・明らかに著名商標(元ネタ)に依拠したパロディー商標でも、商標登録を取り消せない危険性があります
・例えば、裁判で争っても、「フランクミュラー」のパロディー商標「フランク三浦」の商標登録が維持されました
・しかし、元ネタの著名商標の品位・名声が傷付けられる危険性があるので、パロディー商標に対しては、しつこく対応して、毅然とした姿勢を他者に示すことが重要です
パロディー商標とは、他人の商標を模倣・改変した商標
日本には、誰でも知っているような著名商標は、いくつもあります。
著名商標を模倣して、からかい・風刺やユーモアのために、改変することがあります。
そのように、他人の商標を模倣し、改変した商標は、一般的に、「パロディー商標」と言われています。
パロディー商標は、他人の商標に依拠しています。
パロディー商標が使用されることで、元ネタの商標に蓄積された名声が傷つけられる危険性があります。
さらに、パロディー商標が、勝手に、特許庁に出願されることがあります。
パロディー商標の対策の難しさ
パロディー商標の対策として、まずは、きちんと商標登録を取得することが重要です。
実際、パロディーの元ネタとなる商標は、商標登録されていることが、ほとんどです。
また、パロディー商標が商標出願されたら、情報提供により、商標出願が拒絶されるよう、努めます。
それでも、特許庁の審査を通過して、パロディー商標が商標登録になることがあります。
その場合には、異議申し立てや無効審判などで、商標登録の取り消しを図ります。
しかし、このような対策を講じても、パロディー商標の商標登録が認められる危険性があります。
パロディー商標への対策が難しい理由を、3つ、紹介します。
パロディー商標が、登録商標と類似しない可能性が高い!
商標登録を取得すれば、登録商標と類似する範囲まで、効力が及びます。
つまり、パロディー商標が登録商標と類似していれば、商標登録で排除できます。
しかし、パロディー商標対策で難しいのは、登録商標と類似しているとは限らないことです。
パロディー商標が、元ネタを模倣し、依拠していることは、明らかです。
しかし、模倣・依拠しているからといって、直ちに、商標が類似しているとは判断されません。
パロディー商標は、元ネタのテイスト・雰囲気を取り入れながらも、登録商標には類似しないようなものが多いです。
元ネタに依拠・模倣していることと、商標が類似していることは、違います
消費者が、元ネタと混同を生じない可能性がある!
著名商標の場合、商標が類似しなくても、その業務に係る商品やサービスと混同を生じる可能性があります。
商標法の4条1項15号において、以下の商標も、登録できない旨、規定されています。
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標
パロディー商標は、登録商標と類似しないものの、模倣・依拠しています。
パロディー商標の対策で、本命となるのは、こちらの規定です。
しかし、必ずしも、この規定が適用されるか、分かりません。
なぜなら、普通、パロディー商標は、元ネタの偽物と容易に判断できるからです。
つまり、消費者が、パロディー商標と元ネタを、混同しているわけではありません。
公序良俗にも反しない可能性がある!
パロディー商標の商標登録に対して、公序良俗に反するので、無効とすべきと、主張することがあります。
商標法4条1項7号において、以下の商標も、登録できない旨、規定されています。
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
しかし、この規定は、基本的には、公益保護のためのものです。
パロディー商標を取り消すかどうかは、私益的な問題です。
よって、必ずしも、公序良俗に違反すると判断されるか、分かりません。
パロディー商標の裁判例・審決例の紹介
過去、著名商標のパロディー商標が問題となった事例があります。
事例によって、裁判所や特許庁の判断が異なります。
参考になるので、パロディー商標の代表的な事例を7つ紹介していきます。
まずは、ドイツのスポーツ用品メーカーの「PUMA」(プーマ)です。
スポーツをしている人も、していない人も、老若男女に愛される有名スポーツブランドです。
「PUMA」といえば、動物のピューマが飛び跳ねているロゴが有名です。
現在も、「PUMA」の多数の商品に、このロゴが使用されています。
もちろん、日本でも、以下の商標登録を取得しています。
「PUMA」のロゴのパロディー商標は、多数、あると思います。
その中でも、特に有名な事例を、2件、紹介します。
①「KUMA」のロゴ商標
まずは、「KUMA」のロゴ商標の事件です。
以下、「PUMA」のパロディー商標が、特許庁の審査を通過して、商標登録になりました。
これに対して、PUMA社は、無効審判を請求しました。
審判で審理した結果、「KUMA」のロゴ商標の登録を取り消すことができました。
しかし、この審決に納得ができず、「KUMA」のロゴ商標の権利者は、裁判を提起しました。
なお、裁判の番号は、平成24年(行ケ)第10454号です。
裁判でも、審判の判断を支持して、原告の請求を棄却しました。
特許庁の審査・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
特許庁の審査→商標登録を認める
審判での判断→商標登録を認めない
裁判所の判断→商標登録を認めない
なお、裁判所が適用した条文は、商標法4条1項15号と7号です。
