【2022年後半】識別力が肯定された審決例

まとめ

・商標が識別力を有するか否か、判断するのは、かなり難しいです

・識別力の判断の感覚を養うためには、多くの事例に接することが重要です

・特許庁の審査では、識別力を有さないと判断されたものの、審判において、判断が覆った審決例を紹介します

はじめに

10年以上、商標専門の弁理士として働いていますが、それでも、商標が識別力を有するか否か、判断するのは難しいです。

特に、担当の審査官の主観によって、判断が変わる印象にあります。

識別力の判断の感覚を養うためには、多くの事例に接することが重要です。

そこで、特許庁の審査では、識別力を有さないと判断されたものの、その後、審判で争って、識別力を有すると認められた審決例を紹介します。

登録になった対象の商標をざっとチェックするだけでも、商標実務の参考になります!

商標「時短トイレ」(不服2022-004881)

本願商標に係る指定商品は、「除菌剤(洗濯用及び工業用のものを除く。)」などになります。

特許庁での審査判断

本願商標「時短トイレ」を、その指定商品に使用したとき、「時間短縮効果が得られるトイレ用の商品」を意味する。

よって、本願商標は、単に商品の品質表示に過ぎないとして、拒絶しました。

審判での判断

本願商標「時短トイレ」から、トイレの何をどのように時間短縮するのか、その意味合いは不明であるとのことです。

よって、直ちに特定の商品の品質を表したものと理解・認識できないと判断しました。

また、業界においても、「時間短縮効果が得られるトイレ用の商品」の意味合いで「時短トイレ」の語を使用している事実も見つけられなかったので、本願商標が識別力を有すると判断しました。

なお、商標「かんたんトイレ」(不服2022-004882)についても、識別力を有さないとして拒絶されましたが、こちらも、審判において判断が覆り、識別力が認められました。

商標「サステナブル EXPO」(不服2022-001375)

本願商標に係る指定役務は、「セミナーの企画・運営又は開催」などになります。

特許庁での審査判断

「サステナブルに関する展示会・博覧会」ほどの意味合いしか生じず、本願商標は役務の直接的な内容表示に過ぎないとして、特許庁の審査では、拒絶されました。

審判での判断

確かに、本願商標から「サステナブルに関する展示会」ほどの意味合いを理解させる場合があると考えました。

しかし、「サステナブル EXPO」の文字が、具体的な役務の質を表示するものとして一般に使用されている事実は見つからなかったとのことです。

このような現状を考慮して、本願商標は、役務の直接的な内容表示に該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「FINE BLACK」(不服2021-009181)

本願商標に係る指定商品は、「鉄及び鋼」などになります。

特許庁での審査判断

特許庁の審査においては、本願商標「FINE BLACK」は、「上等な黒い色」程度の意味合いしか、生じないと判断しました。

よって、本願商標は、商品の品質表示に過ぎないとして、拒絶しました。

審判での判断

「FINE BLACK」の語は、取引者・需要者の間で、具体的な色彩の表示として、親しまれたものとはいい難いと判断しました。

さらに、一般の国語辞典やJISの慣用色名に「FINE BLACK」は掲載されていないとのことです。

よって、本願商標は、商品の品質(色彩)の表示には該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「深層振動」(不服2021-017577)

本願商標に係る指定役務は、「音楽の演奏」などになります。

特許庁での審査判断

非常に低い周波の振動を、「深層振動」と称している事実があるとのことです。

よって、本願商標を、その指定役務に使用しても、「非常に低い周波の振動を用いた音楽の演奏」程度の意味合いしか生じず、単に役務の質を表示しているに過ぎないと判断しました。

審判での判断

本願商標から、漠然と「深い層の振動」といった意味合いを想起させ得るものの、特定の意味を表すとはいい難いので、一種の造語として認識されうると判断しました。

また、「深層振動」が「人間の耳には聞こえない低周波の音」の意味で使用されている実情はあるものの、本願の指定役務を取り扱う業界では、このような意味合いで使用されている実情は見受けられないとのことです。

よって、本願商標は、具体的な役務の質の表示には該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「加振酒」(不服2022-005744)

