・「キリンラーメン」を製造・販売していた小笠原製粉社は、飲料大手キリンホールディング社との間で、商標のトラブルになりました
・その結果、50年以上、使用していた「キリンラーメン」の商品名を、「キリマルラーメン」に変更しました
・このようなトラブルから、著名商標を避けたネーミングの重要性と、商標出願の必要性を学ぶことができます
キリンラーメンとは、ソウルフードの即席ラーメン
あなたは、「キリンラーメン」を知っていますか?
「キリンラーメン」は、愛知県碧南市の小笠原製粉社が販売していた即席ラーメンになります。
地元で親しまれている、いわゆるソウルフードでした。
販売されていた当時のパッケージは、以下の通りになります。
キリンホールディングスとの商標「キリンラーメン」の争い
キリンビールでも有名な飲料大手キリンホールディング社との間で、トラブルになりました。
「キリンラーメン」を製造・販売している小笠原製粉社は、商標登録を取得していなかったようです。
一方、キリンホールディング社は、「穀物の加工品」などを指定する以下の商標を1996年6月24日に商標出願して、商標登録を取得しています。
キリンホールディング社は、小笠原製粉社に、商標の中止を求めて、訴訟を提起しました。
これに対して、小笠原製粉社は、主に以下の2つの反論手続き(対抗策)が考えられました。
- 不使用取消審判の請求
- 先使用権を有する旨の主張
キリンホールディング社が、「穀物の加工品」について、使用していなかった場合には、不使用取消審判を請求することで、商標登録の一部を取り消すことができます。
権利主張の根拠となっているキリンホールディング社の商標登録を取り消せれば、小笠原製粉社は、「キリンラーメン」を使用し続けることができます。
実際に、小笠原製粉社は、キリンホールディング社の商標登録に対して、不使用取消審判(取消2014-300549)を請求しました。
しかし、審判において、商標登録を維持する旨、判断が下れました。
小笠原製粉社は、この審決に不服があり、訴訟(平成28年(行ケ)第10093号)を提起しました。
しかし、小笠原製粉社の請求は棄却され、キリンホールディング社の商標登録が維持されました。
子会社が「きのこがゆ」に登録商標を使用していたため、不使用取消審判に失敗しました
1965年に「キリンラーメン」の発売を開始しています。
キリンホールディング社の商標出願よりも、早く「キリンラーメン」を使用していますので、先使用権の可能性が考えられました。
先使用権が認められれば、「キリンラーメン」の使用を継続することができます。
なお、先使用権については、以下の記事をご参照ください。
しかし、ここで、問題なのは、1998年に一時的に生産・販売を中止した点です。
「継続して商標の使用していること」が先使用の要件(条件)になります。
よって、残念ながら、小笠原製粉社は、先使用権の主張を断念したものと推測します。
一時的に商標の使用を中断したので、先使用権の要件(条件)を満たしません
「キリンラーメン」を諦め、「キリマルラーメン」に商品名を変更
小笠原製粉社とキリンホールディング社との紛争は、「キリンラーメン」の商品名を変更することで、和解しました。
小笠原製粉社はキリンラーメンの新名称の公募を行い、その結果、商品名は、「キリマルラーメン」に変更しました。
現在の商品パッケージは、以下の通りです。
また、小笠原製粉社は、名称変更後の「キリマルラーメン」関連の商標登録も取得しています。
著名商標を避けたネーミング【商標「キリンラーメン」の教訓①】
小笠原製粉社の商品ラインナップを見ると、「カピバララーメン」や「オオハシラーメン」も販売しています。
このような商品ラインナップからも分かる通り、動物のキリンのパッケージを使用しているので、「キリンラーメン」という商品名にしたようです。
つまり、キリンホールディングス社の著名商標「キリン」(KIRIN)を真似したわけではないと推測できます。
しかし、安易に商品名に著名商標を含めると、予想していないトラブルが生じる危険性があります。
トラブルを避けるため、商品やサービスのネーミングの際には、著名商標を回避するよう、注意しましょう。
SNSによる炎上リスクもあるので、他人の商標を真似したと思われないネーミングが大切です!
早めに商標出願すべき【商標「キリンラーメン」の教訓②】
小笠原製粉社は、キリンホールディングス社の商標出願よりも早く商標を使用していました。
もし、キリンラーメンを販売して、すぐに商標出願していれば、今回のトラブルは防げた可能性が高いです。
50年以上、使っていて、多くの人に親しまれた「キリンラーメン」の商品名を変更したのは、断腸の思いだったでしょう。
このような事態を避けるためにも、自社にとって重要な商品の名称は、きちんと商標出願する必要があります。
商標の世界は先願主義(早い者勝ち)なので、早めの商標出願が重要です!
商標のトラブルについては、商標専門の弁理士や商標(知財)に強い弁護士に相談!
思っている以上に、商標のトラブルに巻き込まれることが多いです。
商標のトラブルについては、商標専門の弁理士や商標(知財)に強い弁護士に相談しましょう。
筆者(すみや商標知財事務所)にご相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士