つまり、PUMA社の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあると、裁判所が判断しました。
さらに、「KUMA」のロゴ商標は、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するおそれがあると、判断しました。
②「SHI-SA」のロゴ商標
次は、「SHI-SA」のロゴ商標の事件です。
以下、「PUMA」のパロディー商標が、特許庁の審査を通過して、商標登録になりました。
これに対して、PUMA社は、この商標登録に対して、異議を申し立てました。
審判で審理した結果、「SHI-SA」のロゴ商標の登録を取り消すことができました。
審判では、「SHI-SA」のロゴ商標が、「PUMA」のロゴ商標と類似すると判断しました。
しかし、この審決に納得ができず、「SHI-SA」のロゴ商標の権利者は、裁判を提起しました。
なお、裁判の番号は、平成20年(行ケ)第10311号です。
裁判では、異議申し立ての判断を覆しました。
つまり、「SHI-SA」のロゴ商標が、「PUMA」のロゴ商標と類似しないとして、異議決定を取り消しました。
特許庁の審査・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
特許庁の審査→商標登録を認める
審判での判断→商標登録を認めない
裁判所の判断→商標登録を認める
同じ「PUMA」のパロディー商標でも、「KUMA」のロゴ商標とは、判断が異なります。
「フランクミュラー」のパロディー商標、「フランク三浦」の事例です。
「フランクミュラー」は、スイスの高級の腕時計のブランドで、数百万円の腕時計を販売しています。
フランクミュラーは、日本で、以下の商標登録を取得しています。
一方、以下の通り、「フランクミュラー」をパロディーにした腕時計が、販売されています。
さらに、「フランクミュラー」のパロディー商標「フランク三浦」が、特許庁の審査を通過して、商標登録になりました。
これに対して、フランクミュラーは、無効審判を請求しました。
審判で審理した結果、「フランク三浦」の商標登録を取り消すことができました。
しかし、この審決に納得ができず、「フランク三浦」の商標権利者は、裁判を提起しました。
なお、裁判の番号は、平成27年(行ケ)第10219号です。
裁判では、無効審判の判断を覆しました。
つまり、「フランク三浦」の商標登録を認めて、無効審判の審決を取り消しました。
高級時計の需要者と、「フランク三浦」を購入する需要者の層は、明らかに相違します。
需要者が違うので、「フランク三浦」と「フランクミュラー」とを混同するおそれがないと判断しました。
特許庁の審査・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
特許庁の審査→商標登録を認める
審判での判断→商標登録を認めない
裁判所の判断→商標登録を認める
「BOSS」のパロディー商標、「BOZU」の事例です。
「BOSS」は、サントリーの有名なコーヒーブランドです。
BOSSのコーヒーは、1992年8月から、日本全国で販売されています。
もちろん、サントリーは、以下のBOSSの商標登録を取得しています。
一方、「BOSS」のパロディー商標、以下の「BOZU」のロゴ商標が、特許庁の審査を通過して、商標登録になりました。
なお、指定商品は、「被服」です。
この商標登録を見つけたサントリーが、異議を申し立てました。
審判番号は、平成 10 年異議第 90851 号です。
サントリーは、商品の販促の一環として、「ボスジャン」というジャンバーを景品として提供していました。
当時、大人気で、記録的な応募総数になりました。
この事実が、サントリーに有利に働きました。
「BOZU」のロゴ商標は、サントリーの「BOSS」と混同するおそれがあると判断しました。
審判において、「BOZU」のロゴ商標の商標登録を取り消しました。
特許庁の審査・審判の判断を、まとめると、以下の通りです。
特許庁の審査→商標登録を認める
審判での判断→商標登録を認めない
「ランボルギーニ」は、イタリアの高級スポーツカーのブランドです。
ランボルギーニは、日本で、以下の商標登録を取得しています。
一方、「ランボルギーニ」をパロディーにした「Lambormini」(ランボルミーニ)という小型自動車が、販売されています。
さらに、「ランボルギーニ」のパロディー商標、「Lambormini」のロゴ商標が、特許庁の審査を通過して、商標登録になりました。
この商標登録に対して、ランボルギーニは、無効審判を請求しました。
しかし、審判で審理した結果、「Lambormini」のロゴ商標の登録を取り消せませんでした。
この審決に納得ができないランボルギーニは、審決の取り消しを求めて、裁判を提起しました。
なお、裁判の番号は、平成23年(行ケ)第10426号です。
裁判では、無効審判の判断を覆しました。
つまり、「Lambormini」のロゴ商標の登録を認めず、無効審判の審決を取り消しました。
自動車業界において、商標「LAMBORGHINI」は、需要者の間に、広く知れ渡っています。
「Lambormini」のロゴ商標が、商標「LAMBORGHINI」と類似すると、裁判所は判断しました。
さらに、ランボルギーニの業務に係る商品と混同するおそれがあると、判断しました。
特許庁の審査・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
