・本願商標「温石灸」が、「温めた石を用いた灸(施術)」ほどの意味合いしか有さず、役務の内容表示に過ぎず、識別力を有さないと裁判所は判断しました
・商標が識別力を有するか否か、検討する際には、業界内の実情を考慮しましょう
事件の概要
商標の実務で、参考になる判例・審決例を紹介していきます。
今回は、知的財産高等裁判所の令和4年(行ケ)第10002号の判決、商標「温石灸」の判例を紹介します。
原告は、44類の役務「あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,はり治療,カイロプラクティック,医療情報の提供,栄養の指導」を指定して、以下の商標を出願しました。
しかし、本願商標は、「身体を温めるための石を使用したきゅう」のような意味合いしか有さず、指定役務との関係で、役務の質(内容)を表示したものに過ぎないので、識別力を有さないとして、特許庁の審査で拒絶されました。
拒絶査定に対して不服審判を請求しましたが、やはり本願商標が識別力を有さないと判断されて、拒絶査定を維持する旨、審決が下されました。
この審決に対して不服があり、訴訟を提起したのが、本件の裁判になります。
裁判所の判断
あなたなら、本願商標「温石灸」の識別力について、どのように判断しますか?
結論から言うと、本願商標が、その指定役務について役務の質(内容)を表示しているに過ぎず、識別力を有さないとして、裁判所は、原告の請求を棄却しました。
原告は、原告が「温石灸」の語を使用して行っている施術はオリジナルで、「温石灸」の語は造語で、出所識別機能を有する旨、主張しました。
しかし、本件の業界において、「温石」の語が、「温めた石」ほどの意味合いで使用されている上、温めた石を身体の特定の位置に置き、熱の刺激による効果を得る施術(温石を用いた施術)が広く行われていると裁判所は判断しました。
また、様々な材料や道具等を使用して施術する灸が存在し、このような灸が、使用される材料や道具等の名称と「灸」の語とを組み合わせた名称で称されている実情があると判断しました。
このような現状から、「温石灸」の語が指定役務に使用された場合に、取引者・需要者には、「温めた石を用いた灸(施術)」ほどの意味合いを有する語で、役務の質(内容)を表示したものと認識されると裁判所は判示しました。
判例から学べること
原告は、「温石灸」の語を使用して行っている施術はオリジナルで、「温石灸」の語は造語と主張しました。
しかし、実際には、温石を用いた施術は広く行われて、「温石灸」は「温めた石を用いた灸(施術)」程度の意味合いしか、有さないと、特許庁・裁判所が判断しました。
商標が識別力を有するか否か、検討する際には、インターネットなどで調べて、業界内の実情を考慮しましょう。