類似する先行商標が存在した場合、どのようなリスクがありますか?
同一の分野で、類似する先行商標があると、商標登録できません!さらに、そのような商標を使用すると、商標権侵害で、トラブルになるリスクがあります。
そのため、実務上、商標が類似するかの判断は、極めて、重要です。
なお、商標の類否の判断方法について、以下の記事で、詳しく紹介しています。
【商標の類否判断】重要!商標が似ているか、どう判断する?商標から一部分が分離・抽出して認識されることがありますが、近年、傾向が変わってきています。
商標が一体不可分と認識されて、商標が類似しないと判断されやすくなっています。
この記事では、拒絶査定不服審判で、一体不可分と認識されて、商標が非類似と判断された事例を教えます。
また、この記事を読めば、近年の商標の類否判断の傾向が分かります。
・すみや商標知財事務所の代表弁理士(登録番号18043)が執筆しています
・商標専門の弁理士として、12年以上、働いています
・毎月、最新の審決例をチェックしています
・初心者向けに分かりやすく説明するのが、得意です
一昔前は、商標から一部分が分離・抽出して認識されやすかった
商標が類似するか、審査官によって、判断が異なると困ります。
そのため、特許庁は、審査基準で、以下のように、商標の観察方法を定めています。
商標の類否においては、全体観察のみならず、商標の構成部分の一部を他人の 商標と比較して類否を判断する場合がある。
よって、審査基準上も、商標から一部分を分離・抽出して、商標が類似すると判断することが許されています。
一昔前までは、商標の一部分が一致すれば、商標が類似すると判断され、反論しても、判断が覆りにくかったです。
実際、審決例を調べてみると、昔の方が、商標の類否が「厳しく」判断されています
近年では、一部分が一致する商標でも、非類似と判断されることがある
近年は、商標の類否判断の傾向では、商標が非類似と認められやすくなりました。
つまり、一部分が一致する登録商標が存在しても、商標が類似しないと判断されることがあります。
特に、拒絶査定不服審判で、そのような事例が頻出しています。
拒絶査定不服審判って、何ですか?
拒絶査定不服審判とは、特許庁の審査で、拒絶査定になった出願人が、不服を申し立てるための制度です
一体不可分と認識されるので、非類似と判断された商標の審決例【6選】
一体不可分と認識されるので、非類似と判断された商標の事例が知りたいです
一体不可分と認識されて、非類似と判断された商標の審決例が、多数、存在します。
参考までに、6つの審決例を紹介します!
本願商標 | よろず牛 | La Bouquet | dress | VapoFan | ||
引用商標 | よろず | ブーケ | RAPTOR | VAPO | ||
共通する部分 | よろず | Bouquet(ブーケ) | LUKA | dress(DRESS) | RAPTOR | Vapo(VAPO) |
商標「よろず牛」vs 商標「よろず」
本願商標は「よろず牛」(商登第6832161号)で、引用商標は「よろず」(商登第1967590号)です。
本願商標と引用商標は、「よろず」が共通しています。
拒絶査定不服審判(不服2023-12390)の審決によると、以下のように、判断しました。
本願商標は、その構成文字全体として「銘柄牛などの一種(の名称)」の意味合いを認識する一体不可分のものであり、その構成中「よろず」の文字部分を分離、抽出し、該文字部分を他人の商標と比較すべきものではないといわなければならない。
よって、両商標が類似しないという結論です。
商標「La Bouquet」vs 商標「ブーケ」
本願商標は「La Bouquet」(商登第6808160号)で、引用商標は「ブーケ」(商登第1671532号)です。
本願商標と引用商標は、「Bouquet(ブーケ)」が共通しています。
拒絶査定不服審判(不服2023-21107)の審決によると、以下のように、判断しました。
本願商標に接する取引者、需要者は、「La Bouquet」の文字を一体不可分のものと認識、理解するとみるのが相当であって、他に構成中の「Bouquet」の文字のみが、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。
よって、両商標が類似しないという結論です。
「MT METATRON LUKA」のロゴ商標 vs 商標「ルカ/LUKA」