本願商標に係る指定商品は、「清酒」などになります。

特許庁での審査判断

酒に音響や超音波の振動を加えることで、味や香りがまろやかになることが知られていて、そのような商品が製造・販売されている実情があるとのことです。

よって、本願商標「加振酒」からは、「振動を加えた酒」程度の意味合いしか生じず、商品の品質表示に過ぎないと判断しました。

審判での判断

酒造の業界で、清酒や焼酎等を製造する際に、熟成を促す等の目的で何かしらの振動を与える手法が散見されます。

しかし、当該手法が取引者・需要者に一般的に認識されている事実は見つらず、また、当該手法を表すものとして「加振」の文字が使用されている事実も発見できなかったとのことです。

よって、本願商標に接した取引者・需要者は、その構成全体をもって、特定の意味合いを認識させることのない、一種の造語として認識すると判断しました。

以上より、本願商標は、商品の品質の表示には該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「海老のちから」(不服2022-004798)

本願商標に係る指定商品は、「えび(生きているものを除く。)」になります。

特許庁での審査判断

「海老」の文字は、本願の指定商品を表す語なので、本願商標「海老のちから」は、全体として「海老の効能」ほどの意味合いを生ずるとのことです。

また、飲食料品の分野で、「○○の力(○○には商品や原材料名が入る。)」の文字が使用されている実情があります。

よって、本願商標は、当該商品の効能を誇称して表示したものに該当するとのことです。

審判での判断

「海老のちから」は、例えば、「海老の体力」、「海老の効果」等、各語の語義を結合した多様な意味合いを連想、想起させ得るものであると判断しました。

また、「海老のちから」の文字が、商品の品質、効能を直接的かつ具体的に表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を発見できなかったとのことです。

よって、本願商標は、構成全体として意味合いが漠然としていて、商品の品質の表示には該当しないと判断し、本願商標の登録を認めました。

商標「TOUGH SLIM」(不服2021-008472)

本願商標に係る指定商品は、「スマートフォン用ケース」などになります。

特許庁での審査判断

本願商標からは、「丈夫で耐久性があり、薄いという特徴をもつ商品」程度の意味合いしか、生じないと判断されました。

よって、本願商標は、商品の直接的な品質(内容)の表示に過ぎないと判断しました。

審判での判断

「TOUGH  SLIM」の構成文字全体から、直ちに特定の意味合いを理解させるとはいい難く、商品の品質を直接的かつ具体的に表示したものとして認識されないと判断しました。

また、「TOUGH  SLIM」又は「タフスリム」の文字が、本願の指定商品の業界で、具体的かつ直接的な商品の品質表示として一般に使用されている事実は見つからなかったとのことです。

よって、本願商標は、一種の造語として認識されるものであるから、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「シャリシャリ豆乳」(不服2022-007208)

本願商標に係る指定商品は、「豆乳」や「豆乳飲料」などになります。

特許庁での審査判断

本願商標に接した需要者は、「シャリシャリとした食感の豆乳」や「シャリシャリとした食感の豆乳製品」の意味合いを認識するに過ぎないとのことです。

よって、本願商標は、商品の品質を単に表示したものに過ぎないと判断しました。

審判での判断

「シャリシャリ豆乳○○」のように表現しているレシピ等がわずかに見受けられる。

しかし、これらは原材料である「豆乳」が「シャリシャリ」という食感であることを表しているものではないとのことです。

また、「シャリシャリ」の文字が、豆乳の食感を表す語句として使用されている実情はないと判断しました。

よって、本願商標は、直接的な商品の品質表示には該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

なお、商標「ぷるぷる豆乳」(不服2022-007207)についても、識別力を有さないとして拒絶されましたが、こちらも、審判において判断が覆り、識別力が認められました。

商標「ROBOT Farm」(不服2021-015630)

本願商標に係る指定商品・役務は、「工業用ロボット」や「電子計算機用プログラムの提供」などになります。

特許庁での審査判断

農業・畜産業において、ロボット(機械)を導入・活用している農場・施設を「ロボットファーム」と呼んでいる実情があるとのことです。

よって、本願商標は、「ロボットファーム(ロボットを導入・活用している農場等)に関する商品・役務」程度の意味合いしか有さず、商品・役務の品質表示に過ぎないと判断しました。

審判での判断

「Farm」の文字には、「農場」の他にも、「貯蔵施設」や「多くの物が林立している場所」などの意味もあります。

よって、本願商標「ROBOT  Farm」は、一定の具体的な内容を一般に理解させるものではないとのことです。

また、酪農の業界で、「牛の搾乳ロボットを複数導入した大型酪農法人」の意味合いで「メガロボットファーム」の語を使用している事例があるが、本願商標の指定商品・役務とは異なる分野の事例と考えました。