特許庁の審査→商標登録を認める
審判での判断→商標登録を認める
裁判所の判断→商標登録を認めない
「白い恋人」のパロディー商標、「面白い恋人」の事例です。
2011年当時、話題になったので、覚えている人もいるかと思います。
「白い恋人」は、北海道を代表する洋菓子です。
業界紙の「20世紀を代表する土産品」ランキングで、1位に選ばれた大人気商品です。
製造元の石屋製菓は、以下の「白い恋人」の商標登録を取得しています。
これに対して、吉本興業は、「白い恋人」のパロディー商品を企画しました。
その商品名は、「面白い恋人」です。
以下の通り、現在も、「面白い恋人」は販売されています。
また、商標「面白い恋人」を、特許庁に商標出願しました。
しかし、特許庁では、商標登録を認めずに、拒絶査定にしました。
拒絶の根拠とした条文は、商標法4条1項7号です。
つまり、商標「面白い恋人」は、「白い恋人」との関係で、公序良俗に反すると判断しました。
ロックバンド「ローリングストーンズ」のマークのパロディー商標の事例です。
「ローリングストーンズ」は、1962年に結成されたイギリスのロックバンドです。
世界的に有名で、「最も偉大なアーティスト」ランキングで、4位に選ばれたことがあります。
舌と唇をモチーフとしたマークが、「ローリングストーンズ」のシンボルとして、広まっています。
また、日本で、以下の商標登録を取得しています。
これに対して、以下の「ローリングストーンズマーク」のパロディー商標が、商標出願されました。
特許庁の審査を通過して、商標登録になりました。
そこで、パロディー商標の登録に対して、異議申し立てを行いました。
異議申し立てでは、パロディー商標の登録を取り消す旨、判断が下れました。
これの判断に対して不服があったパロディー商標の権利者が、判断の取り消しを求めて、裁判を提起しました。
なお、裁判番号は、平成 21 年(行ケ)第 10274 号です。
裁判では、異議申し立ての判断を覆しました。
つまり、「ローリングストーンズマーク」のパロディー商標の登録を維持する旨、判断しました。
パロディー商標と元ネタの「ローリングストーンズマーク」が類似しないと、裁判所は考えました。
よって、「ローリングストーンズマーク」の著名性を認めながらも、両者を混同するおそれはないと、裁判所は判断しました。
特許庁の審査・審判・裁判所の判断を、まとめると、以下の通りです。
特許庁の審査→商標登録を認める
審判での判断→商標登録を認めない
裁判所の判断→商標登録を認める
パロディー商標の登録取り消しの判断基準とは(事例から学ぶ)
7つの事例を比較すると、パロディー商標の登録を認めるか否か、事例によって、異なります。
さらに、特許庁の審査・審判・裁判所の判断も、違います。
商標登録を認めるか、明確に線引きできず、判断するのが、難しいということです。
ただ、過去の事例から学ぶと、以下のような要素が、パロディー商標の登録を取り消すか、判断基準になりそうです。
商標が類似するか?
商標が類似するかどうか、1つの判断基準になります。
例えば、「ローリングストーンズマーク」の事例です。
「」と「」では、商標が似ていないと判断されました。
全く商標が似ていないようであれば、パロディー商標の登録が認められる可能性があります。
商標が全く似ていなければ、元ネタと混同するおそれがない可能性が高いです
需要者層が一致するか?
また、需要者層が一致するかも、重要な要素です。
参考になるのは、フランクミュラーの事例です。
「フランクミュラー」は高級腕時計なので、パロディー商品「フランク三浦」とは、需要者が全く異なります。
需要者層が明確に異なれば、需要者が混同しないと判断される可能性があります。
つまり、パロディー商標の登録を取り消せない可能性があります。
例えば、価格が大きく異なれば、需要者層が相違する可能性があります
パロディー商標の指定商品・役務において、使用実績があるか?
パロディー商標の指定商品・役務における使用実績も、1つの判断基準です。
例えば、コーヒーブランド「BOSS」の事例です。
「BOSS」は、コーヒーブランドですが、「ボスジャン」というジャンバーを景品として提供しました。
よって、パロディー商標の指定商品である「被服」に、使用実績がありました。
この事実が、有利に働き、パロディー商標の商標登録を取り消せました。
しつこく、パロディー商標に対応していくことが重要!
残念ながら、明らかに元ネタに依拠した商標でも、商標登録を取り消せない危険性があります。
パロディー商標に対して、100%の確率で、勝てるわけでないこと、留意しましょう。
しかし、商標登録が取り消せないリスクがあるからといって、全く対応しないのは、良くないです。
パロディー商標がたくさん出てくることで、元ネタの著名商標の品位や名声が傷付けられる危険性があるからです。
パロディー商標に対して、しつこく対応していくことが重要です。
そのような毅然とした姿勢を取ることで、他社を牽制することになり、パロディー商標が減るはずです。
パロディー商品を見つけたら、商標法や不正競争防止法による権利行使を検討しましょう。
また、パロディー商標の商標出願・登録を見つけたら、情報提供、無効審判や異議申し立てなどのアクションを考えましょう。
なお、できれば、商標専門の弁理士に相談して、一緒に対応を検討してもらうことをお勧めします。
筆者(すみや商標知財事務所)に相談いただければ、親身になって、一緒に検討します!
弁理士歴12年以上の商標専門の弁理士