商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和6年(行ケ)第10047号の判決、シン・ゴジラの立体商標の判例を紹介します。
インターネットや新聞でも報じられた有名な裁判例です。
判決の全文は、こちらです。
12年以上の弁理士歴のある筆者が、初心者にも分かりやすいよう、丁寧に説明していきます。
この記事を読めば、最新の商標の判例の内容を知ることができます。
また、シン・ゴジラの立体商標の商標登録が認められた経緯が分かります。
シン・ゴジラの立体商標の事件の概要
映画「シン・ゴジラ」は、2016年に公開されて、大ヒットしました。
原告である東宝株式会社は、立体商標として、映画「シン・ゴジラ」のゴジラの立体的形状を商標出願しました。
指定商品は、「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」です。
しかし、特許庁では、商標としての特徴(専門的に言うと「識別力」)を有さないとして、商標出願を拒絶しました。
なんで、特許庁は、商標としての特徴を有さないと判断したんですか?
本願商標が、ぬいぐるみの形状として採用し得る範囲を超えず、商標としての特徴が乏しいと、特許庁は判断しました!
また、本願商標の使用により、識別力を獲得したとは認められないと、判断しました。
この判断に対して、東宝は拒絶査定不服審判を請求しました。
しかし、審判においても、判断が覆らずに、拒絶査定が維持されました。
この審決に不服のある原告が、審決の取り消しを求めて、訴訟を提起したのが本件です。
「シン・ゴジラの立体商標」事件の裁判所の判断
あなたは、この立体商標が、東宝の使用によって、著名になり、識別力を獲得したと思いますか?
つまり、あなたは、この立体商標を見て、直ちにシン・ゴジラの商品と分かる程、有名だと思いますか?
結論から言えば、本願商標が、識別力を獲得しているとして、商標登録を認めて、拒絶審決を取り消しました。
特許庁・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
以下、裁判所の判断について、紹介していきます。
シン・ゴジラの立体商標は、本来的に識別力(商標としての特徴)がない
おもちゃ業界において、恐竜や怪獣の様々な商品が製造・販売されています。
本願商標の特徴も、一般的な恐竜や怪獣の特徴と本質的に異なるものではないと、裁判所は判断しました。
よって、特許庁の審査・審判と同様、シン・ゴジラの立体商標は、本来的には識別力(商標としての特徴)がないと、裁判所でも判断しました。
シン・ゴジラの立体商標は、短期間で、多くの消費者に知れ渡る
裁判所では、以下のような事実から、シン・ゴジラの形状は、世の中に、広く知れ渡っていると判断しました。
- 映画「シン・ゴジラ」が記録的な大ヒット(興行収入が日本映画の歴代22位)
- 本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26 億5000万円
- 「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」の質問に、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%
また、以下のような事実から、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、一般消費者の間で、ゴジラの形状が広まっていたとのことです。
- 映画「ゴジラ」シリーズは、60年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開
- 映画「ゴジラ」シリーズのフィギュア商品などの売上金額は、それぞれ百億円を大きく超えている
- 巨大なゴジラ像が、都内の複数の場所に恒常的に設置
例えば、東京都の日比谷には、以下のゴジラ像が設置されています。
よって、本願商標は、例外的に商標登録を認める程、高い著名性を獲得していると、裁判所は考えました。
識別力を獲得したので、例外的に商標登録を認める
本願商標は、本来的には、識別力(商標としての特徴)を有しません。
しかし、ぬいぐるみ等に本願商標を使用した結果、本願商標が、シン・ゴジラに関連すると、消費者が認識できる程、有名になりました。
つまり、本願商標が、識別力を獲得したと認めたので、裁判所は、例外的に、商標登録を容認しました。
シン・ゴジラの立体商標の判例から学べること
頻繁に商標登録の相談を受けますが、識別力(商標としての特徴)がなく、商標登録できないことが多々あります。
そのような場合、すんなりと商標登録を諦めることがあります。
ただ、諦める前に、本件のように、例外的に商標登録できる余地がないか、検討すべきです。
全国的に著名になれば、例外的に、商標登録できることもある!
全国的に著名であれば、例外的に、商標登録が認められます。
例えば、以下のような著名商標が、例外的に商標登録を認められています。
また、以下の立体商標も、例外的に、商標登録になりました。
- (ヤクルトの容器の立体形状)
- (コカ・コーラの容器の立体形状)
ハードルは高いですが、膨大かつ有効な使用証拠を提出して、全国的な著名性を立証すれば、識別力(特徴)のない商標でも、商標登録できる可能性があります。
短期間で著名になることもある!
ゴジラ・シリーズが、長年、続いていることも、映画「シン・ゴジラ」が公開されてから、本件の審決が下されるまで、約8年間です。
商標の著名性を立証するためには、使用期間としては、8年間は、かなり短いです。
短い使用期間でも、例外的に商標登録が認められたのは、参考になります。
使用期間が短くでも、その間に、大規模に使用していれば、商標登録になる可能性があります!
市場シェアが低くとも、著名だと認められる可能性アリ
おもちゃ業界全体から見れば、ゴジラ関連の商品の占有率(市場シェア)は高くありません。
しかし、おもちゃ業界には、極めて多様なジャンルが存在します。
このような業界の実情すると、分母が大きすぎるとして、市場シェアが低くても、商標登録できました。
市場シェアが高くない商品・サービスの場合には、業界の実情を主張できないか、検討しましょう。
分からないことがあれば、商標専門の弁理士に相談!
商標の判例や商標登録で分からないことも多々あるでしょう。
そのような場合、一人で悩まずに、商標専門の弁理士に相談しましょう。
なお、筆者(すみや商標知財事務所)にご相談いただければ、親身になって、一緒に検討します!
業界では珍しい「商標専門」の弁理士
・「シン・ゴジラ」の立体商標は、本来的には、識別力(商標としての特徴)を有さないものの、高い著名性を獲得しているので、例外的に商標登録が容認されました
・過去、コカ・コーラ瓶やヤクルト容器の立体的形状なども、商標登録を認められました。全国的に著名であれば、例外的に商標登録になる可能性があります
・映画「シン・ゴジラ」が公開されてから、8年間という短い使用期間でも、商標登録が認められたこと等、この判例から学べることがあります