をブランド名として採用する傾向があります。

現行の厳格な審査実務だと、広く一般に知られたブランドまで、同名の他人が存在すれば、一律で拒絶されています

現行の商標実務では、氏名からなるブランドの商標としての保護が欠けています。

また、意図せずに、出願商標の一部が他人の氏名を表すことになった場合も、拒絶せざるを得ませんでした。

意図せずに、出願商標の一部が他人の氏名を表すことになった事例

例えば、「南実のかぼちゃ」は、「南の大地で豊かに実る」という意味合いで名付けられました。

しかし、特許庁の審査において、「南 実」(みなみ みのる)を氏名とする他人を確認しました。

そのため、特許庁としては、承諾を得られない以上、「南実のかぼちゃ」の商標出願を拒絶せざるを得ませんでした。

このような状況から、出願人の商標登録を受ける利益よりも他人の氏名に係る人格的利益が過度に優先されているので、法改正が検討されました。

虎さん
虎さん

他人の氏名に係る人格的利益が過度に優先されていることから、今回の法改正が検討されました

法改正後の「他人の氏名を含む商標」の審査実務

以前は、全ての他人の氏名を対象とすると、氏名からなるブランドの商標は、十分に保護することができませんでした。

一方、このような登録要件を完全に除外してしますと、人格権が害される危険性があります。

そこで、今回の法改正では、対象となる他人の氏名に、一定の条件を設けました

具体的には、商標法4条1項8号の「他人の氏名」の後に、以下の文言を追加しました。

商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る

これにより、対象の分野において、広く認識されていない氏名であれば、拒絶理由の対象には該当しません

なお、特許庁ホームページでは、以下の図を使って、改正後の制度を紹介しています。

具体的な事例を使って説明

例えば、指輪・ネックレスの業界において、有名な「トッキョタロウ」(特許太郎)さんがいないとします。

その場合には、指輪・ネックレスを指定して、商標「特許太郎」を商標出願したとしても、この規定には該当しません。

一方で、あなたが、商品「被服」を指定して、「Yohji Yamamoto」の文字を含む商標を商標出願したとします。

ヨウジヤマモトは、有名なファッションデザイナーの氏名ですので、法改正後でも、この規定に該当して、商標出願が拒絶されるでしょう。

虎さん
虎さん

今回の法改正で、対象となる他人の氏名に、一定の条件を設ける予定です。対象の分野において、広く知られていない他人の氏名であれば、拒絶理由の対象にはなりません!

【法改正後に高まるリスク】自分の氏名が商標登録されてしまったら

このように登録要件を緩和することで、他人に、自分の氏名を商標登録されてしまう危険性が高まります。

しかし、仮に、自分の氏名が商標登録されてしまっても、自分の氏名としての使用を妨げることはありません

商標法26条1項において、自分の氏名の使用には、例外的に、商標権の効力が及ばないと明記されています。

詳細については、以下の記事をご参照ください。

自分の名前をビジネスで使っても大丈夫?商標権との関係と3つの注意点を弁理士が解説!

また、登録商標の使用により自分の氏名権などが侵害された場合には、民法上、行為が規制できる可能性があります。

例えば、登録商標を使用された結果、精神的苦痛を受けた場合や自己の評判が下がり実際に損害が発生した場合などです。

虎さん
虎さん

万が一、自分の氏名が他人に商標登録されたとしても、自分の氏名の使用に対しては、商標権の効力が及びません

「他人の氏名を含む商標の登録要件」の商標法改正の時期

2023年3月10日、法律案が閣議決定されて、通常国会に提出されました。

2023年6月7日に可決・成立し、6月14日に公布されました。

その後、2023年11月24日に、閣議決定されました。

2024年4月1日に施行されました

なお、法改正により、同意書制度も、同時に、導入されたので、以下の記事で、詳しく紹介しています。

【2024年商標法改正】コンセント制度(同意書制度)とは?導入の背景と実務への影響を徹底解説
本記事のまとめ

・他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾を得ていない限り、商標登録を受けることができません

・人格権保護の観点から、現行の商標実務では、厳格に判断して、特許庁の審査で見つかった同姓同名の全ての人から承諾をもらう必要があります

・法改正後、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和する予定で、対象の分野において、広く認識されていなければ、その人から承諾を得る必要はありません

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