本願商標は「」(商登第6820288号)で、引用商標は「」(商登第4108341号)です。
本願商標と引用商標は、「LUKA」が共通しています。
拒絶査定不服審判(不服2024-860)の審決によると、以下のように、判断しました。
本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「MT」及び「METATRON」の文字を捨象し、「LUKA」の文字部分のみに着目して取引に当たるというよりは、むしろ本願商標の構成文字部分全体をもって取引に資されるというのが相当である。
よって、両商標が類似しないという結論です。
商標「dress」vs 商標「DRESS FLOWER」
本願商標は「dress」(商登第6838917号)で、引用商標は「」(商登第6523489号)です。
本願商標と引用商標は、「dress(DRESS)」が共通しています。
拒絶査定不服審判(不服2023-20437)の審決によると、以下のように、判断しました。
引用商標のかかる構成及び称呼においては、ことさらに、その構成中、下段の「FLOWER」の文字部分を捨象して、上段の「DRESS」の文字部分のみに着目し、これのみをもって取引に資されるというよりは、むしろ構成文字全体をもって一体不可分のものとして認識、把握され、取引されるとみるのが自然である。
よって、両商標が類似しないという結論です。
「SMK RAPTOR」のロゴ商標 vs 商標「RAPTOR」
本願商標は「」(商登第6827592号)で、引用商標は「RAPTOR」(国際登録1292171)です。
本願商標と引用商標は、「RAPTOR」が共通しています。
拒絶査定不服審判(不服2024-1448)の審決によると、以下のように、判断しました。
本願商標の構成中「SMK」の文字部分及び「RAPTOR」の文字部分をそれぞれ分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標1及び引用商標2とが類似するものとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、妥当とはいえない。
よって、両商標が類似しないという結論です。
商標「VapoFan」vs 商標「VAPO」
本願商標は「VapoFan」(国際登録1611178)で、引用商標は「VAPO」(商登第4388164号)です。
本願商標と引用商標は、「Vapo(VAPO)」が共通しています。
拒絶査定不服審判(不服2023-650041)の審決によると、以下のように、判断しました。
本願商標は、「VapoFan」の構成文字が不可分一体のものとして認識されるものといわなければならない。してみると、本願商標の構成中「Vapo」の文字部分を分離、抽出した上で、本願商標と引用商標とが類似するとした原査定の判断は妥当なものとはいえない。
よって、両商標が類似しないという結論です。
【注意】特許庁の審査では、依然として、類似の判断の可能性がある
注意してほしいのは、拒絶査定不服審判まで、争ったということは、特許庁の審査では、商標出願が拒絶されたということです。
つまり、審判で判断が覆ったケースは、特許庁の審査では、商標が類似していると判断されています。
特許庁の審査においては、部分的に一致する登録商標が存在する場合、商標が類似すると判断される危険性があります。
拒絶査定不服審判を請求するのは、費用や労力も掛かります。障害となりそうな先行商標が見つかった場合、費用などを考慮した上で、不服審判まで争うつもりか、検討しましょう
商標が類似するか、判断に迷ったら、商標専門の弁理士に相談!
実際に、先行商標をチェックすると、商標が類似するか、判断に迷うことは、多々あるでしょう。
経験や知識がないと、商標が類似するか、判断するのが、難しいです。
また、説明してきたような近年の判断傾向も、考慮する必要があります。
判断に迷ったら、一人で悩まずに、商標専門の弁理士に相談しましょう。
筆者(すみや商標知財事務所)に相談いただければ、親身になって、一緒に検討します。
業界では珍しい「商標専門」の弁理士
・一昔前は、商標の一部分が一致すれば、商標が類似すると判断され、反論しても、判断が覆りにくかったです
・しかし、近年の拒絶査定不服審判において、一部分が一致する登録商標が存在しても、商標が非類似と判断された事例が頻出しています
・ただし、特許庁の審査では、依然として、商標が類似すると判断される危険性があるので、注意です