以上より、本願商標は、商品・役務の品質表示には該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

「てんぷら近藤」のロゴ商標(不服2021-015630)

本願商標は、「」になります。

本願商標に係る指定役務は、「天ぷら料理を主とする飲食物の提供,飲食物の提供に関する情報の提供」になります。

特許庁での審査判断

「近藤」の文字は、全国順位36位のありふれた氏になります。

よって、本願商標からは、「ありふれた氏である近藤氏の取り扱いに係る天ぷらに関する役務」程度の意味合いしか生じず、識別力を有さないと判断しました。

審判での判断

本願商標中の「藤」の文字は、くずしの程度が著しく、直ちに「藤」の文字を表したものと認識できないと判断しました。

そうすると、漢字部分は、なんらかの漢字のくずし文字をモチーフにした図形の一種と認識されるとのことです。

つまり、ありふれた氏の一である「近藤」の文字を表したものとは認識できないと考えました。

よって、本願商標中の漢字部分は、図形としての識別機能を有するので、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「SmartPHR」(不服2022-003968)

本願商標に係る指定商品・役務は、「電子計算機用プログラム」や「医療情報の提供」などになります。

特許庁での審査判断

「PHR」の文字は、「患者の健康記録」の意味を表す語になります。

本願商標から、「機器を用いて収集・管理されたPHRに基づき個人の健康的な生活をサポートするもの」程度の意味合いしか生じないとして、商品・役務の品質表示に過ぎないと判断しました。

審判での判断

「Smart」の文字は、「(動作が)機敏な」「賢い」「(デザインなどが)洗練された」などの複数の意味を有する英語になります。

また、「PHR」の文字も、「患者の健康記録」、「健康管理歴」、「最高心拍数」、「公衆衛生(の)基準」など、複数の意味を有する語になります。

よって、「SmartPHR」の文字は、一定の具体的な内容を一般に理解させるものではないと判断しました。

さらに、「SmartPHR」の文字が、具体的な商品・役務の品質を具体的に表示するものとして一般に理解されている事実は発見できなかったとのことです。

以上より、本願商標は、商品・役務の品質表示には該当しないとして、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「長寿菌のチカラ」(不服2022-006838)

本願商標に係る指定商品は、「野菜・果実・穀類・豆類・海藻・青汁又はギャバを主原料とする粉末状・顆粒状・錠剤状・粒状・ゼリー状・カプセル状又は液状の加工食品」になります。

特許庁での審査判断

「長寿菌」の文字は、「腸内環境を整える酪酸産生菌とビフィズス菌」を表すものとして使用されている実情があるとのことです。

よって、本願商標は、「腸内環境を整える酪酸産生菌とビフィズス菌に有効な働きをする商品」程度の意味合いしか有さず、商品の品質表示に過ぎないと判断しました。

審判での判断

「長寿菌」という特定の菌が存在することは確認できず、「善玉菌」や「悪玉菌」のような俗称と比較しても、一般に知られた語ということもできないとのことです。

「長寿菌」の文字は、一定の意味合いを表すものとして一般に認識され、使用されているものとはいい難いとのことです。

よって、本願商標は、商品の直接的な品質表示には該当せず、一種の造語として認識されると判断しました。

以上より、本願商標が識別力を有すると判断して、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

商標「スマホ眼」(不服2022-002858)

本願商標に係る指定商品は、「眼鏡,眼鏡用容器,コンタクトレンズ,コンタクトレンズ用容器」になります。

特許庁での審査判断

本願商標「スマホ眼」は、「スマホ」の文字と、身体の特定の部位の名称である「眼」の文字の組み合わせになります。

よって、本願商標は、「スマートフォンの長時間の使用により眼の疲れや痛みを感じる状態に適した商品」程度の意味合いしか生じず、商品の品質表示に過ぎないと判断しました。

審判での判断

首の疲れや痛みを引き起こす「ストレートネック」のことを「スマホ首」と称している例などが散見されます。

しかし、このような事例をもって、本願商標が「スマートフォンの長時間の使用により眼の疲れや痛みを感じる状態」を意味するとは判断できないとのことです。

また、「スマホ眼精疲労」や「スマホ老眼」など、「スマホ」の文字と具体的な眼の不具合の状態を表す文字を組み合わせたものが比較的多く使用されているとのことです。

よって、本願商標「スマホ眼」は、直ちに、商品の具体的な品質表示では認識されないので、本願商標の登録を認める旨、判断しました。

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