ルブタン社のハイヒール靴の色彩商標の判例紹介

まとめ

・ルブタン社のハイヒール靴の色彩商標が、識別力・特別顕著性を獲得していないとして、商標登録が認められませんでした

・シンプルな商標ほど、商標登録を認めると、他者の選択の幅を狭めて、公益を害する危険性が高まります

・公益性の例外として商標登録が認められるのは、かなりハードルが高いです

事件の概要

商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。

今回は、知的財産高等裁判所の令和4年(行ケ)第10089号の判決、クリスチャン ルブタンのハイヒール靴の色彩商標の判例を紹介します。

あなたは、ルブタン社の女性用ハイヒール靴のデザインを知っていますか?

ルブタン社の女性用ハイヒール靴は、統一して、靴底が赤色になっています。

(クリスチャン ルブタンの公式ウェブサイトより)

そこで、ルブタン社は、以下の通り、女性用ハイヒール靴の靴底の赤色の色彩商標を出願しました

(商願第2015-29921号)

なお、指定商品は、「女性用ハイヒール靴」になります。

しかし、特許庁の審査において、本願商標は識別力を有さない、簡単に言うと、特徴がないとして拒絶されました。

また、使用によって、本願商標が識別力を獲得した旨、主張しましたが、それも認められませんでした。

ルブタン社は、拒絶査定不服審判を請求しましたが、判断が覆らずに、拒絶査定を維持する旨、審決が下されました。

この審決に対しても不服があり、訴訟を提起したのが、本件の裁判になります。

ファッション業界では有名なルブタン社の女性用ハイヒール靴の色彩商標について、登録が認められるか、争われました

裁判所の判断

あなたなら、この色彩商標の識別力(商標としての特徴性)について、どのように判断しますか?

この色彩商標から、ルブタン社のハイヒール靴を想起するとして、商標登録を認めますか?

結論から言うと、本件の色彩商標は、公益性の例外として認められる程度の高度の識別力を獲得していないとして、裁判所は、原告の請求を棄却しました。

原告であるルブタン社は、売上高、雑誌での報道内容、テレビドラマ・映画での使用、著名人の着用状況などを示して、本願商標が識別力を獲得している旨、主張しました。

しかし、裁判所は、以下のような理由で、原告の主張を採用せずに、公益性の例外としての商標登録を認めませんでした。

本願商標の構成態様の特異性

本願商標の色彩の赤色は、基本色の1つで、ありふれたものであって、特異な色彩ではないとのことです。

また、原告が原告ブランドを立ち上げた1991年後半より以前から、赤色の靴底の女性用ハイヒール靴の写真が複数掲載されていたとのことです。

よって、ハイヒール靴の靴底が赤くなっている点も、特異なものではないと判断しました。

「Christian Louboutin」のロゴの記載

原告商品は、中敷きに「Christian Louboutin」のロゴが付されています。

靴底の赤色ではなく、こうした文字の表示からも、原告の女性用ハイヒール靴と認識されうるとのことです。

他社の赤色の靴底のハイヒール靴の存在

靴底が赤色の女性用ハイヒール靴は、原告商品以外にも少なからず流通しているとのことです。

なお、原告の商標登録を認めると、第三者がこのような商品形態を使用できなくなる危険性、つまり、公益を害する危険性があります。

アンケートの調査結果

20歳から50歳までの女性を対象としたアンケート結果によると、本願商標を原告ブランドであると想起した回答者は、51.6%程度とのことです。

本件アンケートの調査対象は、主要都市に居住する女性に限定したにもかかわらず、本願商標の認知度は半数程度にとどまりました。

調査範囲を日本全国に広げると、より認知度が低下することが予想され、需要者における本願商標の認知度は限定的とのことです。

公益性の例外として商標登録を認める程、高い識別力・著名性を獲得していないと、裁判所は判断しました!

判例から学べること

商標登録を取得できれば、自分が独占的に使用できて、さらに、他者の商標の使用も排除できます。

商標権は強力な権利なので、シンプルな商標ほど、商標登録を認めると、他者の選択の幅を狭めて、公益を害する危険性が高まります。

確かに、本願商標のハイヒール靴底の赤色のデザインは、ファッション業界では、有名です。

しかし、シンプルなデザインなので、公益性の例外として独占的な使用を認めるか、厳しく審査・判断しました。

その結果、裁判所は、商標登録が認められないという結論に至りました。

シンプルな商標ほど、例外規定による商標登録のハードルは高く、業界内で有名であっても、商標登録できない可能性があります。

なお、現在、日本において、単色の色彩商標で、商標登録が認められた事例はありません。

以下の記事で紹介している判例でも、色彩商標の登録が認められませんでした。

シンプルな商標ほど、商標法3条2項の例外規定の適用について、厳しく審査・判断されます。現に、単色の色彩商標で、商標登録が認められた事例はありません

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